物語序章 第一版 152章
宇宙ステーション建設
“大量輸送モード”で宇宙ステーション資材を次々投入
試験と同時に行われていたのが、
地球周回軌道に巨大宇宙ステーションを建設する計画である。
その名も
「きぼうステーション計画」
名前は将来への技術蓄積の意味で、
明賢が日本語に合った名称として付けた。
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軌道上に指定された“建設ポイント”
宇宙軍は軍事通信衛星と観測衛星を使い、
最も建設に適した軌道位置を割り出した。
そこは
•地上局との通信遅延が少ない
•再利用ロケットの投入軌道と相性が良い
という理由から選ばれた地点である。
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ステーションパーツを投下する流れ
再利用ロケットは貨物モードに切り替え、
毎日1~2個のステーション部材を宇宙へ送り込んだ。
投入されたものの例:
•太陽パネルブロック(長さ100m)
•居住区モジュール
•実験棟一次構造体
•観測機器マウント
•空気再生装置の主要部品
•接続ハブ(ノード)
•大型通信アンテナ
•災害監視センサー
軌道上では 前世のようにNASA も ESA も存在しないため、
世界で日本だけが“巨大人工物”を軌道に組み立てつつあった。
自動組立ロボットが稼働
宇宙飛行士を不用意に危険に晒さないため、
明賢は 組立ロボットを使うことにした。
宇宙軍と帝国大学が共同開発した
“軌道組立ロボット:ORU-01〜06” が
投入されたパーツを 自動で捕獲し、溶接・ボルト締結・配線を行っていく。
宇宙空間でアームを伸ばしながら組み立てる姿は、
まさに空のクモのようだった。
「人工衛星が静かに漂う世界に、
巨大な日本製ロボットが家を建てている……」
そんな光景が日本の宇宙開発記録に残った。
世界の科学者たちの混乱
各国の天文台では異常な現象が報告された。
•空に突如現れる巨大な影
•謎の光点が直線的に動く
•星よりも明るい人工の光が点滅
•望遠鏡に映る“長い構造物”のシルエット
しかし解像度が低く正体は不明であったため、
各国の科学者は再び日本大使館へ押し寄せる。
日本は、
「日本の宇宙実験である。安全であり他国に影響はない。」
とだけ説明し、詳細は完全に秘匿した。
世界はまたしても日本の技術力に震えた。
ステーションの骨格が完成へ
1年未満で、きぼうステーションの第一期構造が完成した。
•全長:300m
•重量:900t
•人員:最大40名滞在可能
•宇宙観測能力は日本の科学を50年進めるレベル
•重力実験区画や植物実験区画や将来的な拡張区画も完備
これは現代ISSの数倍以上の規模であった。
きぼう活動開始
1657年春 ― ついに宇宙ステーション「きぼう」へ人が渡る
完成から半年間の最終点検・耐久試験・自動運用を経て、
いよいよ宇宙ステーションに“人類”が常駐する段階に入った。
日本は既に宇宙に人工物を大量に展開し、
天宮ステーションは地上の誰も知らないところで
日夜稼働し続けていた。
この春、ついに宇宙飛行士が派遣されることとなった。
ローテーション制:6ヶ月ごとに交代
運用初年度は 総勢35名の宇宙飛行士が常駐する体制となる。
有人宇宙輸送船(再利用型中型ブースター使用)によって
4回に分けて送り込まれた。
第1弾(5名)
•ステーション指揮官(船長)
•航法・通信士
•機関主任
•医療担当
•総合科学班長
最初の5人は 「きぼうの起動チェック・空気循環系の本格稼働・居住区の最終点検」 を担当する精鋭だった。
第2弾(10名)
•地球観測チーム
•天文観測チーム
•植物実験チーム
•工学実験チーム
地球観測班は、高度400kmから台風・雲・山火事などをリアルタイム観測できる装置を扱った。
第3弾(10名)
•軌道建設班
•真空工学班
•軌道実験設備の運用班
•健康モニタリング班
ステーション増設のための「2期工事」を想定した専門家を中心に構成。
第4弾(10名)
•材料科学・化学実験班
•船外活動(EVA)班
•生命科学班
•地球帰還船の整備チーム
宇宙ステーションを“運営”するための心臓部にあたる人員であった。
計 35名 ― 人類史上最大規模の宇宙常駐隊
かつて世界のどの国も考えたことのない規模の「宇宙居住」が日本によって実現した。
きぼうステーションの構造は前世ISSの数倍規模であり、
複数の居住ブロック、植物実験区、材料製造区、通信区、
展望観測モジュール、緊急避難区画などから成る。
地球は常に巨大な窓から青く輝き、
宇宙飛行士たちは夜になると
世界の都市の光を肉眼で確認できた。
初代クルー(35名)に割り当てられた任務
① 地球・宇宙観測の本格開始
•地球の気象をリアルタイムで監視
•気候変動の初期兆候を観測
•太陽活動の長期モニタリング
•宇宙望遠鏡による観測
•重力波探査の基礎データ収集
② 材料実験
微小重力を利用し、地上では作れない
超純度結晶や特殊金属の製造を試した。
③ 生物学研究
植物の根の成長
筋肉・骨の劣化速度の測定
微小重力下での菌や細胞の成長研究など
④ ステーションの増設準備
•接続ノードの確認
•電力供給の余力測定
•将来の「月軌道ステーション」への技術研究
⑤ 日本本土へ24時間リアルタイム通信
各種衛星やハワイ・琉球・フロリダの3つの地上局と常時リンクを維持し、
膨大な量の観測データを送信した。
世界はこの巨大構造物の正体を未だ知らない
各国の望遠鏡には、
•巨大な平面の影
•直線的に動く人工の光
•星より明るい点
•奇妙な反射
などが何度も記録されていた。
しかし解像度が足りず、
それが“地球上最大の人工物”であるとは誰も知らなかった。
日本の大使館には世界中の科学者が質問しに来たが、
日本は情報秘匿を徹底した。
「日本の実験である。
他国に危険はない。」
それ以外は何も言わなかった。
第1クルー打ち上げ ― 5人と大量の物資を乗せた有人宇宙船
第1弾クルーの人数が少ない理由は単なる“試験”ではない。
天宮ステーションへ半年分の生活物資を大量に搬入しなければならなかったためである。
10人乗りの有人宇宙船は、
本来なら10名分の座席と居住区を備えているが、
今回その半分は 巨大な物資コンテナ へと置き換えられていた。
持ち込んだ主な物資
•6か月分の食料(宇宙食パック・缶詰・冷凍保存食品・栄養ゼリー)
•1トン近い近い飲料水(圧縮コンテナ)
•空気生成用のフィルターユニット
•修理用ツールセット
•小型観測装置
•個人用の医療キット
•居住区拡張用モジュールの一部部品
ステーションは大型ではあるものの、初期段階はまだ半自動運転で物資消費量も多い。
そのため第1弾はほぼ「補給船」の役割を兼ねていた。
打ち上げ準備
ハワイ島の中型パッドでは、大気中に水蒸気が立ちこめる早朝。
補給船を乗せた 中型再利用ブースターが点検を終えていた。
クルー5名は明賢の訓示を聞いた後、
エレベーターで数十メートル上の搭乗口へ向かう。
「今回の任務は、人類史上初の“宇宙常駐”の始まりだ。
無事にきぼうを稼働させてほしい。」
ヘルメット越しに短く敬礼したクルーたちは、
狭いエアロックをくぐり白凰内部に乗り込んだ。
打ち上げ
ドアが閉じ、最終チェックが完了。
カウントダウンが始まる。
10… 9… 8…
機体下部に大量の冷却水が噴射され“水の壁”が形成。
5… 4… 3…
主エンジンが唸り、機体全体がわずかに震える。
2… 1… 点火!
轟音とともに白凰はゆっくり浮き上がり、
青空へ垂直に登っていった。
上昇中のクルー
物資が多い分、船内の自由な空間はほとんど無い。
彼らは頭上のモニターを見つめながら声を交わす。
•「燃焼安定、加速度正常」
•「冷却系問題なし」
•「振動レベル規定内」
やがて高度は100kmを越え、大気を抜けて黒い宇宙へ出た。
機体は計画通り地球周回軌道に乗り、その後ステーションへ接近を開始。
ドッキング
きぼうステーションの巨大な影が視界に入り始めた。
地球の光を反射し、銀白色に輝いている。
オートドッキング装置が作動し、
白凰はステーションの接続ポートへ静かに吸い寄せられるように接近。
「カチン…」
ドッキング完了の音がした。
空気圧調整が行われ、
やがてロックが解除される。
第1クルー、ついに宇宙ステーションへ入室
船長が最初にハッチを通過し、
ついに 地球外の大型ステーションへ人が足を踏み入れた。
内部は既に自動システムで電灯が点いており、
空気はきちんと循環し、室温も24℃に保たれている。
5人はまず内部点検を開始した。
初期作業内容
1.空気循環装置の本起動
2.飲料水タンクへの補給作業
3.食料パックの収納
4.観測機器のオンライン化
5.非常時脱出ポッドの確認
6.通信装置(地上3局とのリンク)の確立
補給船に積んできた大量の物資は、
ステーション内の倉庫モジュールに次々と運び込まれた。




