表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/43

物語序章 第一版 31章

言葉の力 ― 政府新聞社の創設 ―


一、言葉の兵 ― 情報の遅滞を断つ


教育は人を育て、知識を広める。

しかし――教育だけでは、国を動かすには遅すぎた。


制度が変わり、法が立ち、街が形を変えるそのたびに、

民衆の理解が追いつかず、噂が真実を凌駕する。


明賢はそれを憂い、静かに語った。


「言葉を制す者は、心を制す。

 国を導くには、真を最初に届けねばならぬ。」


こうして、政府直轄の報道機関――

政府新聞社の設立が決まった。



二、活字の都 ― 新聞社の誕生


東京の官庁街の一角に、白亜の四階建ての建物が建てられた。

それが政府新聞社本社ビルである。


内部には大型の輪転印刷機が並び、

銅板活字が並ぶ棚が天井まで続いていた。

紙は製紙局から供給され、

インクは化学プラントで新たに開発された耐久顔料。


編集局には帝国大学文学部と法学部の卒業生が配属され、

記者・論説委員・印刷技師・配達員が組織された。


「筆は刀に勝る。

 この紙一枚が、千の兵を動かす。」


政府新聞社は、単なる報道機関ではなかった。

国家の意志を民に伝える声であり、

民の声を国家に還す耳でもあった。



三、発行第一号 ― 「東京日報」


創刊第一号の題名は「東京日報」。

発行日は慶長九年改暦元年(1605年相当)の春。


一面には新たな制度の解説と、

「義務教育普及五カ年計画」の記事が掲載された。

他にも「新しい科学」「市民の健康」「東京の再開発」など、

国の歩みを明るく語る記事が並ぶ。


庶民はこれを“政府の声”と呼んだ。

町の書店に新聞が届くと、

人々は群がり、声を合わせて読み上げた。



四、情報の均衡 ― 検閲と自由


だが、報道の力は強すぎる。

明賢はそれを理解していた。


政府新聞社は国家の意志を伝える一方で、

誤情報や扇動を防ぐため、検閲局が同時に設立された。


検閲といっても弾圧ではない。

虚偽・憶測・偏見から国民を守るための“信頼の盾”である。


編集局と検閲局の間には報告制度があり、

議会によって公開監査が行われた。


「報道は力だ。

 ゆえに、その力は正しき手に握られねばならぬ。」


こうして報道の自由と国家の統制が絶妙に均衡し、

新聞は恐怖ではなく、信頼の象徴となった。



五、情報の民営化 ― 娯楽と文化の息吹


やがて政府新聞社の周囲には、

多くの私設新聞社や雑誌社が生まれた。


彼らは「芸術」「娯楽」「科学普及」「家庭の知恵」などを扱い、

庶民の文化生活を潤す存在となる。


政府はこれを許可制とし、一定の検閲を保ちながらも、

文化の発展と知識の拡散を奨励した。


新聞はやがて、単なる報道を越え、

国民の教科書、そして心の拠り所となっていった。



六、言葉が国を繋ぐ


夜。

印刷機の音が東京の下町に響く。

「ガチャン、ガチャン」とリズムを刻むたびに、

紙の上に新しい世界が刷り出されていく。


明賢は窓越しにその光景を見つめ、静かに呟いた。


「言葉は国を動かす血潮だ。

 この国は、学び、働き、語り合うことで成長する。」


こうして、日本初の国家報道機関は動き出した。

それは後の放送局・通信社・出版産業の礎となり、

“思想の流通”という新しい時代を告げるものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ