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物語序章 第一版 45章

鉄の巨人たちの誕生


 東京郊外の広大な平野に、冷たい風が吹いていた。

 遠くには新しく整備された線路が伸び、貨車が鉄材を運び込んでくる。

 そこに建設されつつあるのは、日本で初めての「建設用重機開発工場」である。

 もともと産業用トラックを製造していた工場を大きく拡張し、

 国の再建を支える“鉄の巨人”たちを生み出す場所へと変貌しようとしていた。


 「これほどの規模の建物を作るなんて、誰が想像しただろうな、数年前までは木造の建築物しかなかったんだ。」

 現場の監督が、図面を巻き取りながら呟いた。

 横で若い工員が汗を拭い、笑う。

 「けど、俺たちの手で作れるってのは、すげぇことですよ。今までは鍬と鋤だけだったんですから」


 そのとき、背後から静かな声がした。

 「その通りだ。人の力には限りがある。だからこそ、機械を作るのだ」

 明賢だった。風に揺れる外套の裾を押さえ、彼は広い工場敷地を見渡していた。

 鉄の匂い、油の匂い、遠くから聞こえるハンマーの音。

 すべてがこの時代には異質なものだったが、彼の瞳は迷いがなかった。


 「明賢様、まずはどの重機から手をつけましょう?」

 技官の一人が問う。

 明賢は少し考え、短く答えた。

 「地を動かすものだ。ブルドーザーを最初にする」


 それは、ただの機械の製造ではない。

 “国を形づくる第一歩”だった。

 道路も港も、ダムも、都市も――それらを作るための基礎となる力。

 重機とは、人の手に代わって国土を動かすための新たな武器である。


 電子制御の技術はまだ未発達で、使用できるのはネットから購入したパソコンや測定器程度。

 それでも、彼らには知識があった。旋盤も、鍛造も、組立も、

 そして何より、明賢が築いた教育体系によって育てられた優秀な技術者たちがいた。


 「資料で見たようなセンサーもコンピュータ制御もない……ですが、

  機械式の油圧制御なら作れます。今の技術でも、かなり正確に動かせるはずです」

 若い技術者が言うと、明賢は満足げに頷いた。

 「いい。人の感覚で操る鉄の腕、それもまた美しい」


 電装品は鉛蓄電池で点灯し、操作は全てレバーとペダル。

 エンジンはトラック用のディーゼル機関を改良し、どんな地形でも動けるように設計された。

 「電子がなくても、歯車と油圧があれば国は動く」

 そう言って、明賢は静かに設計図を机に置いた。


 夜になると、工場は昼よりも明るくなった。

 溶接の火花が飛び、鋼鉄を叩く音が響く。

 工員たちは交代で休憩を取りながら、眠ることなく働いた。

 誰もが、自分の手で未来を作っているという自覚を持っていた。


 「この機械が動けば、山を削り、川を変え、道を築ける」

 そう言って笑う若い職人の手は、油にまみれながらも震えていた。

 「俺たちが作るのは、ただの鉄の塊じゃない。

  人の夢を運ぶ機械だ」

 その言葉に、年長の技師が静かに頷く。

 「そうだ。明賢様の言う“国づくり”とは、こういうことなんだ」


 やがて、試作第一号の構想が固まった。

 名は「日本国建機1号ブルドーザー」。

 エンジンの試運転に火が入ると、地鳴りのような低い唸りが工場を震わせた。

 誰もが息を呑む中、明賢はただ静かに呟いた。

 「この音を忘れるな。これが未来の鼓動だ」


 鉄の匂いとともに、東京郊外の夜空に煙が立ち上る。

 重機開発工場――それは、戦のためではなく、国を築くための“兵器”を作る場所だった。

 明賢の掲げる「人の力を、国の力に変える」という理想が、

 ここに確かに形を取り始めていた。


地を拓く者たち


日本国建機一号 ブルドーザー「大地」 一世代型


 まだ朝霧が残る試験場に、鉄の塊が鎮座していた。

 全長は五メートルを少し超え、重量は十数トン。

 分厚い鋼鉄板に覆われ、前面には巨大なブレードが光を弾いている。

 「日本国建機一号 ブルドーザー“大地” 一世代型」――

 それが、日本における本格的な建設用重機の第一歩だった。


 「始動準備完了!」

 若い整備士が叫ぶ。明賢はうなずき、ディーゼルエンジンのスイッチを押す。

 轟音とともに黒い煙が吐き出され、まるで眠りから覚めた獣のように地面を震わせた。

 エンジンは現代の設計思想を参考にしつつも、電子制御が使えないため完全な機械式。

 油圧レバーを握ると、ブレードがゆっくりと持ち上がり、

 まるで生き物のように唸りを上げながら土を押し進めていく。


 「動いたぞ……!」

 整備士の一人が歓声を上げた。

 誰もが言葉を失い、轟音に包まれながらその鉄の動きを見つめた。

 人の力では数日かかる掘削を、わずか数分でやってのける。

 “文明の槌音”が、大地そのものを変えていくようだった。


 「これで、我々の手がさらに遠くまで届く」

 明賢はそう呟き、ブレードが掘り進めた土の丘を見つめた。

 この一号機が、後に東京や大阪の再開発、堤防や空港の造成など、

 あらゆる国家基盤の礎を築くことになるとは、誰もまだ知らなかった。



日本国建機二号 パワーショベル「荒神」 一世代型


 ブルドーザーの成功からわずか数ヶ月後、

 工場の一角では次の鉄の巨人――日本国建機二号 パワーショベル「荒神」 一世代型――の組み立てが進んでいた。

 「大地が押しならすなら、荒神は掘り起こす」

 それが設計陣の合言葉だった。


 動力は同型のディーゼルエンジン、しかし油圧シリンダーは新規設計。

 電子制御なしで精密動作を実現するため、

 職人たちは旋盤で一つひとつのバルブとピストンを磨き上げた。

 「この精度を出すのに、何度図面を引き直したことか……」

 主任技師の清助が苦笑した。

 彼は元教師であり、今や日本の重工業技術を導く“教育の成果”そのものだった。


 初運転の日、鋼鉄のアームが天を指した。

 重油の匂い、金属の軋み、そして油圧が満ちる独特の唸り。

 「アーム上昇、良し……旋回、良し!」

 試験場の地面に大きな穴が掘られ、掘り起こされた土砂が音を立てて崩れる。

 「こいつは……まるで地を喰う獣だな」

 現場の一人がそう呟くと、明賢は満足げに微笑んだ。


 「これで我々は山を穿ち、川を変えられる」

 彼の声には確信があった。

 この“荒神”こそが、後に日本国中のダム・地下鉄・港湾建設の現場で

 「鉄の神」と呼ばれる存在となっていく。



 この日以降、明賢のもとには次々と開発計画書が届く。

 クレーン、ロードローラー、ホイールローダー――

 すべてがまだ図面の上にあるだけだったが、

 彼はそれを見て静かに言った。


 「この国は、もう人の手ではなく、人の知恵で築かれる」


 夜の工場にエンジンの余熱が漂う。

 人々の希望と汗が混ざり合い、

 日本国建機の名を冠した重機たちは、次々と産声を上げようとしていた。

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