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明賢の物語(日本建国物語)試作版 第一版  作者: 大和草


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214/248

物語序章 第一版 214章

原子力潜水艦の建造


思想としての潜水艦


この時代まで、

日本海軍における潜水艦は

あくまで「研究対象」であり、

主戦力ではなかった。


理由は単純である。


中途半端な潜水艦を持つ意味がなかった。


航続距離が短く、

補給を必要とし、

行動範囲が限定される潜水艦は、

日本が想定する「地球規模の海」においては

足枷にしかならない。


だからこそ――

日本海軍は決断していた。


最初から、原子力で行く。



原子力潜水艦に求められた条件は明確だった。

•全世界の海域に展開可能

•補給に依存しない長期作戦能力

•高速で静粛

•単艦で完結する打撃力


見えない艦隊

それが原子力潜水艦の本質だった。



戦略型を造らない理由


当初から、

戦略型原子力潜水艦――

すなわち「あの兵器」を搭載する艦の構想は存在していた。


だが、明賢はそれを退けた。


この時代、

世界はまだその規模の破壊力を

受け止める段階に達していなかった。


抑止は必要だが、

絶滅を前提とする均衡は不要。


だから日本海軍は、

あえて 攻撃型原子力潜水艦のみ を選択する。


それは、

「戦争を起こさせない力」ではなく、

「戦争を成立させない力」だった。



第一世代原子力潜水艦


設計は、

二号炉と宗谷で培われた小型加圧水型原子炉を基礎とする。

•長期間燃料交換不要

•振動源を極力排した構造

•自然対流冷却を重視

•電気推進による静音化


潜水艦という存在において、

速力や武装以上に重要なのは

存在を悟られないこと だった。



艦型の思想


この潜水艦は、

「待ち伏せる艦」ではない。

•常に移動し

•常に情報を集め

•必要とあらば即座に打撃を与え

•そして、消える


海中における

自由な攻撃点

それが彼らの役割だった。



潜水艦隊の創設


潜水艦は単艦では完結するが、

運用は単独では行わない。


原子力潜水艦は、

•空母機動艦隊の斥候

•極地航路の要所

•敵国軍港の近海


あらゆる場所に展開し、

艦隊の「目」と「牙」 となる。


こうして、

水上に見える艦隊の下で、

もう一つの艦隊が形成されていった。



誰にも見えない再編


海図には記されない航路。

通信にも残らない航行。


だが確実に――

世界の海は変わり始めていた。


明賢はそれを理解していた。


海を支配するとは、

海の上に立つことではない。

海の下を支配することだ。


1650年攻撃型原子力潜水艦 くろしお型


一番艦「くろしお」就役


1650年、

ついに日本海軍は

史上初の実用原子力潜水艦 を保有するに至った。


艦名――

攻撃型原子力潜水艦 くろしお



主要諸元

•全長:110m

•全幅:10m

•排水量:7,500t

•原子炉:加圧水型原子炉 1基(出力 20,000kW)

•推進方式:電磁スクリュー推進

•最大速力:50km/h


武装:

•600mm魚雷発射管 ×4基

•搭載魚雷:30本


外観は葉巻型で、

艦橋構造物も低く抑えられていた。


見つからないことが最大の武装

という思想が、艦体の隅々まで貫かれていた。



設計思想


くろしお型は、

速力・航続距離・静音性の

いずれかを犠牲にする設計ではない。


すべてを満たすことを前提としていた。

•原子炉は自然対流を最大限活用し

•主循環ポンプは巡航時ほぼ停止

•駆動系は完全電動化

•艦内機器は浮動支持構造


結果として、

一定速力以下では

海洋雑音に紛れて完全に消える艦 となった。



就役式


横須賀軍港。

雨の中、簡素な就役式が行われた。


大々的には行われず、最小限で行われた。


この艦は、

存在を誇示するための艦ではなかったからだ。


艦長は短く宣誓した。


「本艦は、人々の見えぬところで

日本の海を守る。」


それだけだった。



公試運転


出港後、

くろしおは静かに潜航した。


潜航深度、

通信、

原子炉出力、

すべてが予定通りに推移する。


やがて艦は、

完全に水中へと姿を消した。


その瞬間、

日本海軍は

新しい次元の戦力を手に入れた。



量産計画


くろしお型は実験艦ではない。

•同型艦 建造予定数:70隻


これは、

特定の敵国を想定した数ではない。


地球全体の海を、常時監視するための数

であった。


海は広い。

だが、

潜水艦はどこにでもいる。


常に動き、

常に潜み、

常にそこにいる。



1650年の時点で、

世界のどの国も気付いていなかった。

•海の下に

•原子力で動き

•数十隻単位で展開可能な

•攻撃型潜水艦が存在することを


だが、

海は確実に変わり始めていた。



くろしおは、

何も告げず、

何も残さず、

ただ海に溶けていった。


1652年攻撃型原子力潜水艦 くろしお

北極海極地運用試験


特別任務発令


1652年初頭、

第1潜水艦艦隊司令部に

一通の命令書が届いた。


内容は簡潔だった。

•北極海における極地運用試験の実施

•第1次北極観測隊の極秘護衛


実施艦――

くろしお


世界で唯一、

長期間潜航可能な艦。



二重の任務


表向きの任務は、

あくまで極地運用試験である。

•流氷下での航行性能

•極低温下での機関・原子炉の安定性

•音響環境が特殊な海域での探知能力

•氷下からの浮上・通信手順


だが、

命令書の最後に添えられていた一文が、

この任務の本質を示していた。


「観測船しらせの航行を、

可能な限り秘匿された状態で援護せよ」


水上艦艇では、

流氷海域での護衛は不可能。


氷に阻まれ、

速度も自由も奪われる。


護衛できるのは、海の下だけだった。



知らされない護衛


この護衛任務は、

観測船しらせの艦長にも知らされない。


理由は二つ。


ひとつは、

本物の観測任務環境を再現するため。


もうひとつは、

潜水艦が「誰にも気づかれず目標に接近できるのか。」

という能力を試すためだった。


皮肉なことに、

しらせの艦長は

くろしお艦長の士官学校時代の先輩である。


だが、

その事実すら作戦には関係ない。



出港前夜


くろしおは、

護衛より先に出港した。


観測船しらせより

数日早く北へ向かい、

すでに氷縁付近で待機する。


艦内では、

北極海特有の音響データが

次々と記録されていく。

•氷が擦れ合う低周波音

•氷下空洞で反射する異常反響

•通常海域とは全く異なるノイズ


ソーナー員は言った。


「……海が、鳴いています」



氷の下の護衛


しらせが流氷帯に突入する頃、

くろしおはすでにその真下にいた。


深度を抑え、

氷下面との距離を一定に保ちながら

並走する。


時折、

氷の割れ目から落ちてくる

無数の氷片が

艦体を叩く。


金属音は、

水中では鈍く、

しかし確かに響いた。


それでも艦は沈黙を守る。


くろしおは、

護衛であることを悟らせてはならない。



潜水艦戦術の実地検証


この航行は、

単なる護衛ではなかった。

•水上艦の真下を追従する航法

•氷下での待機・急加速

•敵艦船を想定した仮想接触演習


すべてが、

実戦に限りなく近い形で試された。


艦内では

戦術士官が小声で言った。


「もし敵がいるとしたら、

ここは天国です」


氷と氷の反響で、

水上も水中も視界は悪い。


だが――

慣れた者にとっては、最高の狩場でもある。



気づかれぬ存在


しらせの艦内では、

誰一人として

護衛に気づいていなかった。


ただ、

•氷下で原因不明の反響が消える

•進路前方で氷の割れ方が不自然に変わる

•氷下の海流が局所的に乱れる


そんな「違和感」だけが、

記録として残されていった。


それらの正体が

潜水艦による事前処理

であると知る者は、いない。



極地での沈黙


北極海の中央部で、

しらせが観測を行っている間も、

くろしおは沈黙したまま待ち続けた。


原子炉は安定。

艦内温度も問題なし。


極地は、

この艦にとって

「十分に作戦可能である」ことが証明されつつあった。



海の下で、

誰にも見えず、

誰にも知られず、

任務は果たされていく。


北極海極秘護衛任務


極地での航行データ収集は、

すでにすべて完了していた。


•極低温下での原子炉挙動

•音響特性の統計


あとは、

この任務の最後の儀式だけである。



“証明”の準備


くろしおは、

しらせの航路を完全にトレースした。


速度、

針路、

微細な揺れ。


すべてを合わせ、

影のように後方につく。


艦内は静まり返っていた。

•不要な機器は停止

•ポンプは最低回転

•乗員の移動も制限


無音浮上。


それが、この艦の誇りだった。



浮上開始


バラスト調整完了。


くろしおは、

ゆっくりと、

氷と水の境界へ向かって上昇を始めた。


――50メートル。


その瞬間だった。



異変


しらせの推進音が、

唐突に消えた。


同時に、

甲高い探信音が

艦内を包み込む。


ピン……ピン……ピン……


海底探査用――

しらせ搭載の

音響反射装置アクティブソーナー


意図的だった。


完全に、

この違和感を感じている。



艦長の沈黙


艦橋でモニターを見つめる

くろしお艦長は、

思わず微笑んだ。


「……さすがです、先輩」


音響環境、

氷下の反射、

ノイズの海。


その中で、

違和感を見逃さなかった。



くろしおは、

浮上を止めなかった。


「浮上続行」


「通信準備」


「浮上と同時に回線を開け」


命令は静かに、

しかし確信に満ちていた。



浮上


艦体が、

水面を破る。


氷片が、

黒い艦体を滑り落ちる。


ハッチが開き、

冷気が艦内へ流れ込んだ。


くろしお艦長は

ゆっくりと梯子を上り、

艦橋へ出た。


目の前には――

停止したままの

観測船しらせ。


その甲板には、

すでに人影が見える。



通信開始


「回線、開け」


無線が繋がる。


一瞬の沈黙。


そして、

くろしお艦長は

はっきりと告げた。

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