物語序章 第一版 218章
強襲揚陸艦の開発
空母機動艦隊と原子力戦艦が外洋の骨組みを固めつつある中、
海軍と海兵隊の間では、別の議論が進んでいた。
「どうやって上陸するのか」
制海権と制空権を得ても、
最終的に土地を制圧するのは人間である。
そしてその役割を担うのが、海兵隊だった。
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陣風、烈風、瑞雲――
これらの航空機が実用段階に入ったことで、
航空支援と揚陸を同時に行う戦術が現実味を帯びてきた。
従来の揚陸艦では遅い。
従来の空母では、兵を運べない。
そこで求められたのが、
空と海と陸を一体で扱える艦である。
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祥鳳型強襲揚陸艦
計画名が発表されたとき、
多くの士官はその艦種を正しく理解できなかった。
「空母なのか? 輸送艦なのか?」
答えは――
どちらでもあり、どちらでもない。
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基本思想
祥鳳型は、
「最前線に司令部ごと海兵隊を送り込む」ための艦だった。
・飛行甲板を有する
・ウェルドックを持つ
・航空機と揚陸艇を同時運用
・指揮・通信・補給を一体化
艦そのものが、
移動式上陸基地として設計された。
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船体構造
艦首から艦尾にかけて、
上部には全通式飛行甲板。
・VTOL機
・短距離離着陸機
・回転翼機
が常時発着可能。
艦尾下部には大型ウェルドックが設けられ、
注排水により内部を水没させ、
・揚陸艇
・水陸両用車
・高速輸送艇
を直接発進させることができる。
「空から降り、海から這い上がる」
それが祥鳳型の戦い方だった。
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搭載能力
祥鳳型は、
一隻で海兵大隊規模を運用できる。
・海兵隊員
・装甲車両
・火砲
・弾薬
・食料
・医療設備
艦内には簡易野戦病院も設けられ、
負傷兵は上陸せずとも治療が可能。
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航空運用
搭載航空機は、
空母のような制空目的ではない。
主目的は、
・上陸支援
・近接航空支援
・偵察
・兵員輸送
である。
甲板運用は簡素だが迅速。
航空機は「消耗品」と割り切られ、
即応性が最優先された。
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初期の訓練で、
海兵隊員はすぐにこの艦を気に入った。
「これは船じゃない
前線そのものだ」
上陸前から指揮系統は艦内で完成し、
通信も補給も切れない。
祥鳳型が沖合に居座る限り、
海兵隊は孤立しない。
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戦略的意味
祥鳳型の登場により、
日本は以下を同時に可能にした。
・迅速な海外展開
・限定地域の即時制圧
・占領後の安定運用
空母が「見せる力」なら、
祥鳳型は「使う力」だった。
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静かに海を進むその艦影は、
戦艦ほど威圧的ではなく、
空母ほど派手でもない。
しかし一度停泊すれば、
そこはもう日本の前線基地となる。
祥鳳型強襲揚陸艦――
それは、
確実な支配を浸透させるための艦だった。
祥鳳型強襲揚陸艦 一番艦「祥鳳」
港に横付けされたその艦影を見て、
多くの者は奇妙に見えた。
自動車運搬船のような見た目をしている。
甲板はあるものの空母でもない。
だが、とてつもなく実戦的だった。
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船体と機関
祥鳳は、
全長260m、全幅35m。
排水量は45,000t。
見た目は空母に近いが、
船体下部は異様なほど分厚く、
揚陸艦としての耐久性が優先されていた。
推進機関には
ガスタービンエンジン4基を搭載。
COGLAG方式――
ガスタービンと電動推進を組み合わせたこの方式により、
・低速時は静粛性重視
・高速時は一気に出力を解放
という、揚陸艦には理想的な性格を持つ。
最大出力50,000kW。
速力は40km/h。
「随伴護衛艦隊と行動し、
そのまま前線に突っ込める速度」
それが設計思想だった。
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武装配置
祥鳳は戦闘艦であるが、
決して単艦で戦うことを前提としていない。
それでも最低限の自衛火力は確保された。
・単装120mm速射砲 ×4
・単装40mm機関砲 ×3
・6連装20mm機関砲 ×3
・VLS 12セル
VLSには、
・対空ミサイル
・短距離対水上ミサイル
が搭載可能。
「逃げるための武装ではない
耐え抜くための武装だ」
と設計主任は語った。
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電子装備
祥鳳の戦闘力は、
砲よりも情報処理能力にあった。
・艦橋上部のフェイズドアレイレーダー
・対水上レーダー
・射撃管制用FCS
・衛星通信用アンテナ
・位置誘導アンテナ
・艦橋上部を覆う監視カメラ群
これらは全てCICに集約され、
海兵隊の指揮官も同じ情報を共有できる。
つまり――
上陸作戦の司令部が艦内にあるということだ。
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航空運用能力
飛行甲板は全通式。
エレベーターは2基。
最大25機の航空機を運用可能。
・回転翼機
・垂直離着陸機
・短距離離着陸機
制空戦闘ではなく、
上陸支援と兵力輸送に特化した編成が想定された。
発艦と着艦は素早く、
航空機は次々と前線へ送り込まれる。
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ウェルドックと揚陸能力
艦尾下部には大型ウェルドック。
・上陸用舟艇 ×8隻
を搭載可能。
注排水によって艦内を水没させ、
そのまま舟艇を発進させる。
さらに将来構想として、
・大型高速上陸艇 ×3隻
の運用も視野に入れられていた。
「甲板から空へ
船腹から海へ
そして砂浜へ」
祥鳳は、
その全てを同時に行える。
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一番艦「祥鳳」が就役した日、
海兵隊は即座に実地訓練を開始した。
結果は明白だった。
・以前より上陸までの時間が激減
・指揮系統の混乱が消失
祥鳳は、
「揚陸艦」ではなかった。
動く前線基地
海上から陸へ橋を架ける艦
だった。
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静かに海を進む祥鳳の甲板には、
今日も回転翼機が並ぶ。
次にその艦首が向く先は、
すでに日本の作戦圏内である。
一番艦「祥鳳」は、
新大陸・ノーフォーク造船所にて建造された。
巨大なドックに収まるその艦は、
戦艦でも空母でもない――
だが、戦争の形を変える艦として誕生した。
就役と同時に、
祥鳳は海兵隊第1師団に配備される。
形式上の運用主体は海軍である。
しかし艦内の空気は、明らかに違っていた。
艦橋、CIC、航空管制室、
そしてウェルドック管制区画。
そこに詰めているのは、
常に海兵隊の将校と下士官だった。
「この艦は、海兵隊のためにある」
それがこの艦の意味だった。
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上陸戦術の実験艦
祥鳳の任務は単純だが重い。
上陸戦の全てを洗練させること。
・強襲上陸
・航空支援
・夜間上陸
・悪天候下の展開
・電子妨害下での指揮維持
そのすべてを、この一隻で試す。
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訓練開始
演習海域。
夜明け前、
祥鳳は静かに速度を落とす。
艦尾のバラストが調整され、
ウェルドックに海水が流れ込む。
赤色灯に照らされた艦内で、
上陸用舟艇と水陸両用車が暖機運転をする。
ディーゼルと電動モーターの低い唸り。
管制員の声が淡々と響く。
「ウェルドック注水完了」
「発進準備、第一波」
艦尾ゲートが開く。
黒い海へ、
舟艇が次々と滑り出していく。
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航空支援の展開
同時に、甲板では別の動きが始まっていた。
瑞雲――
回転翼機が並び、
ローターが回転を始める。
航空管制室では、
・地上部隊
・舟艇
・随伴駆逐艦
・艦載機
すべての位置が統合表示されている。
「瑞雲1、発艦許可」
「瑞雲2、続け」
甲板灯が切り替わり、
瑞雲が次々と夜空へ舞い上がる。
低空で前線へ向かい、
・敵後方陣地への降下
・照明弾投下
・近接航空支援
を即座に開始する。
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火力の壁
上陸部隊の前方では、
随伴する駆逐艦と強襲揚陸艦が火力を集中する。
120mm速射砲が唸り、
照準は海岸線をなぞる。
瑞雲からのリアルタイム映像が
即座にFCSへ反映される。
「着弾確認、修正不要」
海・空・陸の火力が
一つの意思で動く。
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上陸
舟艇が砂浜に到達する。
ランプが下がり、
海兵隊が飛び出す。
同時に、
水陸両用車が波を割って前進。
夜間でありながら、
迷いは一切ない。
それは――
祥鳳の中で、
全てが計算され、共有されているからだった。
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ノウハウの蓄積
演習後、
祥鳳のCICには膨大なデータが残る。
・発艦から支援開始までの秒単位の遅延
・舟艇と航空支援のタイミング差
・夜間照明の最適配置
・通信遮断時の代替指揮経路
それらは即座に分析され、
次の演習に反映される。
祥鳳は、
完成品ではない。
だが、
完成へ最短距離で進むための艦だった。
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静かな海を進む祥鳳の甲板には、
再び瑞雲が並ぶ。
次の訓練、
次の上陸、
次の戦場。
この艦が通った後には、
必ず上陸の正解が残されていく。




