物語序章 第一版 30章
秩序と守護 ― 警視庁・日本軍・消防庁の誕生 ―
国家の体ができ、血が通い、声が届くようになった。
次に明賢が求めたのは、
この国を守り、導き、災を鎮める力――すなわち「秩序」の創出であった。
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一、治安の柱 ― 警視庁の設立
都市が拡大し、人と物流が激増するにつれ、
小さな争いや盗難、火事、交通事故が頻発するようになった。
明賢は、これを放置すれば国家の土台が揺らぐと悟る。
「法律は紙の上にあるだけでは意味を持たない。
法を歩かせるのが警察である。」
江戸城の東側、官庁街の一角に新たな庁舎が建設された。
黒い瓦屋根と灰色の石壁――
玄関に掲げられた銘板には**『警視庁』**の三文字が刻まれていた。
警視庁は全国の治安を統括する最高機関として設立され、
各県には地方警察局を置き、階層的に指揮命令を行う体制が敷かれた。
警察官は帝国大学法学部および警察学校を卒業した者から選抜され、
制服・階級制度・訓練基準が厳格に制定された。
都市部では馬に乗った巡査が巡回し、
夜間には電灯と笛で住民に時刻と安全を告げた。
「秩序とは恐怖ではなく、安心の別名である。」
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二、護国の盾 ― 日本軍の創設
国防省の下に、
明賢がかねてより構想していた統合軍組織が正式に創設された。
その名は――日本軍(Japanese Armed Forces)。
従来の藩兵制度は廃止され、
徴兵・志願・専門職制度を組み合わせた近代的な軍制が導入された。
これにより、旧大名の私兵や地域軍閥は消滅し、
国家による完全統制が実現する。
陸軍は本州・九州・蝦夷地に司令部を置き、
海軍は呉・横須賀・函館・長崎に艦隊を配備。
さらに航空局を設け、
航空技術の発展を視野に入れた研究を進めることとなった。
兵士の訓練は、単なる戦闘ではなく、
科学・衛生・規律を重んじた**“理の軍”**として構築されていく。
「剣ではなく、理で国を守る。
その理を操る者こそ、真の武士なり。」
また、軍医・技術将校・通信将校など専門職が制度化され、
戦時においても国民生活を守るための支援組織として活動できるよう設計された。
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三、火を制する ― 消防庁の設立
江戸は光の都市であると同時に、火の都市でもあった。
木造家屋もまだ多く、火事の恐怖は常に付きまとっていた。
明賢はこの問題を重く見て、
警視庁と並行して消防庁を創設する。
「火は文明の友であり、また最大の敵でもある。」
消防庁は内務省の管轄下に置かれ、
各都市に消防署を設置。
街区ごとに消防団が組織され、
警察・医療・電力と連携して緊急時の対応を統一化した。
当初は手押しポンプとバケツ隊だったが、
やがて工業省の支援を受け、
蒸気式消防ポンプ車や耐火服が開発された。
火災報知器も研究され、
電信を用いて即座に司令所へ通報できる火災電報網が整備される。
消防庁舎は赤煉瓦の高塔を持ち、
塔上の鐘が街に鳴り響くと、
人々は安心と共に文明の力を感じた。
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四、秩序の交響 ― 三庁の連携
警視庁・日本軍・消防庁――
この三つの庁が連携して国の治安と安全を支えた。
警視庁は都市の秩序を守り、
日本軍は国土の外縁を護り、
消防庁は民の生命を守る。
緊急時には「三庁連絡網」が作動し、
指令が中央管制室から一斉に発信される。
通信線は全国の主要都市を結び、
電報・無線による統一指令が可能となった。
「秩序とは、力と理と慈悲の均衡である。」
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五、平和の灯
街の夜は静かだった。
電灯が等間隔に並び、
遠くで消防塔の鐘が一度鳴る。
明賢は庁舎の屋上から灯の筋を眺め、
静かに呟いた。
「力を持つ国が恐れられるのではない。
理を守る国が敬われるのだ。」
江戸の夜風が吹き抜ける。
その先には、戦火ではなく理と秩序によって保たれる平和があった。
声と光 ― 全国通信網の誕生 ―
秩序が整い、軍と警察と消防が動き出した今、
明賢は最後の要として“国の神経”を作り上げることを決めた。
それが――全国通信基地の設立である。
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一、声を運ぶ網
国が動くためには、命令と情報が瞬時に伝わらねばならない。
これまでの伝令や文書では、時が失われる。
明賢は、帝国大学の工学部と通信局に命じて、
全国規模の通信網の構築を開始した。
「血は道を通い、声は線を通う。
この線こそ、国の神経である。」
東京・大阪・名古屋・札幌・福岡を結ぶ中央幹線には、
銅線による有線通信網がまず設置された。
絶縁被覆を施した高純度銅線が地中と架線の両方に敷かれ、
通信局を通じて即座に連絡が可能となった。
伝令は紙ではなく、光る端末の文字で届く。
江戸城の指令室から地方庁までの通信は数秒で届き、
会議の指示も、軍の命令も、警察の通報も、
まるで一つの身体のように同時に動き出した。
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二、電波の翼 ― 無線通信基地の建設
だが明賢の構想は、それだけに留まらなかった。
「線は切れる。だが空は切れぬ。」
そう言い、彼は無線通信の本格導入を命じた。
東京湾沿岸・名古屋・大阪・広島・函館・那覇の六カ所に
巨大な無線通信基地が設けられる。
鋼鉄製の送信塔が空を貫き、
電磁波の信号が大地と海を越えて届く。
初期の通信は短距離だったが、
電波増幅装置の開発によって、
やがて日本全土――さらには外洋に浮かぶ艦隊とも交信できるようになった。
通信士たちは耳にヘッドフォンを当て、
モールス信号のリズムを打ち鳴らす。
その音は、まるで国家の鼓動のようであった。
「電波は国の呼吸だ。
届く限り、我らは一つだ。」
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三、通信基地の中枢 ― 通信総局
東京郊外の高台に建てられた白い塔――
それが通信総局である。
高さは百mを超え、塔の先端には巨大なアンテナ群。
内部には各省庁への通信管制室、電信機、変圧装置、監視盤が並び、
数百人の通信士が昼夜交代で働いていた。
ここでは、全国から届く通信が集約・再配信され、
非常時にはこの一棟から国家全体を動かすことができる。
塔の基部には、無線・有線両用の通信装置が設置され、
地震・津波・戦闘などの災害発生時にも中継が止まらぬよう、
複数の電力系統と蓄電設備が備えられた。
「声は、途絶えてはならぬ。
声が届く限り、この国は生きている。」
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四、通信の秩序 ― 通信法と機密保護
明賢はこの通信網が国家の生命線であることを理解していた。
ゆえに、同時に通信法と機密保護制度を制定する。
通信内容の傍受・漏洩は国家反逆罪とされ、
通信士は身辺調査を経た者のみが任命された。
それにより、政府の命令は正確に、安全に届く体制が保たれた。
東京の町に初めて通信端末が設置された日、
人々は画面に浮かぶ「東京→大阪通信成功」の文字を見て歓声を上げたという。
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五、光の未来
無線塔が夜空を照らす。
赤い警告灯と青い信号灯が交差し、
まるで都市そのものが呼吸しているようだった。
明賢は塔の最上階で遠くを眺めながら呟いた。
「声を繋げ。
その先に、思想も、学問も、文化も生まれる。」
彼の目にはすでに、
通信の先に広がる“情報の世紀”の光が見えていた。




