物語序章 第一版 243章
装輪式自走榴弾砲 試作2号車(第二設計局案)
第四設計局の試作1号車に対し、
第二設計局はまったく異なる設計思想を提示した。
彼らが重視したのは、
•生存性は「回避」で確保する
•火力は「初動と精度」で勝負する
という、高機動・短時間火力投射型自走榴弾砲である。
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1. 達成された性能
試作2号車は、計画要求の中核要素を高い次元でまとめ上げていた。
火砲・装填系
•150mm榴弾砲
•共通弾薬体系を維持
•発射速度と信頼性を優先した設計
•半自動装填装置
•初動射撃時の速射性に優れる
•装填動作のばらつきを低減
電子・射撃統制
•高度な電子統制装置
•データリンク対応
•観測部隊・無人機との即時連携が可能
•同時着弾能力(MRSI)
•複数両による協調射撃が可能
•初弾斉射による制圧効果が極めて高い
機動性
•最高速度:105km/h
•要求性能を達成
•装輪式自走砲としては異例の高速性能
この速度により、
•射撃後の即時離脱
•陣地転換の迅速化
•カウンターバッテリー回避能力
が大幅に向上した。
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生存性(限定的)
•榴弾砲の至近弾に対する防爆装甲
•破片・衝撃波への耐性を確保
•最低限の搭乗員生存性を維持
「被弾しない」ことを前提としつつも、
最悪の事態を想定した割り切った防御が採用されている。
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2. 設計上の代償
試作2号車は、
性能達成のために車体の徹底した小型化を行った。
その結果、いくつかの重要な能力が犠牲となった。
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即応弾数の不足
•即応弾搭載数:10発
•要求性能(20発)を大きく下回る
これにより、
•長時間の火力支援が困難
•弾切れが早く、補給車両への依存度が高い
という問題を抱えることとなった。
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連続射撃能力の低下
•車体安定性の不足
•サスペンション容量の制限
•砲反動処理能力の限界
これらが重なり、
•連続射撃時の安定性低下
•射撃精度のばらつき増大
が確認された。
短時間の集中射撃には優れるが、
持続火力では明確に劣る構成であった。
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射程の低下
•砲身の短縮および軽量化の影響により
•最大射程が設計要求より短縮
これにより、
•敵砲兵との射程競争で不利
•より前進した位置での展開が必要
となり、生存性に間接的な影響を及ぼす。
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試作2号車は、
•初弾の命中率
•初動の斉射火力
•展開・撤退の迅速性
において極めて高い評価を得た。
一方で、
•即応弾の少なさ
•連続射撃の不安定さ
•射程不足
といった要素から、
「火力支援“持続戦”には向かない」
と結論づけられた。
評価委員会は次のように記している。
「試作2号車は、
明賢ドクトリンにおける
“必要な時に”は満たしたが、
“必要なだけ”には届かなかった
装輪式自走榴弾砲 試作3号車(第五設計局案)
計画発足から約1年。
各設計局の試作車で露呈した問題点と成功例をほぼ完全に吸収・統合した形で、
第五設計局は試作3号車を提出した。
評価委員会の第一印象は、
「初めて“完成形”と呼べる装輪式自走榴弾砲」
であった。
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1. 火砲・装填系統
•150mm榴弾砲
•共通弾薬体系を完全維持
•射程・投射量ともに要求値を満たす
•半自動装填装置
•速射性と信頼性を両立
•装填動作の自動化により乗員疲労を大幅低減
即応射撃から持続射撃まで、
射撃速度が安定している点が高く評価された。
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2. 電子統制・射撃管制
•同時着弾(MRSI)対応 高度電子統制装置
•複数車両との完全同期が可能
•観測ドローン・前進観測班とのデータリンクを前提設計
これにより、
•初弾斉射による制圧
•短時間での火力集中
•敵砲兵の反撃前に任務完了
という、明賢ドクトリンにおける理想的な火力運用が実現した。
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3. 機動性
•最高速度:101km/h
•要求性能(100km/h以上)を達成
•高速域での直進安定性も良好
装輪式車体としては異例なほどの高速・安定両立型であり、
高速移動中の操縦性低下も見られなかった。
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4. 防護・生存性
•榴弾砲の至近弾に対する防爆装甲
•破片・衝撃波への耐性を確保
•直接照準射撃を受けない限り、搭乗員の生存性は高い
重装甲ではないが、
•高速離脱
•陣地転換
•射撃時間の短縮
と組み合わせることで、実戦的な生存性を成立させている。
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5. 弾薬搭載能力
•即応弾:21発
•設計要求(20発以上)をクリア
•持続火力と即応性の両立が可能
補給車両に依存せず、
•複数回の火力任務
•短時間の連続支援
を単独で実施可能となった。
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6. 車体・機構設計
車体サイズと安定性
•十分な車体容積を確保
•反動吸収能力が高く、連続射撃時も安定
第二設計局案で問題となった
連続射撃時の不安定性は完全に解消されている。
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電動化された可動部
•アウトリガー
•砲の俯仰・旋回
•展開・撤収機構
これらの主要可動部を電動化。
結果として、
•展開時間の短縮
•撤退動作の迅速化
•操作ミスの低減
が実現し、
カウンターバッテリー回避能力が飛躍的に向上した。
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試作3号車は、
•火力
•機動性
•生存性
•持続能力
•電子統制
•生産・運用現実性
のすべてにおいて、
設計要件を完全に満たした唯一の試作車となった。
評価報告書は極めて簡潔である。
「試作3号車は、
明賢ドクトリンにおける
“必要なものを、必要な時に、必要なだけ”
を初めて完全に体現した装輪式自走榴弾砲である」




