物語序章 第一版 34章
海兵隊 ― 上陸の矛
理念と役割
海兵隊は、海と陸と空を繋ぐ機動的な先遣部隊として創設された。
彼らの使命は単純明快である――「港を確保し、上陸路を開き、前方基地を建て、速やかに勢力圏を確立する」。
その役割は占領でも征服でもなく、迅速な前線基盤の構築と海上補給線の確保にある。
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組織と規模感
標準編成は旅団規模を基準とし、**上陸旅団(約3,000名規模)**が運用単位となる。
旅団は上陸連隊×3、上陸砲兵、工兵、偵察・通信・衛生・補給の各中隊を内包し、短期間での自立展開を想定している。
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舟艇・艦種配備方針
上陸作戦を支えるのは専用の上陸舟艇および強襲揚陸艦である。旅団単位では上陸舟艇50〜60隻程度を運用可能とし、艦隊は輸送艦・補給艦を中心に前進展開する運用を標準とする。海上での持続力を担保するため、補給艦は重視され、燃料・食糧・医療物資の大量輸送能力を有する。
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配備設計と巡航艦種
海兵隊を支える海軍艦艇は「駆逐艦(護衛)」と「輸送/補給艦」が中心である。創設初期においては、重巡や大戦艦よりも護衛と補給能力を優先し、上陸支援のための工作艦や小型護衛艇を多数配備する方針となっている。これにより、遠隔地への安全な物資搬送と上陸舟艇の保護を両立する。
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遠征・前進基地計画
海兵隊の展開は、段階的かつ恒久化可能な「前進基地」ネットワークと一体である。各前進基地は「補給ハブ」「前進上陸ベース」「偵察・情報中継点」のいずれかを主機能とし、初期は仮設桟橋・仮設倉庫・可搬発電機・淡水化設備で稼働、順次恒久インフラへ移行する。常設化の際には現地雇用とインフラ投資で地元との協調を図ることが明記されている。
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上陸訓練と運用手順
訓練はフェーズ方式で進む。初期(フェーズ0)では小隊戦術と舟艇操作、波上突入と簡易橋梁構築を徹底的に反復し、中期(フェーズ1)で夜間上陸や艦砲支援との連携、長期(フェーズ2)では浮動陣地設営や艦砲精度向上、連合演習へ移行する。教育は海兵隊固有の課程に加え、海軍・空軍・陸軍との統合演習を通して早期から合同運用を身体に染み込ませる。
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迅速前線基地の設営能力
海兵隊は上陸後、速やかに「前線運用可能な基地」を自立して構築する能力を持つ。初動は仮設桟橋・倉庫・野戦病院(数十床規模)・燃料タンクなどを30〜90日で稼働させるチェックリストが準備されており、これにより上陸地点は即座に補給可能な拠点へと変貌する。
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偵察・情報連携
海兵隊は独自の偵察能力を持つと同時に、空軍のFPVドローン、海軍の測量艦・通信艦、宇宙軍の衛星データと密接に連携する。偵察データは即時に解析され、補給ルートや上陸地点の安全性評価に用いられる。情報優位を保持するため、海兵隊内にも情報解析班やSIGINT/ELINT連携が組み込まれている。
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補給・持続性
海兵隊の活動は補給網の可用性に直結するため、輸送艦・補給艦・前進基地が三位一体で動く。輸送能力の目安としては、輸送艦で旅団規模(約3,000名)と1,500〜2,000トンの物資を短期間で運搬可能とする想定がある。補給基地は初期で約30日分の備蓄を持ち、長期展開に備えた分散配置を行う。
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教育と人材(海兵隊独自の養成)
海兵隊教育は、基礎戦闘・舟艇操作・拠点構築・都市戦術・衛生・補給管理といった実務に重点を置く。士官は海軍士官学校または海兵隊独自教育課程を経て、現地文化・交渉術・言語訓練も受ける。採用は志願制を基本とし、民間技術者や港湾運営経験者を契約で取り込むことで即戦力を確保する。
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リスク管理と政治的配慮
遠隔前進基地や上陸作戦には必然的に外交リスクと地元抵抗が伴うため、法的正当性(租借契約や保護協定)と経済インセンティブ(雇用・医療・インフラ提供)を併用する方針が示されている。作戦は常に撤退計画・説明戦略を用意し、民間被害を最小化することが行動規範とされる。
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夜明け前の桟橋。霧が海面を撫でる中、海兵の小隊は軽舟艇に身を潜める。無線から流れるのはFPVが拾った敵前沿の映像――波纹の向こうに、まだ眠る漁村の灯り。司令は静かにうなずき、上陸の合図を送る。やがて上陸舟艇が海面を切った瞬間、彼らが運ぶのはただの兵ではなく、「補給」と「病院」と「井戸掘り」の設計図だった。海兵隊は文明の縁を打ち固める役目を負っているのだ。
宇宙軍 ― 空の果て、未来の礎
創設と理念
宇宙軍は、空軍の上位拡張部門として誕生した。
彼らの任務は単なる「空の上の延長」ではない。地球という惑星そのものを理解し、制御し、見守ることである。
最初の活動は地上から始まった。
山頂、海岸、平野、あらゆる地形に観測機器を設置し、地形・海洋・気象データを収集した。これは後に日本全土の地図・気象予測・災害管理の基礎資料となる。
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初期任務 ― 観測と解析
創設初期の宇宙軍は、主に地球観測と天体観測の専門部隊として運用された。
全国の観測所を空軍の通信網と接続し、
気象変化や潮流、山岳地帯の地盤変動まで、あらゆるデータをリアルタイムで集約。
この情報は中央政府と帝国大学の研究機関に即時転送され、農業・防災・交通・気象予報の各省庁で活用された。
やがて宇宙軍は、地上と天の狭間で働く“見えない守護者”と呼ばれるようになる。
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天体観測と理論研究
次に着手したのは天体の観測と宇宙の研究だった。
帝国大学の物理学・天文学部と連携し、
東京郊外に大規模な観測台を建設。
夜ごと観測兵が星の動きを追い、
昼間はそのデータを解析して宇宙の法則を探った。
望遠鏡の磨かれた鏡面に映る光は、
まるで「未来の日本が目指す先」を指し示しているようであった。
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ロケット開発計画
宇宙軍が掲げた最大の目標は、宇宙への到達。
その第一歩として、明賢の指示によりロケット技術研究所が設立される。
最初の目標は、気象観測用の小型ロケットを試作し、
上空30kmに達する高高度観測を実現することだった。
化学プラントで精製された酸化剤と燃料、
工業大学で設計された燃焼室とターボポンプ。
国の総力が少しずつ「宇宙」へと手を伸ばしていく。
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将来任務 ― 衛星と宇宙通信
宇宙軍の最終目標は、衛星ネットワークの構築である。
衛星が打ち上げられれば、
気象観測・地図作成・軍事通信・災害監視が
すべて宇宙から一元管理できるようになる。
衛星の軌道配置は既に計画済みであり、
空軍の施設の一部には将来のロケット管制基地となる土地の整備地が確保された。
衛星打ち上げが実現すれば、
宇宙軍は「空軍の眼」から「国家の眼」へと進化する。
やがて宇宙軍の使命は、
地球の観測だけでなく――
月と火星への最初の探査計画へと引き継がれていくことになる。
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象徴と信念
宇宙軍の標章は、地平線を貫く白い線と、
その先に描かれた銀の星である。
それは“地上に根を張りながらも、常に空を見上げる者たち”の象徴。
彼らはまだロケットを飛ばすこともできない。
だが、観測台に立つその姿勢こそが、
人類が宇宙へ歩み出す第一歩だった。




