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物語序章 第一版 38章

国家の秩序を守る学び舎 ― 警察学校の設立と国家機密保護法


信頼の再建


帝都零時査察の一件は、国家に二つの問いを残した。

ひとつは「誰が正義を守るのか」。

もうひとつは「その正義をどう学ばせるのか」である。


明賢は静かに結論を出した。


「人の正義は、鍛えねば鈍る。

国家の正義は、教えねば腐る。」


この言葉と共に、彼の提案によって**警察学校**が設立される。



警察学校の理念


警察学校の目的は、力を持つ者に**「自制と理性」**を教え込むことであった。

ただ犯人を追う者ではなく、社会を導く者としての警官を育てる。

「法は刃ではなく秤である」という信念を根幹に据え、

全教科が「国益」「論理」「法理」の三つの柱で編成された。



【学科と教育課程】


教育は三年間で行われ、以下の課程が必修とされた。

1.国家法規と法理演習

 刑法・民法・行政法・警察法を体系的に学ぶ。

 過去の不正事例をケーススタディとして扱い、判断力と倫理観を養う。

2.心理学・人間理解学

 尋問技術よりも「人間の心を読む力」を重視。

 犯罪心理だけでなく、民の感情や社会構造の理解を深める。

3.市民関係学

 庶民との接触の仕方、対応礼法、苦情処理法を訓練。

 現場実習では実際の町に出て、民と対話することが義務づけられた。

4.武道と身体訓練

 かつての武士文化を継承し、剣術・逮捕術・護身術を体系化。

 力の制御と緊張下での判断を訓練する。

5.情報倫理・通信防衛学

 情報局・公安と連携し、通信機器・記録媒体・データ取扱いの正しい手順を習得。

 これにより、警察が自ら情報を漏らすことのないよう徹底された。


卒業後、成績上位者は帝都警視庁または公安へ。

中位者は地方警察、下位者は訓練教官として再び学校へ戻される仕組みがとられた。

学びと現場が循環する、閉じない教育体系である。



【国家機密保護法の制定】


同時に、国家はもう一つの制度を立ち上げた。

それが**国家機密保護法**である。


法の目的は単純で明快――

**「知るべき者だけが知り、守るべき者は守る」**こと。



法の骨子

1.機密等級制度の導入

 国家の情報は「甲・乙・丙・丁」の四段階に分類。

 甲等級(最高機密)は明賢・家康・各省長官のみ閲覧可能。

 乙等級は各省幹部、丙等級は公務員・研究者、丁等級は一般行政情報に限られる。

2.情報取扱者登録制

 すべての公務員・研究員・警察官は、情報取り扱い資格を取得しなければならない。

 資格は一年ごとに更新され、更新には心理検査と倫理試験が課せられる。

3.情報漏洩罪の制定

 意図的な機密漏洩・外国勢力への協力・暗号破壊行為は国家反逆罪に準じ、

 最高刑は終身拘禁とされた。

 ただし誤送信・軽過失の場合は教育的処分と再訓練が行われる。

4.内部通報保護制度

 不正や違法を内部から報告した者は、身分・生活を国家が保護する。

 報告先は公安局の特別監察室のみが認められ、

 その報告は絶対秘匿される。

5.監査・履歴保全制度

 すべてのデータ転送・記録・閲覧には識別コードが付与され、

 誰が、いつ、何を見たかが永久記録される。



【法と教育の融合】


警察学校ではこの法律の運用を徹底的に叩き込まれる。

学生たちは「正義を学ぶ者」ではなく、

「正義を守る者」として育てられた。


明賢は講義の初日にこう語ったという。


「真の秩序は、力では築けない。

無知な正義は、暴力と変わらぬ。

知と法を備えた者のみが、国を守るに足る。」


この理念は後に倫理教育規範として発展し、

軍・行政・司法すべてに共通する基礎教育へと組み込まれていく。



【結語:理性ある国家】


こうして国家は、力ではなく理性で動く構造を手に入れた。

警察が学び、公安が見張り、情報局が整理し、国民がそれを信じる。

それは決して完璧な秩序ではない。

だが、**「自らの正義を点検できる国家」**こそ、明賢が目指した理想であった。



理性の刃 ― 司法制度の整備


力の時代の終焉


かつて、罪を裁くのは刀だった。

武士の威光、領主の命令、感情と立場が正義を決めていた。

だが、明賢はそれを“危うい正義”と呼んだ。


「力による裁きは一瞬で終わる。

だが理性による裁きは、百年後の秩序を残す。」


警察が秩序を保ち、公安が内部を監視し、

その上に、国家の最終判断を下す器――司法制度が置かれることとなった。



裁判所制度の創設


国家の法を運用する根幹として、**裁判所**が設立された。

裁判所は階層構造を持ち、地方から中央まで法の流れが一本化された。


裁判所の構造

1.地方裁判所

 各県に設置され、民事・刑事を問わず第一審を担当。

 判事は地方長官の推薦を受け、司法省が任命。

 民の訴えを最も近くで聞く場として設計された。

2.高等裁判所

 主要都市に設けられ、地方裁判所の判決に不服がある場合に控訴を受ける。

 法解釈の統一を目的とし、複数の判事による合議制を採用。

3.最高裁判所

 東京・霞ヶ関地区に設置。国家法の最終判断を担う。

 構成員は長官一名、判事八名。

 明賢の直轄下にある「司法顧問会議」が法理整合性を監督。



検察庁の創設


法を動かすのは裁判官ではない。

法の光を届ける者――それが検察である。

**検察庁**は、

犯罪の調査・訴追・証拠提出を専門とする独立組織として設立された。


検察の役割

•起訴権の独立:警察・公安・軍の影響を受けず、事件の立件を自由に判断。

•公正証拠の原則:証言・物証・記録すべてが審査され、捏造が発覚した場合は即時失職。

•法務審査局との連携:法改正や新制度の提案を行い、国家の法体系を時代に合わせて更新。


検察官は全員、司法大学校の出身者であり、

「一文一句の重さを理解する者」として教育される。



刑法・民法・行政法の制定


司法制度の骨格として、日本国政府は三大法典を制定した。


1. 刑法

国家と国民を守るための「行動の境界」を定義する法。

殺人・窃盗・放火・暴行などの一般犯罪のほか、

新たに次の犯罪区分が追加された。

•情報犯罪(機密漏洩・通信妨害・暗号破壊)

•経済犯罪(汚職・公金横領・虚偽報告)

•国家反逆罪(国家分裂・対外協力・偽造紙幣の発行)

刑罰は更生を重視し、罰金・労役・拘禁・再教育プログラムの順に段階化された。

しかし大量殺人や国家反逆罪だけは別物として扱われ即刻死刑となる


2. 民法

民と民との間の権利関係を明確化。

土地の所有・契約・婚姻・相続・商取引などを法により統制。

「身分ではなく契約で秩序を築く」ことを理念とし、

封建的な上下関係の完全撤廃を宣言した。


3. 行政法(Administrative Code)

政府・地方官庁・役人の行動規範を明記。

職務権限の範囲、予算使用、命令系統を条文化。

公務員が法に従わなければ、即座に解任・起訴が可能となる。



裁判の形式と公開


裁判は**「公開の原則」**に基づく。

秘密裁判は禁止され、国民は傍聴席から審理を見守ることができる。

ただし機密事件・軍事裁判は国家安全保障審査室にて非公開で実施される。


判決は必ず書面で残され、

データベースに登録されることで、

後世の法学研究・判例分析に利用される仕組みが作られた。



司法省の設立


すべての法務・裁判・検察を統括する官庁として**司法省(Ministry of Justice)**が新設された。

司法省は立法府(議会)と行政府(内閣)から独立し、

国家の「第三の柱」として立つ。


内部には次の主要局が設けられた。

•法務局(法改正・法令整理)

•検察局(犯罪訴追)

•裁判局(裁判官・書記管理)

•刑務局(矯正・労役・再教育)

•登記局(土地・会社・戸籍の記録)


司法省の象徴は、均衡を示す二枚の剣を支える秤。

片方の剣は「罰」、もう片方は「赦」。

それらを支えるのは理性――法の均衡そのものである。



司法の誓い


裁判官・検察官・弁護士はいずれも任命式で誓いを立てる。


「我らは感情に流されず、権威に屈せず、

ただ法の声に耳を傾ける。

その声が微かであっても、

それを聞ける国であるように。」


この言葉は、裁判所の正面玄関に刻まれた。



明賢の総括


司法制度が整った夜、明賢は日誌にこう書き残している。


「国家の剣は二つある。

一つは軍の剣、もう一つは法の剣。

前者が外を守り、後者が内を正す。

どちらかが鈍れば、国は必ず崩れる。」


その言葉通り、司法はこの国の“内なる防衛”として機能し、

以後、日本国の百年にわたる安定を支える礎となっていった。


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