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明賢の物語(日本建国物語)試作版 第一版  作者: 大和草


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215/248

物語序章 第一版 215章

1号原子力潜水輸送艦計画


原子力潜水艦くろしお型の運用データが蓄積されるにつれ、

日本海軍内部では次の課題が明確になっていった。


それは――

「気づかれないように、いかに戦力を届けるか」

という問題である。


未開の島嶼、

敵国の沿岸奥深く。


水上艦では発見され、

航空機では痕跡が残る。


そこで構想されたのが、

潜水艦による“輸送”という発想だった。



極秘艦種の誕生


この艦は、

戦闘を主目的としない。


だが、

戦争の趨勢を左右する。


公式艦種名は与えられず、

内部ではただこう呼ばれた。


「1号原子力潜水輸送艦」


全3隻のみ。


存在そのものが、

極秘とされた。



設計思想


設計にあたって求められた条件は苛烈だった。

•世界中どこへでも到達できること

•数か月単位で潜航し続けられること

•大規模な人員と物資を一度に送り込めること

•上陸の瞬間まで、存在を悟らせないこと


その結果、

艦は従来の潜水艦とは一線を画す巨大さを持つことになる。



基本諸元

•全長:160m

•全幅:24m

•動力:原子炉2基

•推進:電気式スクリュー推進

•最大速力:45km


双胴に近い内部構造を持ち、

耐圧殻内には複数の区画が設けられていた。



武装と防御


この艦は「輸送艦」だが、

無力ではない。

•魚雷発射管:6門

•搭載魚雷数:20発


主な役割は防御と離脱。


敵に発見された場合でも、

最低限の戦闘を行い、

輸送任務を完遂するための装備である。



輸送能力


艦の最大の特徴は、

その内部容積にあった。


艦内には広大な貨物積載スペースがあり、

•水陸両用車

•特殊作戦用小型艇

•海兵隊部隊

•特殊部隊

•弾薬・燃料・通信装備

•簡易指揮所ユニット


などを搭載可能だった。


兵員は数百名規模で収容でき、

長期間の作戦支援を前提に

生活区画や医療区画も充実している。



運用構想


この艦は、

決して単独で歴史の表舞台に立たない。


だが、

•反乱地域への秘密展開

•島嶼部への先行展開


あらゆる影の作戦に投入されることが想定されていた。


海兵隊と特殊部隊は、

この艦をこう呼んだ。


「海の中を走る前線基地」



明賢は、この艦の設計図を前にして

短くこう言ったという。


「これは兵器ではない」

「選択肢だ」


最小限の戦力で勝つための選択肢。

戦う前に布石を打つための艦。


この潜水輸送艦は、

日本の潜水艦戦略思想どある

先制発見、先制攻撃の象徴でもあった。


1番艦「きい」就役


1654年

原子力潜水輸送艦一番艦は静かに就役した。


艦名――

きい


それは山脈の名であり、

「屋根となり、人を支える存在」であることを願って付けられた名だった。


就役式は簡素だった。

この艦は英雄になるための艦ではない。

歴史の裏側で、人を生かすための艦だからだ。



緊急命令


就役から一年も経たぬ 1655年。


新大陸、アンティル諸島一帯に

記録的規模のハリケーン が襲来した。


開拓途中の島々は、

•十分な住宅を持たず

•防潮設備も未整備

•医療体制も脆弱


結果、集落は壊滅的な被害を受けた。


海上保安庁から、

ただちに司令部へ緊急要請が入る。


「大規模人員・物資輸送が必要」

「港湾機能は部分的に麻痺」


そこで白羽の矢が立ったのが、

就役したばかりの きい だった。



出動


当時、きいは

新大陸東岸・ノーフォーク に寄港していた。


命令は簡潔だった。


災害派遣任務に移行せよ


艦内の空気が一変する。


人命を救う任務。


即座に積み込みが始まった。

•海兵隊支援部隊

•医療班

•水陸両用車

•大量の食料

•医薬品

•淡水化プラント

•簡易住宅ユニット


きいは、

「潜水艦」という皮を被った

巨大な救援拠点へと姿を変えた。


出航。


モーターは静かに唸り、

きいは大西洋へと消えた。



到着


2日後


きいはアンティル諸島沖に到達する。


港は破壊され、

桟橋は流され、

水上艦艇の接岸は困難だった。


だが、きいには問題にならない。


沿岸へ近づき、浮上。


ハッチが開き、

次々と水陸両用車により人員と物資が送り出された。



海兵隊の展開


海兵隊は即座に行動した。

•倒壊家屋からの救出

•臨時医療所の設置

•治安の維持

•物資配給拠点の確保


きいは沖合に留まり、

移動司令部兼補給拠点として機能する。


艦内の通信室は休むことなく稼働し、

各島の状況が逐次集約された。



真水の価値


最大の問題は、

水 だった。


ハリケーンによって

井戸は汚染され、

貯水槽は破壊されていた。


そこで投入されたのが、

出航時にきいに搭載された 緊急用淡水化プラントである。


原子炉から供給される膨大な電力を使い、

海水は絶え間なく真水へと変えられた。


昼も夜も関係なく。


数週間にわたり、

きいは 海の上の水源 となった。


真水は、

•ドラム缶

•タンク

•仮設パイプライン


を通じて各島へ送られた。



島々を巡る


小型艇や輸送ヘリが使えない場所には、

水陸両用車が投入された。


きいが運んできた車両が、

瓦礫の中を進み、

人々のもとへ物資を届ける。


子供たちが

巨大な潜水艦を遠くから指差し、

大人たちは静かに頭を下げた。


艦の名を知る者はほとんどいない。


だが、

助けが来た

という事実だけは、確かだった。



任務完了


数週間後。

•救援本隊の到着

•臨時住宅の設置完了

•医療体制確立


きいは静かに任務を終える。


帰投命令が下り、

最後の真水が配られた後、

きいは再び潜航した。


誰にも見送られず、

記録にもほとんど残らず。



この任務によって、

•原子力潜水輸送艦の災害対応能力

•長期間電力供給能力

•大規模人員展開の実証


が現実のものとして証明された。


海軍内部の報告書には、

こう記されている。


「きいは戦わずして能力を示した」

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