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物語序章 第一版 15章

理と鉄の学舎 ― 工業教育と国家研究機関の誕生


教育制度が全国に根づき、理の信仰が民の中に広がる頃、

明賢は次の段階に進んでいた。


それは、学問を実際の力へと変える仕組み――

すなわち工業教育と国家研究である。


「学問が知で終わるなら、それは飾りにすぎぬ。

 だが学問が鉄を動かし、人を助け、国を豊かにするなら、

 それは力となる。」


この信念のもと、

明賢は“理の国”の根幹となる工業高校・工業大学・帝国研究局の設立を宣言した。



帝国工業高校 ― 鉄の芽を育てる学舎


帝国教育法の改訂により、

中等教育を修了した者のうち、

工学を志す学生が優先的に配属される「帝国工業高校」が創設された。


第一校は江戸郊外・浅草台地に設けられ、

旋盤、CNC、鍛造炉、試験台、測定器が整然と並ぶ。


実習棟の壁には、明賢が掲げた標語が刻まれていた。


「理を以て鉄を治め、鉄を以て国を築け。」


学生たちは朝から夕まで機械を動かし、

夜は理論の講義に耳を傾けた。

彼らは単なる職人ではなく、

**思考する技術者シンカー・テクニシャン**として育成された。


卒業時には国家試験が行われ、

優秀者は帝国工業大学または国家研究局への進学・採用が許可された。



帝国工業大学 ― 技術の殿堂


帝国工業大学は、工学部から独立して設立された

実践技術の最高学府である。


教室はすべて実験棟と隣接しており、

授業のほとんどは“現場での理論応用”で構成された。


五大専攻が設けられた:

1.機械工学科 ― 機構設計、金属加工、動力機関、航空基礎。

2.電気工学科 ― 発電理論、電磁工学、通信技術。

3.化学工学科 ― 鉱石精錬、燃料開発、薬品製造。

4.建築土木科 ― 橋梁設計、都市計画、耐震構造。

5.応用物理工学科 ― 材料研究、光学、計測制御。


学生は自らの研究テーマを持ち、

卒業までに必ず「実験報告書」と「設計成果物」を提出しなければならなかった。


「理論なき実験は盲目、

 実験なき理論は虚無。」

― 明賢語録・工大訓辞


教授陣には帝国大学理学部・工学部出身の学者が招かれ、

中には清助の後進も多く含まれていた。

ここから日本初の発電装置、蒸気機関、光学測量器が次々と誕生することになる。



帝国研究局 ― 国家の頭脳


明賢が最も力を注いだのが、

帝国工業大学と連携する**国家研究機関「帝国研究局」**の設立であった。


局は江戸城の西側、旧寺院跡地に建てられた巨大な複合施設で、

機密区域を多く含む。


その任務は三つ。

1.基礎理論の蓄積

 現代科学の体系を整理し、学問の再構築を行う。

2.応用技術の開発

 民生・軍事・工業の全分野における新技術の設計・試験。

3.情報管理と将来理論の封印

 21世紀に存在した科学技術のうち、

 当時の社会が扱えない危険な理論(核・AI・遺伝工学など)を

 厳重に記録・保管すること。


この最後の任務は、明賢自身が手書きで命令した。


「知識は力であり、同時に毒でもある。

 ゆえに扱える者が現れるまで封じておけ。」


研究局は直属の部門として、

「理学研究室」「機構研究室」「通信研究室」「兵器開発室」「衛生技術室」を設置。

各室には工業大学から優秀な卒業生が配属され、

“国家直属研究官”として任命された。


彼らの研究成果は、数年後の日本の姿を根本から変えることになる。



教育から実業へ


明賢の構想は単なる学校設立では終わらなかった。

教育・研究・産業を一本の線で結び、

**“学問がそのまま国を動かす構造”**を完成させた。


工業高校が種を蒔き、

工業大学が幹を育て、

研究局がその果実を収穫する。


学生たちは夢を語るよりも、

その夢を自らの手で“作る”ことを教えられた。


夜の工業都市では、

旋盤の音がまるで祈りの鐘のように響いていた。

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