物語序章 第一版 42章
弾薬の共通化と製造体制の確立
明賢は、軍事技術の核心にある弾薬の規格化を最優先課題とした。
多口径の混在は補給の混乱を生む。
部品や薬莢の寸法、装填方式、弾頭の形状が異なれば、同じ軍であっても互換性を失い、戦場では致命的な遅れを招く。
この問題を根本から絶つために、日本国共通弾薬規格体系を制定した。
全ての兵器は、この規格群のいずれかに属することを義務づけられた。
弾薬の規格系列(JIS-MIL共通仕様)
区分名称代表的用途備考
20mm小型機関砲弾航空機・車載機関砲・艦載近距離防衛高速連射型、近距離支援向き
40mm中型機関砲弾対地・対艦支援、陸上機関砲榴弾・曳光弾など多種運用可能
60mm大型機関砲弾艦載・固定砲座陸海共用規格第一号
80mm小型砲弾牽引式軽榴弾砲、車載砲部隊火力支援向け
100mm中型砲弾中口径野砲・艦砲兼用最も生産量の多い主力規格
120mm大型砲弾野戦榴弾砲、要塞砲破壊力と携行性の均衡
160mm榴弾砲弾重榴弾砲・攻城砲対陣地・対艦砲撃兼用設計
200mm大型榴弾・艦砲弾巡洋艦主砲・要塞・海岸砲高爆・徹甲弾型を運用
250mm中型艦砲弾巡洋艦級主砲長距離砲撃対応弾
350mm大型艦砲弾戦艦主砲統一砲塔設計を想定
400〜500mm超大型艦砲弾要塞・試験的戦艦主砲限定生産・威信兵器用
これらの弾薬は全て**「共通規格コード(JIS-NAM)」**で管理される。
薬莢・信管・弾体構造・外径寸法・弾薬箱の形状までもが標準化され、製造・輸送・装填・補給の全工程で統一された互換運用が可能となった。
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■ 弾種の多様化
各口径に対して、弾頭の性質ごとに複数のモデルが存在する。
主に以下のような分類で設計される:
•榴弾(HE):対人・対陣地用。爆風効果を重視。
•徹甲弾(AP):厚装甲貫通用。艦砲・対戦車砲で運用。
•徹甲榴弾(APHE):汎用型。野砲や車載砲の標準装備。
•照明弾・曳光弾:夜戦・誘導・観測支援用。
•訓練弾:教育・実験用の非爆発型。
弾種ごとに識別カラーコードが決められ、製造時の塗装で一目で見分けられるようになっている。
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■ 製造拠点の配置
弾薬製造工場は、分散・冗長性・安全距離を理念に全国配置された。
特に「艦砲用」と「陸砲用」で地理的に役割を分けることで、戦時被害時の復旧性を高めている。
•瀬戸内海沿岸部(広島・呉・徳山周辺)
→ 艦砲・大口径砲弾の生産拠点。
大型造船所と連携し、艦砲弾の試験・積載試験を実施可能。
船舶用補給港が近く、港湾輸送も容易。
•内陸・主要幹線道路沿い(関東〜中部〜九州)
→ 榴弾砲・機関砲など中小口径弾の製造拠点。
輸送トラックによる陸上搬送を前提とした立地。
各県単位で防災規模を考慮し、主要都市から30km以上離した安全地帯に設置。
•北陸・北海道地域
→ 試験場および寒冷地耐久試験の専門拠点。
雪・氷環境下の性能検証を担当。
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■ 抗堪性と分散生産
日本全国に複数の工場を点在させ、一拠点が破壊されても供給が止まらない設計を採用。
各工場は「弾体」「薬莢」「信管」「組立」「試験」の工程を独立させ、半製品を相互供給する方式を取っている。
また、主要拠点には地下保管庫が設けられ、完成弾薬・資材・火薬が防護隔壁内で管理される。
災害時には遮断される耐爆扉が設けられ、安全性を最優先とした設計となっている。
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■ 管理と補給
全ての弾薬には製造番号・ロット番号が刻印され、中央データベースで追跡可能。
軍・海軍・海兵隊の弾薬は共通規格でありながら、用途別の割当コードで在庫を分類する。
これにより、前線補給所は共通の弾薬を装備しながらも、混用・誤装填の危険を防ぐことができる。
また、港湾・鉄道・道路による三層輸送ルートが確立され、平時・有事ともに24時間以内の補給を実現する。
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■ 明賢の方針と理念
「銃も砲も、弾が無ければただの鉄塊である。
弾が統一されれば、国の力も一つにまとまる。
戦の時代ではなくとも、規格は国家の言語である。」
明賢の言葉は、この弾薬体系の精神そのものだった。
統一された弾薬は兵站を滑らかにし、製造・整備・教育までも一つの体系に繋がった。
この「規格化」はやがて産業全体に波及し、日本国の工業文明を支える基盤となっていくのである。




