物語序章 第一版 35章
情報局 ― 影の中の知、国を守る眼
創設の理念
帝国の急速な発展とともに、情報の重要性が飛躍的に高まっていった。
軍、産業、教育、外交、科学研究――あらゆる分野が情報を基盤に成り立つ。
だが同時に、それは国家の弱点を生む危険でもある。
明賢は早期の段階でこれを察知し、
「国を動かすのは力ではなく“情報”である」
と家康へ進言。こうして**情報局(IA: Intelligence Agency)**が正式に設立された。
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構成と任務
情報局は政府直轄機関として置かれ、
国防省・内務省・外務省・警視庁・帝国大学の研究部と密接に連携する。
主な任務は以下の通りである。
•国内情報の収集と分析:
官公庁、地方政府、軍、企業などから送られる全データを集約・解析。
統計処理と人工知能的アルゴリズムを用いて、社会の動向・経済変化・治安状況を可視化する。
•国外情報の探知:
各国の外交官を通じ、海外の技術や政治の動きを把握。
現代知識をもつ明賢の記憶を基盤に、各国の発展の方向を予測・対応する。
•機密保持と暗号通信:
国家間通信の暗号化、軍・政府間のデータ保護を担当。
東京本庁には専用の「暗号塔」が建設され、銅線通信と無線通信の双方を監視・制御できる。
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組織構造
情報局は四つの部門に分かれる。
1.内情監察部 – 国内政治・官僚・企業の監視と不正調査。
2.外務諜報部 – 海外との交渉・貿易・技術流入を分析。
3.防衛情報部 – 陸海空宇宙軍の作戦支援・敵対勢力の監視。
4.情報解析部 – 統計・経済・報道・世論を解析し、政策提言を行う。
各部門は独立して行動しつつ、最終的な報告は情報局長官 → 明賢 → 中央政府へと提出される。
特に国家の機密指定案件は、情報局以外が直接扱うことを禁じられた。
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技術と監視体制
情報局は、現代でいうビッグデータ分析の原型をすでに取り入れていた。
各官庁・軍・企業の端末から送られるデータは、中央のコンピューターで纏められ、
異常値や犯罪兆候、経済の停滞を自動で検知する仕組みを構築。
さらに、地方の電報局・新聞社・教育機関にも情報端末を設置し、
庶民の声や社会の流れを逐次データ化していた。
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暗部の存在
だが、情報局は単なる行政機関ではない。
影に生きる「情報部隊」も存在した。
彼らは政府高官や軍幹部の警護、重要人物の監視、
場合によっては国外潜入任務までを担う特殊情報員である。
任務内容は一切公にされず、名前も階級も存在しない。
ただ、“国家を守るための影”として生きているだけだった。
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意義と未来
情報局の設立によって、日本は知識と情報の統治国家へと進化した。
戦わずして敵を知り、民を導き、未来を予測する。
それはかつて戦国の混乱を経験した家康が、
「二度と盲目のまま戦うことはない」と誓った結果でもあった。
明賢は言う。
「刀も銃も、情報に勝る武器はない。
だが同時に、最も危ういものもまた“情報”である。」




