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明賢の物語(日本建国物語)試作版 第一版  作者: 大和草


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210/248

物語序章 第一版 210章

異変


流氷がさらに厚みを増し、

砕氷音だけが世界を満たしていた、その時だった。


艦内通信が入る。


「水測室より艦橋へ」


少し間を置いて、

緊張を含んだ声が続く。


「ソーナーで奇妙な音を探知しました」


艦橋の空気が変わる。


「氷床の崩壊音か?」


艦長が即座に問い返す。


「それとは違います。

断続的です。

規則性があります」


水測室では、

ヘッドフォンを付けた水測員が

画面と音に集中していた。


ゴン……ゴン……


一定ではないが、

明らかに人工的な音。


しかも——


「距離、縮まっています」


誰かが唾を飲み込む音がした。



接近音


ソーナー画面上の反応は弱い。

だが、確実に存在している。


「方位ヒトハチマル。

深度、浅い」


艦橋では即座に指示が飛ぶ。


「砕氷を一時停止。

 推進出力を落とせ」


しらせは氷に押し付けられたまま、

静止状態に入る。


その瞬間、

音はよりはっきりと聞こえた。


……ゴン、……ゴン、……ゴン


不規則だが、

意志を持ったような音。


研究員の一人が言った。


「生物……?」


しかし、

北極海の生物が出す音とは明らかに違う。


金属音に近い。



艦長は短く命じた。


「司令部に即時報告。

 水測員は記録を送信」


通信士が回線を開く。


「こちら観測船しらせ。

北極海北進中。

不明音源を探知。

接近中」


返信はすぐには来ない。


氷に囲まれた静寂の中、

艦内の全員が、

その音に耳を澄ませていた。


断続的な音は、

確実に近づいてきていた。



北極は、

ただの無人の海ではなかった。


氷下の護衛


断続的だった音は、

いつしか明確な「存在感」を持ちはじめていた。


しらせは完全に停止した。


推進器の音が消え、

氷がきしむ音だけが残る。


その直後だった。


艦尾方向、

流氷の隙間から――

黒色の巨大な塊が、浮かび上がってきた。


艦橋の誰もが息を呑む。


氷を押し分け、

水面を割って現れたそれは、

滑らかな曲面を持つ鋼鉄の塊だった。


黒く、艶のない船体。

余計な突起は一切ない。


潜水艦だった。



浮上


バラスト調整音が低く響き、

艦橋の真後ろ、ほとんど触れそうな距離で完全浮上する。


潜水艦のハッチが開き、

冷気とともに人影が現れた。


防寒服に身を包んだ士官が、

慣れた動作で艦橋を見上げる。


同時に、

無線室から声が飛んだ。


「艦長、無線です。

応答を要求しています」


艦長は一瞬だけ潜水艦を見つめ、

短く命じた。


「回線を開け」



交信


ノイズ混じりの回線が開く。


先に口を開いたのは、

しらせの艦長だった。


「こちら、日本海軍観測船しらせ。

貴艦の所属を明言せよ」


一拍の沈黙。


そして、

どこか余裕を含んだ声が返ってきた。


「こちら、日本海軍

第一潜水艦艦隊・旗艦くろしお」


艦橋に小さなどよめきが走る。


第一潜水艦艦隊。

日本海軍でも、

存在自体が秘匿されている部隊。


その声は続いた。


「お久しぶりです、先輩」


その一言で、

艦橋の空気が一変した。



艦長は即座に問い返す。


「なぜ、ここに?」


くろしおの艦長は、

あくまで淡々と答えた。


「水上艦艇では、

この海域での完全護衛は不可能です」


「流氷、視界不良、

そして――万が一の不測事態」


「よって、

北極点到達まで、

我々が水中から護衛します」


その言葉には、

余計な感情が一切なかった。


だが、

絶対的な自信だけがあった。



氷の下で


しらせの艦橋から見えるくろしおは、

再び静かに沈み始めていた。


氷の下へ。

人の目の届かない領域へ。


「以後、

定期的に位置と進路を共有してください」


「何かあれば、

こちらから接触します」


それだけを告げると、

通信は切れた。


ソーナー画面には、

しらせの直下を並走する

一つの影が映っている。


確実に、

守られている。



再び北へ


艦長は深く息を吸い、命じた。


「主機、前進。

 北極点へ向かう」


しらせは再び、

氷を砕きながら前へ進み始めた。


だが今度は違う。


見えない場所で、

もう一隻の艦が

同じ場所へ向かって進んでいる。


氷上と、氷下。

二つの艦は、

同じ北を見ていた。

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