物語序章 第一版 23章
理の通う金脈 ― 帝国中央銀行と財務省の設立
物流が整い、工業が動き出した今、
政府の次なる課題は「価値の流れ」であった。
物資が流れ、人が働き、国が動く。
だが、**その労と成果を媒介する“通貨”**がなければ、
国家の歯車はやがて軋みを上げる。
「鉄も金も、流れを制せねば国は回らぬ。」
明賢はそう述べ、経済の根幹を作り変える計画を始動させた。
⸻
日本中央銀行 ― 国家経済の心臓
1605年、中央政府の勅令により、
**日本中央銀行**が設立された。
その第一の目的は、
乱立する藩札や私貨の回収、
そして金貨・銀貨に代わる統一通貨制度の確立であった。
全国の金貨は一定比率で政府に回収され、
精錬・再鋳造のうえで金準備として中央銀行の金庫に収められた。
そしてその価値を担保として――
**日本国紙幣**が正式に発行された。
紙幣は美しい和紙と耐久性のある繊維で作られ、
透かしには「日輪」と「理の紋章」が刻まれた。
「この紙はただの紙ではない。
国家の信用という“目に見えぬ鋼鉄”だ。」
⸻
財務省 ― 国家の血流を制御する器官
同時期、明賢の提言により**財務省**が創設された。
その役割は三つ。
税収の管理:全国の領地・都市・商工からの税を電子台帳で一元管理。
国家予算の策定:教育・軍事・医療・研究などの支出を科学的に算定。
経済指標の監視:物流統制局と連携し、需要と供給のバランスを定量的に維持。
財務省の庁舎内では、
各部署の職員がパソコンに向かい、
帝国通貨の流れを逐一監視していた。
税の滞納率、工場利益率、農作物取引価格――
すべての数値が中央の画面に集約され、
帝国経済の“体温”として表示される。
⸻
経済の理 ― 信用という見えざる力
明賢は帝国大学経済学部の講義でこう述べている。
「貨幣は金ではない。
それは“国民の信頼”を形にしたものだ。
ゆえに、この国が嘘をつかぬ限り、金は尽きぬ。」
家康もこの考えに深く感銘を受け、
政治評定の席で言葉を残している。
「刀で人は動かぬ。
今の世を動かすのは、理を信じる民の心である。」
⸻
理の日本国経済網
こうして日本国は、
・日本中央銀行による通貨発行と信用制度、
・財務省による税収・支出・統計管理、
・物流統制局との情報共有システムを三位一体とした
“理に基づく経済運営機構”を完成させた。
紙幣は日々の生活に浸透し、
商人も農民もその価値を疑わなくなった。
経済は秩序を持ち、国家の鼓動は安定した。
清助は新しい紙幣を手に取り、
柔らかな紙の手触りを確かめながら言った。
「先生……この紙に、未来が印刷されているようです。」
「そうだ。」明賢は微笑む。
「金ではなく、信じる心こそが国を動かすのだ。」
統制下の繁栄 ― 帝国農業協同制度と部分的市場開放
中央銀行の設立により、
国家の価値が一枚の紙に宿ったとき、
明賢は次の段階――「流通の統御」に目を向けた。
彼にとって、まだ市場は“混沌”であった。
欲と利益だけで動く仕組みを、
未成熟な民に与えることは国家の病を生む。
「民が理を知らぬままに金を持てば、
国は一夜にして腐る。」
ゆえに、市場はまだ解かれなかった。
すべての国民が教育を終え、
科学と倫理を理解するその日までは――。
⸻
統制と柔軟の均衡
日本経済は二層に分けられた。
第一層は工業・鉱業・運輸などの国家主導部門。
生産・資源・賃金・納税はすべて政府の統計システムで一元管理された。
第二層は、将来的な市場運用を見据えた部分開放経済区。
工場や工業学校、造船所などの限られた範囲で、
政府承認制の自由取引が許可された。
これにより、現場の創意工夫を維持しながらも、
統制経済の枠内で柔軟な運営が可能となった。




