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物語序章 第一版 36章

外交政策 ― 閉ざされた門、開かれた眼


鎖国と情報防衛


日本の外交方針は、明賢の一言によって定義された。


「我らが技術は、未来そのもの。

それを守るには、扉を閉ざし、窓を開けねばならぬ。」


日本は一見、鎖国政策を敷いた。

だがそれは恐怖からではなく、情報の自衛のためであった。

最先端の知識・技術・制度が未熟な他国に漏れれば、

瞬く間に世界の均衡を崩す可能性がある。

したがって、外との交流は完全に遮断せず、

**情報の入口と出口を厳格に制御する「選択的鎖国」**という形をとることになった。



外交官の招致


他国の動向を知るために、

江戸政府は一定の信頼を得た国々から外交官・商人・学者を招くことを許可。

彼らには各国の政治・産業・文化・軍事情報の報告を義務づけ、

その見返りとして日本からは絹・陶磁器・金などの貴金属・酒類などの特産品を贈与した。

これにより、日本は「情報を買う国」として静かに世界の裏舞台へ影響を及ぼしていった。



新たなる外交拠点 ― 南島交流庁


既存の出島では、外交官の管理・通訳・検疫・情報監視の体制が不十分であった。

明賢はこれを改め、

**鹿児島湾外の小島を切り拓き、完全管理型の新外交拠点「南島交流庁なんとうこうりゅうちょう」**を設立するよう命じた。


構造と機能

南島交流庁は、海上からも陸路からも隔絶された要塞都市のような構造である。

•第一層:検疫区画

 船舶の入港と同時に徹底的な検査・消毒を行う。

 物資・書簡・書籍に至るまで、全て情報局の監視下で扱われる。

•第二層:外交官居住区

 各国の代表者が滞在する石造りの街並み。

 住居にはカモフラージュされた監視装置がついており、常時監視下に置かれる。

•第三層:中央庁舎・情報解析棟

 外交記録と報告書が一元管理される。

 各国からの情報はここで整理され、情報局本庁に暗号化通信で送られる。

•第四層:港湾施設・輸送区

 貨物の積み下ろしや補給船の整備区。

 日本から輸出される品はすべて事前に登録され、追跡管理される。


この施設は外交の名を借りた「情報観測基地」であり、

同時に、日本の技術と文化を示す象徴的な展示都市でもあった。



外交の哲学 ― 誘い、見守る国


家康は、明賢の進言を受けてこう記した。


「門を閉ざすは臆病にあらず。

招き入れるは愚かにあらず。

我が国は、己を見失わぬために開くのだ。」


鎖国とは孤立ではなく、自立の宣言だった。

世界がまだ産業と思想の夜明けを迎える前、

日本は静かに“情報の海”を見渡し、

己の歩む道を見誤らぬよう、観測し続けていたのである。


鹿児島湾の影 ― 隠された監視ともてなしの工房


鹿児島湾外の小島に造られた交流拠点は、表の顔は「雅やかな日本の宿(もてなしの場)」だが、裏の顔は徹頭徹尾観測・記録・分析の機関であった。外交は丁重に扱う――だが決して情報は外へ漏らさぬ。明賢の意志が、その設計の隅々に宿る。



立地と外観のカモフラージュ

•港は自然の入江を生かし、桟橋と石造りの外観で出島時代の雰囲気を演出する。

•建物は伝統的な瓦屋根・木造の外装で統一され、訪れた外交官には“江戸のもてなし”を感じさせる。

•だが壁の内部、床下、灯籠の柱、庭石の下――ありとあらゆる場所に観測機器と配線が忍ばされている。外見は古風、内部は最新の監視ネットワークである。



翻訳装置を置かぬ理由と代替手段

•公式には「翻訳機は不要」とする方針。外交官の発言はそのまま記録され、生データは後分析を前提に保存される。

•翻訳・解析は**人的翻訳班(言語学者・方言研究者・民俗学者)**が担当する。これにより、機械翻訳の誤訳や自動検出に頼らず、文脈と含意を精密に解釈できる。

•人的解析は、表情・・仕草など非言語情報も併せて評価できるため、情報の“質”が高まる。



常時監視システム(隠密設計)

•音声・映像の全天候録画:座敷・会談室・渡り廊下・桟橋の各所に小型カメラと集音マイクを分散配置。器具は和物に擬装(灯篭内、花瓶、襖の鴨居など)。

•近接センサ群:床下圧力センサ、家具振動検出、ガラス表面の接触検知。来訪者の立ち居振る舞いを精密に記録。

•無線傍受とRF監視:外部への暗号電波や電磁発信を常時監視し、未承認の送受信を検出。携帯品の電波発生もログ化。

•環境・化学センサ:紙・封筒・酒などの化学付着物を簡易走査できる装置(外からは自然の香りの一部と見える)。

•ログの即時転送:収集データは暗号化され情報局へリアルタイムで中継。現地では一時保存しつつ、原本は中央で保管・解析される。



スタッフ構成と訓練(選ばれたエリート群)

•接遇班(もてなし担当):伝統礼法と外交礼節に長けた者たち。表向きは亭主・番頭だが、会話を自然に誘導する術を持つ。

•言語解析班:多言語に熟達した言語学者・通訳の精鋭。方言・婉曲表現・習慣的言い回しの裏意図を読み解く。

•尋問・面接班:心理学・インタビュー技術に長け、無防備な会話から有効情報を引き出すプロ。正規の尋問ではなく「雑談」の形で情報を逸脱なく抽出する。

•技術監視班:隠蔽カメラ・音響・RF・ログ管理を担う技術者。データの完全性と転送の安全を保障する。

•法務・倫理監査班:国際法・外交特権の枠組みを精査し、外交礼遇の体裁を保ちながらも合法的に情報を取得する術を担保する。


全職員は帝国大学や情報局の育成プログラムを経たエリートであり、礼節と倫理、秘密保持の徹底が生活規範である。



運用術式(もてなしの裏で)

•歓迎の儀式:到着時の茶会や宴会は、立ち居振る舞いの観察と非言語情報収集の場。意図せず多くの示唆が得られる。

•会話誘導:接遇班は予め用意された「話題カード」を用い、外交官を自然に核心に誘導する。話題の移り変わりはすべて録音・映像化される。

•無害化のカモフラージュ:庭の石組み、掛軸、茶器などに監視要素が埋め込まれ、訪問者は監視を疑わない。

•日報とフィードバック:任務後、接遇班と解析班は共同で“行動ログ”を作成し、即座に情報局へ送付。情勢評価・人柄ファイルは継続的に更新される。



法律・外交的配慮と安全弁

•外交官の扱いは常に「丁重」であり、接遇上の扱いは最高規準を維持する。

•明確に越える違法行為(拷問・暴露)は禁じられ、情報局は法務班を通じて正当性を保つ。

•ただし「契約と便宜」の形で情報交換を促す(特産物の供与、交流イベント、研究協力の提供)ことで、得られる情報の幅を広げる方針。



制服と象徴性

•職員の正礼服は1600年期の武士の正装を模したデザインで統一される。羽織・袴の形を踏襲しつつ、動きやすさと現代的なポケット類を内蔵。

•これにより、外交官は「日本らしさ」を感じ、過度な警戒を解くと同時に、職員の外見による情報漏洩のリスクも抑えられる。

•制服はまた、来訪者に文化的な信頼感を与え、会話の心理的障壁を下げる効果を狙っている。



危機対応プロトコル

•監視中に「重大情報漏洩の兆候」や「未承認の通信」を検出した場合、現地は即座に隔離・検疫ルームを起動。訪問者の出航を一時停止し、情報の範囲を限定して中央へ報告する。

•その間も外交礼節は崩さず、表向きには「健康検査」「文書検査」等の名目で処理する。全ては合法と礼節の範囲内で行われる。


最後に


夜、梅灯りの回廊を歩く外交官がいる。彼の背後では、こっそりと庭石の中の録音が波紋のように情報を送り、浜風が運ぶ声は解析班の手で意味づけられる。彼らは誰も知らぬうちに、日本の知を「静かに」「徹底的に」収集してゆく。だが表では、茶が温かく、もてなしの言葉は常に柔らかい。これが、明賢の作りたかった「開かれた門、しかし守られた核心」の姿であった。


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