物語序章 第一版 245章
装軌式自走榴弾砲 開発要求
装輪式自走榴弾砲の制式化によって、
日本陸軍は「迅速な火力投射」という要素を手に入れた。
しかし同時に、明確な限界も見え始めていた。
•悪路・不整地での持続運用
•長時間にわたる火力投射
•敵砲兵火力下での生存性
•機甲部隊と完全に歩調を合わせた前進支援
これらは装輪式では本質的に満たしきれない領域である。
そこで陸軍設計局に対し、
装輪式とは思想の異なる、装軌式自走榴弾砲の新規開発が正式に命じられた。
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装軌式自走榴弾砲に求められた基本思想
装軌式自走榴弾砲は、
「機甲部隊と共に進み、敵の防御線を砲撃で削り続ける存在」
であることが求められた。
それは単発的な火力支援ではなく、
•継続的
•安定的
•高密度
な火力投射を担う兵器である。
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要求性能
火力・射撃能力
•150mm榴弾砲を搭載
•装輪式自走砲と弾薬を完全共通化
•補給体系の単純化を最優先
•自動装填装置
•高い発射速度を長時間維持
•砲員の疲労を排除し、射撃精度を安定化
•搭載弾薬数:35発
•弾薬輸送車に依存しない初動火力
•陣地構築前でも持続砲撃が可能
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射撃統制・情報能力
•データリンクシステム
•観測部隊・ドローン・前進観測員と即時連接
•座標更新から発射までの時間短縮
•同時着弾(MRSI)能力
•単車両、複数車両の双方で実行可能
•敵防御陣地に対する瞬間的制圧力を重視
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機動・展開能力
•最高速度:60km/h以上
•機甲師団の進撃速度に追従可能
•陣地転換時の生存性確保
•迅速な展開・撤退
•停止から射撃、射撃から移動までを最短化
•カウンターバッテリー射撃への耐性を向上
•装軌式足回り
•泥濘地・森林・荒地・砲撃で荒れた地形でも運用可能
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防御・生存性
•装甲化された車体
•榴弾砲の至近弾
•破片
•小火器・機関銃火
に対する防護を重視
•直接戦闘を想定した重装甲ではないが、
砲撃下で任務を継続できる防御水準が求められた。
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運用上の要求
•機甲部隊と同一戦域で行動
•前線から中距離での火力支援
•長時間の火力準備射撃
•突破後の追撃支援
装輪式自走榴弾砲が「走って撃つ存在」ならば、
装軌式自走榴弾砲は、
「陣地に止まり、撃ち続け、歩兵の突破支援をする存在」
であることが明確に定義された。
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開発の難易度
この要求は、設計局にとって極めて厳しいものであった。
•大口径砲
•自動装填装置
•大量の搭載弾薬
•装甲化
•機動力
•高度な電子統制
これらはすべて重量増加と複雑化を招く。
それでもなお、
「すべてを満たすこと」
が明確に命じられた。
第三設計局
装軌式自走榴弾砲 試作1号車
第三設計局は、
1式主力戦車の開発で培われた装軌式装甲車両の設計思想をそのまま流用するという、
極めて正統派のアプローチを選択した。
彼らにとって自走榴弾砲は、
「砲を載せた車両」ではなく
「砲撃任務に特化した戦車の亜種」
であった。
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達成された要素
火力・継戦能力
•150mm榴弾砲搭載
•完全自動装填装置
•発射速度が安定
•砲員の負担が極めて小さい
•即応弾40発
•要求された35発を上回る搭載量
•弾薬輸送車なしでも長時間の火力投射が可能
この時点で、
火力投射能力と継戦能力は全試作車中で最上位であった。
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防御・生存性
•重機関銃に耐えうる装甲化車体
•砲撃破片
•小火器
•至近距離の機関銃掃射
に対して十分な防護を実現
前線近くでの長時間砲撃を想定した設計であり、
「撃ち続ける砲兵」という思想が明確に表れていた。
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電子装備
•高度な射撃統制装置
•データリンクシステム
•同時着弾能力への対応を前提とした電子設計
砲・装填・観測・通信が一体化され、
理論上の砲撃性能は要求仕様を完全に満たしていた。
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致命的問題:パワーパック
しかし、第三設計局の試作1号車は、
一つの致命的欠陥を抱えていた。
重量過多
•重装甲
•大容量弾庫
•自動装填装置
•大型砲架
これらを盛り込んだ結果、
車体重量は想定を大きく超過。
パワーパック未完成
•要求される出力・耐久性を両立できず
•長時間運用時の信頼性不足
•冷却・トルク配分の問題が未解決
その結果、
•最高速度:45km/h
•迅速な陣地転換は不可能
という評価となった。
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総合評価
第三設計局の試作1号車は、
•火力
•装甲
•継戦能力
•電子装備
という砲兵車両として最重要な要素をほぼ完璧に満たしていた。
しかし、
自走榴弾砲は
「撃てる砲」ではなく「動き続ける砲」でなければならない
という根本条件を、
パワーパックという一点で満たせなかった。
惜しくも、
•迅速な陣地転換
•機甲部隊への追従
という要件を満たされなかった。
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第三設計局の成果は無駄ではなかった。
•自動装填装置
•弾庫配置
•装甲レイアウト
•砲安定化技術
これらは後続試作車に引き継がれ、
「撃ち続けられる自走榴弾砲」という概念の土台となる。
だが同時に、
「砲兵車両においても、最終的に勝敗を分けるのは機動力である」
という教訓を、
設計局全体に突きつける結果となった。




