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明賢の物語(日本建国物語)試作版 第一版  作者: 大和草


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201/248

物語序章 第一版 201章

南下開始


補給完了。


宗谷は再び出航する。


進路――真南。


海の色が変わり始める。

空気が、わずかに冷たくなる。



護衛の離脱


タスマニア島南端。


ここまで、

日本海軍の駆逐艦は宗谷を守り続けた。


だが、この先は――

誰の海でもない世界。


護衛艦は進路を変え、引き返していく。


最後に、短い無線が入る。


「これより護衛任務を終了する。

武運を祈る。」


宗谷は、返答する。


「了解。

これより南極海へ向かう。」


通信は切れた。



孤独な航海へ


背後に、何もない。


前方には、

地図の白紙だった世界が広がっている。


ここから先は――

誰も助けに来ない。


宗谷は、ただ静かに進む。


原子炉の低い唸りだけを伴って。


南緯五〇度線 ―― 荒ぶる海


南緯五〇度を越えたあたりから、

海は明確に性格を変えた。


うねりは高く、周期は短くなる。

風は一定方向から吹かず、

波の頂点が白く砕け始める。


ここは――

南極海の入口。


前世の人類が最も忌避してきた海域のひとつだった。




気圧は急降下し、

観測室のアナログ気圧計の針は

目に見えて落ちていく。


ほどなくして、

宗谷は嵐の中心に飲み込まれた。


巨大な波が、

船体を横から殴る。


次の瞬間、

船は大きく傾いた。


――四十度。


さらに、もう一撃。


――五十度超。



船内


船内は、もはや秩序を失っていた。


固定が甘かった食器は棚から飛び出し、

床を滑り、砕け散る。


人は立つことができず、

壁や手すりにしがみつくしかない。


研究者も、熟練の海軍兵も、

区別はなかった。



船酔い


通路には人が座り込み、

中には動けなくなっている者もいた。


トイレの前には、

自然と列ができる。


扉の向こうから聞こえるのは、

押し殺された嘔吐音。


どれほど経験を積んだ海軍の船員であっても、

これほどの大時化に遭遇することは稀だった。


誰もが悟っていた。


――この海は、人を選ばない。



甲板上


嵐の合間、

一瞬だけ風が弱まる。


その隙を逃さず、

甲板要員が飛び出した。


全身を安全ワイヤーで固定し、

波を被りながら前進する。


調査用パッケージ――

観測機器、基地モジュール部材、

観測車の分解部品。


すべてが

鋼索で甲板に縛り付けられている。


だが、南極海は容赦しない。


波は容器ごと包み込み、

氷水が叩きつけられる。



固定確認


短時間で作業は終えなければならない。


一本ずつ、

ワイヤーの張力を確認。


緩みなし。

破断なし。


確認の合図が出ると、

甲板員たちは這うようにして戻ってくる。


宗谷は再び、大波に叩かれた。



静かな確信


船体は軋み、

揺れは止まらない。


それでも、

原子炉は沈黙したまま安定していた。


燃料切れの心配はない。

火が消えることもない。


この船は――

嵐に耐えるために造られた。


明賢は、船内で静かに揺れを受け止めながら、

白い地平線の向こうを思っていた。


この海を越えなければ、

南極は踏めない。


嵐の果て ―― 南極海


ある瞬間を境に、

世界は嘘のように変わった。


あれほど船体を叩いていた風は止み、

波は次第に低くなり、

やがて――音が消えた。


耳に残るのは、

船体内部を伝わる低い振動音だけ。


宗谷は、

静寂の空間へと滑り込んでいた。



異様な静けさ


空は鉛色のまま変わらない。

だが、嵐は確実に背後へ去っていた。


海面は荒れてはいるものの、

もはや牙を剥く様子はない。


誰もが気づいていた。


――ここから先は、

嵐ではなく氷の世界だ。



流氷


最初に見えたのは、

白い破片だった。


次第に数が増え、

やがて海面のあちこちに浮かび始める。


流氷。


互いにぶつかり合い、

低く鈍い音を立てて回転する。


宗谷の船首が、

最初の氷に触れた。


――ゴリッ。


鈍いが、確かな感触。


砕氷船として設計された船体は、

躊躇なく氷を押し分けて進む。



南極海突入


航海長が、静かに告げる。


「南極海、突入しました」


その言葉に、

船内に短いざわめきが走る。


長い航路、

嵐、

恐怖。


すべてを越え、

調査隊はついに目的の海へ到達した。



甲板確認


号令がかかり、

全員が甲板へ出る。


風は冷たいが、

先ほどまでの暴力的な風ではない。


船体外板。

艤装類。

甲板に固定された物資。


一つひとつ、

目と手で確認する。


ワイヤーは無事。

コンテナに損傷なし。

観測車モジュールも固定されたまま。


宗谷は、

嵐を完全に乗り切っていた。



通信


通信室に人が集まる。


アンテナを調整し、

回線を確保。


短く、しかし重みのある報告が送られた。


「我、観測船宗谷。

南極海到達。

船体・人員・積載物資、すべて異常なし。」


送信完了のランプが点灯する。


この通信は、

日本、

そして南極開発史に記録されることになる。



白い世界へ


甲板に立つ調査隊員たちは、

流氷の向こうを見つめていた。


まだ大陸は見えない。

だが、確実に近づいている。


白い大陸。

人類が足を踏み入れたことのない場所。


宗谷は、

静かに、確実に、

その入口へ進んでいった。

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