物語序章 第一版 198章
2号機の制作 ― 加圧水型原子炉(PWR)
1624年、1号機の安定稼働が確認されると同時に、
次の段階へと計画は移行した。
2号機。
それは、
発電所のための原子炉ではない。
――乗り物に載せるための原子炉である。
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目的
2号機は、将来建造される以下の艦艇・船舶を想定して開発された。
•原子力空母
•原子力潜水艦
•極地観測船
•砕氷船
•長期間無補給で航行する特務艦
共通する要求は、ただ一つ。
「壊れず止まらないこと」
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設計思想
2号機は、1号機とはまったく異なる思想で作られた。
長寿命
•退役まで燃料棒交換不要
•高濃度ウラン燃料を使用
•数十年単位で出力を維持
静音性
•ポンプ・流路を最小限に抑えた設計
•振動源を徹底排除
•潜水艦搭載を想定した極低騒音構造
抗堪性
•衝撃・傾斜・一部破壊を前提とした設計
•圧力容器は厚く、形状は極力単純
•制御棒は重力落下式を基本とし、電力喪失時でも確実に挿入される
小型化
•建屋を含めた総体積は1号機より大幅に小さい
•艦内配置を想定したモジュール構造
•将来的な艦種ごとの最適化が可能
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冷却系統 ― 三重防護
2号機では、放射性物質を絶対に外へ出さないことが最優先された。
冷却水は三段階で分離
1.一次冷却水
•炉心を直接冷却
•高圧・密閉
•放射性物質を含む
2.二次冷却水
•蒸気発生器を介して一次系と熱交換
•放射性物質なし
•タービンを駆動
3.海水冷却水
•二次系を冷却
•海水と直接接触するのはここだけ
この構造により、
例え一次冷却水が破損しても、
放射性物質は外界に出ない
という設計が成立していた。
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燃料
•高濃度ウラン燃料を使用
•反応度を極限まで高める設計
•出力密度は1号機を大きく上回る
小柄な炉心でありながら、
艦艇用として十分以上の出力を確保していた。
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建屋完成
東海村、研究施設内。
2号機専用の建屋が完成する。
•厚いコンクリート壁
•二重の圧力隔壁
•水密構造
•艦艇搭載を想定した振動試験設備
燃料棒はすでに装填され、
制御棒も所定の位置にある。
一次冷却水は満たされ、
圧力試験も完了。
残されているのは、ただ一つ。
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発電開始を待つ
制御室には、1号機とは異なる緊張があった。
これは都市を照らす炉ではない。
海の底で、氷の下で、戦場で動く炉だ。
明賢は静かに言った。
「この炉は、
人を守るために使え。」
「そして、
決して暴走するな。」
制御棒を引き抜くその瞬間を、
誰もが待っていた。
1627年 ― 2号炉、起動
1627年。
東海村、帝国大学・陸軍共同研究施設。
厚い隔壁に囲まれた制御室は、1号炉の起動時とは違う静けさに包まれていた。
人の声も、機械音も、必要最低限しか存在しない。
ここにあるのは――
**「艦艇に積むための原子炉」**である。
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起動操作
所定のチェックリストが淡々と読み上げられる。
•冷却水圧力:正常
•炉心温度:安定
•制御棒位置:挿入完了
•放射線量:自然放射線量と変わらず
異常なし。
明賢は短くうなずき、
制御板の前に立った。
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臨界
ボタンが押される。
制御棒が、ゆっくりと引き抜かれていく。
1号炉の時のような、緊張を煽る振動はない。
圧力容器内部は、驚くほど静かだった。
計器の針だけが、確実に動く。
中性子束、上昇。
核分裂反応、安定増加。
――臨界到達。
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送電開始
蒸気発生器が動き、
二次冷却系が回り始める。
タービンが回転を開始し、
送電ラインが接続された。
観測された出力。
25万kWh。
制御室に、抑えきれないざわめきが走る。
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評価
1号炉よりも小型。
それでいて、より高い出力密度。
そして何より――
圧倒的に静かだった。
耳を澄ましても、
感じられるのはわずかな流体音だけ。
潜水艦に載せても、
敵に気づかれない。
研究員の一人が、思わず漏らした。
「……これが、動いている音ですか?」
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意味するもの
明賢は計器を見つめたまま、静かに言った。
「これで、
海の距離制限はなくなる。」
「燃料補給の制約は、
もう我々には存在しない。」
2号炉は、
海軍力・空軍力・科学探査力のすべてを変える核心だった。
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次への布石
この成功により、
•原子力艦艇の設計は最終段階へ
•原子力潜水艦計画が軌道に乗る
•極地観測船・砕氷船の建造決定
•空母搭載原子炉としての実用化試験開始
すべてが、一気に動き出す。
二号炉 ― 実用化への鍛錬段階へ
2号炉は完成した瞬間から、
「完成品」ではなく 育てる兵器 として扱われた。
この炉の役割は単なる発電ではない。
艦艇に載り、戦場に出る原子炉――
そのための、あらゆる状況を想定した訓練と改良が始まった。
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静音性強化計画
まず最優先されたのは、静音性の極限化である。
従来の強制循環ポンプは、
どうしても振動と音を生む。
そこで目指されたのが――
次世代・自然対流型原子炉。
•冷却材の温度差による密度変化のみで循環
•ポンプ停止状態でも炉心冷却が成立
•振動源を極限まで削減
研究班は、
「音が存在しない原子炉」
という、前世でも到達が難しかった領域へ踏み込んでいった。
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被攻撃時の対策訓練
2号炉では、平時運用だけでなく
攻撃を受けた状況下での行動訓練が徹底された。
想定は多岐にわたる。
•建屋外部への砲撃
•冷却系配管の破損
•電源喪失(完全ブラックアウト)
•制御室損壊
•炉心部分への直撃想定(最悪ケース)
そのすべてで、
•自動停止が成立するか
•手動操作へ即座に移行できるか
•炉心損傷をどこまで抑えられるか
が、実機を用いて検証された。
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人が主役の炉
明賢の思想は一貫していた。
「どれだけ自動化しても、
最後に炉を守るのは人間だ。」
そのため、2号炉では
人員配置が意図的に厚くされた。
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配置人員
•主任機関士(海軍機関科将校)
•副機関士
•炉心管理担当
•冷却系統担当
•電力・タービン担当
•放射線管理担当
•非常時対応要員
特に点検員は多く、
•日常点検
•微細な異音・温度変化の把握
•計器値の「違和感」を読む訓練
が重視された。
この炉は、複雑であることを前提に設計されている。
だからこそ、
人間の目と経験が不可欠だった。
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海軍機関科の学び舎
2号炉は、
海軍機関科の最高訓練施設となった。
ここで学んだ人員は、将来――
•原子力空母
•原子力潜水艦
•原子力巡洋艦
•極地観測船
の心臓部を任されることになる。
彼らは単なる技術者ではない。
**「艦を生かす者」**として育てられていった。
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二号炉の立ち位置
•発電炉であり
•試験炉であり
•教育炉であり
•将来兵器の原点
2号炉は、
日本の原子力艦隊の精神的・技術的母体となった。




