物語序章 第一版 217章
大和型超大型原子力戦艦
それは「戦艦」と呼ばれてはいたが、
誰もそれを純粋な戦闘艦だとは考えていなかった。
計画名――大和。
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構想
長門型が世界に姿を見せた直後、
海軍中枢と工学研究部門の間で、ある結論が共有された。
「限界を知らねば、次の世代は作れない」
戦場で使う艦ではない。
外交のための艦でもない。
技術の天井を叩くための艦。
それが、大和型の本質だった。
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建造
建造地は拡張された専用造船区画。
既存のドックでは収まらず、
海そのものを囲い込む形で造船所が作られた。
全長380m
全幅40m
排水量70000t
長門を見慣れた技師たちでさえ、
その船体を前にして声を失った。
「……まるで城だな」
鋼鉄の城が、
ゆっくりと形を成していく。
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動力と心臓
四基の原子炉が据え付けられる。
電力は推進だけでなく、
技術そのものを動かすために使われる。
艦内に張り巡らされた電力系統は複数に分かれ、
どれか一つが失われても、
艦は機能を止めない。
原子炉の低く安定した鼓動は、
この巨大艦を「強固な存在」にしていた。
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砲と沈黙
主砲――
500mm砲。
前世にも存在しなかった口径の艦砲。
だが攻撃のためではない。
「作れるか」を確かめるための砲だった。
砲身の応力、
反動制御、
射撃時の電力変動。
すべてが記録され、
次の兵器へとつながっていく。
艦内では、こう囁かれていた。
「大和が撃つ砲弾は、未来へ飛ぶ」
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艦内中枢
CICは、もはや作戦室ではない。
陸・海・空、
すべての情報が集まり、
統合され、
演算される。
そこに設置されたスーパーコンピューターは、
戦争司令部そのものを艦内に成立させる力を持っていた。
「これは艦ではない
――浮かぶ研究都市だ」
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防御という思想
装甲は分厚いが、
それ以上に賢い。
区画は細かく分断され、
損傷が発生すれば自動で隔離される。
沈まないための工夫は、
「当たらない」ことよりも重視されていた。
なぜなら――
沈めてはならない艦だったからだ。
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実験艦として
大和は、前線に立たない。
新型レーダー、
電子妨害装置、
衛星連携、
新世代兵器。
まず搭載され、
試され、
壊され、
改良される。
「失敗していいのは、大和だけだ」
そう言われるほど、
すべての実験はこの艦を通過した。
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戦闘向きではない。
回頭は鈍く、
被弾すれば修復に時間がかかる。
だが、
この艦がなければ生まれない技術がある。
大和は、
未来の艦艇たちにとっての
「母艦」だった。
大和型超大型原子力戦艦
一番艦 大和
呉の造船所で、大和は生まれた。
それは進水式というより、
巨大な実験施設が海へ移動した瞬間だった。
鋼鉄の船体は静かに浮かび、
煙も蒸気も上げないまま、
ただ原子炉の低い振動だけが艦内を満たしていた。
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就役後
竣工と同時に、大和は戦力として数えられなかった。
配属先は前線ではなく、
海軍技術研究本部と直結した技術実証艦指定。
・新型フェイズドアレイレーダー
・艦内統合電力制御
・新型射撃管制システム
・VLSの運用試験
・電磁妨害対策
・複合装甲の被弾再現実験
次々と装備が載せられ、
次々と外され、
艦内は常に工事中だった。
「大和は完成しない艦だ」
それが合言葉だった。
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技術的役割
大和は実用化直前の技術を受け持つ。
・現場で使えるか
・兵員が扱えるか
・故障した時に復旧できるか
理論ではなく、
実際に海の上で使えるかどうかを検証する。
艦内には常時、
技師・研究員・解析官が乗艦し、
乗員数は戦艦としては異様なほど多かった。
「大和は艦であり、教科書である」
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四基の原子炉は余裕があったが、
それでも「未来」をすべては賄えなかった。
高出力兵器を同時に稼働させると、
レーダー系統に一瞬の電力揺らぎが出る。
それは致命的ではないが、
理想ではなかった。
そこで、
次の艦の構想が始まる。
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二番艦 武蔵
横須賀で建造された武蔵は、
最初から性格が違った。
「これは実用艦ではない」
設計段階で、
そう明言されていた。
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設計思想
武蔵は研究者の欲望そのものだった。
・原子炉 五基搭載
・総発電能力 160,000kW
・高エネルギー兵器同時稼働前提
・電力余剰を常に確保
「足りないかもしれない」ではなく、
「余る前提」で作られた艦。
艦内電力網はさらに細分化され、
一部区画だけで都市一つ分の電力を扱える。
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実験内容
武蔵では、
大和では“できなかったこと”が行われた。
・高出力レーダー常時稼働
・電子妨害と探知の同時最大出力
・試験用レーザー兵器の連続照射
・複数砲塔の同時最大電力射撃
・将来型電磁砲の模擬負荷試験
艦内の記録装置は、
常に限界値を書き換えていく。
「武蔵は答えを出す艦ではない
問題を作る艦だ」
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技術者たち
武蔵には、
若手から第一線の研究者までが集められた。
失敗してもいい。
壊してもいい。
ただし――
理由を記録しろ。
艦内には実験ログ専用のデータサーバーがあり、
武蔵が動くたびに
未来の艦艇設計図が書き換えられていった。
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大和が「使えるか」を示し、
武蔵が「どこまで行けるか」を示す。
この二隻によって、
日本海軍の艦艇設計は
300年先の技術を先取りして進むことになった。
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海に浮かぶ二つの異形。
一つは現実のために。
一つは夢のために。
そして両方が揃って初めて、
次の時代の艦が生まれるのだった。




