物語序章 第一版 145章
地球帰還船と月面着陸船の分離準備
月面着陸地点は、
先に送られていた無人探査機によって
清掃と誘導装置の設置が完了している。
3名は分離前の最終点検を行う。
•月面着陸船の推進系、正常
•着陸脚ロック、正常
•地球帰還船の姿勢制御、正常
•分離機構、正常
すべてが「グリーン」。
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分離開始
「こちらハワイ。分離許可を出す。」
宇宙飛行士Aがスイッチをゆっくり押し込む。
ガシャン――
分離機構が作動し、
着陸船が地球帰還船からゆっくりと離れていく。
地球帰還船は姿勢制御スラスターを噴射し、
軌道を微調整して着陸船との距離を保った。
「分離成功。帰還船は月周回軌道で待機に入る。」
帰還船に残る者はいない。
3名が着陸船に乗り込み、
いよいよ月面へ降下する準備を整える。
窓から見える月面が、
いよいよ“地平線”として迫ってくる。
月面への降下開始
月の地平線が窓一面に広がる。
着陸船は静かに姿勢を変え、
着陸脚を自動で展開する。
「こちらハワイ管制。降下シーケンス開始を確認。」
宇宙飛行士はほとんど何も操作しない。
彼らの役割は計器監視と非常時対応のみ。
全ては最新の日本製コンピュータが行う。
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自動降下シーケンス開始
機体がわずかに震え、
降下噴射が始まる。
スラスター点火。速度低下開始。
降下角度自動補正。
高度計、作動正常。
着陸誘導信号、ロックオン。
月面に設置された無人探査機の誘導装置が反応し、
着陸船を正確に誘導していく。
宇宙飛行士たちは
ただ計器の緑色のランプが順に点灯するのを見つめるだけだった。
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月面が近づく
高度 500m。
スラスター音が船体を振動させ、
月面の砂が吹き飛ばされて舞い上がるのが見える。
宇宙飛行士Aが小さく呟く。
「いよいよだな……」
Bは静かに計器の値を追うだけだった。
彼らに操作の出番はほぼない。
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最終自動降下
自動着陸コンピュータがアナウンスを行う。
「最終降下フェーズ。姿勢安定。接地予測まで15秒。」
高度 30m──
スラスターは自動でわずかに弱まり、
着陸脚の油圧が衝撃吸収モードへ。
高度 10m──
月面の砂が噴射で横に流れる。
高度 2m──
燃焼が極小レベルまで絞られる。
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着陸
コトン……
小さな衝撃だけが機体を揺らす。
「着陸完了。」
その瞬間、
船内の3人は互いに目を見合わせ、
無言で頷き合った。
ハワイの管制室では
数百名のスタッフが立ち上がり
静かな歓声が湧きあがる。
明賢はゆっくりと息を吐いた。
「……月面着陸、成功だ。」
人類史上、前世より300年以上早い月面着陸。
しかもオートパイロットによる正確無比な着陸だった。
着陸直後:静寂の中のチェック
着陸衝撃が完全に収まったあと、
船内には生命維持装置の低い唸りだけが響いていた。
宇宙飛行士Aが最初に沈黙を破る。
「着陸脚、状態チェック入ります。」
計器盤のランプはすべて緑。
着陸脚の油圧、固定ロック、姿勢制御──
すべて正常。
宇宙飛行士B:
「外部気圧センサー異常なし。船体歪みなし。」
宇宙飛行士C:
「生命維持装置、酸素循環正常。内部気圧も安定。」
3人の声が淡々と続く。
その後ろでハワイの管制が静かに聞き入っている。
明賢の声が通信に入る。
「こちら明賢。着陸船の状態良好を確認。
次はローバー展開に移行してよい。」
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ローバー展開作業(内部操作)
操縦席の後ろ、壁面にある収納パネルを開き、
ローバー展開スイッチの保護カバーを外す。
宇宙飛行士A:
「月面ローバー展開シーケンス、開始。」
船底部のハッチが音もなく開き、
油圧式のアームが自動で降下。
折り畳まれていたローバーが静かに月面へ降りる。
船内モニターには船体底部カメラの映像が映る。
灰色の月面砂が舞い上がり、
ローバーの車輪がゆっくり接地した。
宇宙飛行士B:
「接地確認。ローバースタンドロック解除。」
ローバーは完全に自立し
電源を入れるとランプが点灯した。
宇宙飛行士C:
「ローバー、リモートチェック完了。準備完了です。」
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船外活動服への着替え
狭い船内で慎重に作業が進む。
まずはインナーの温度制御スーツに着替え、
次に酸素循環装置とバックパックを装着。
宇宙飛行士Aが確認する。
「酸素量チェック…良し。」
宇宙飛行士B:
「ヘルメットロック…固定。」
宇宙飛行士C:
「通信系統、宇宙服独立回線へ切り替え完了。」
宇宙服を着た3人は、
まるで別の存在のように見えた。
ハワイ管制:
「こちらハワイ。船外作業服への完全移行を確認。
いよいよ月面初の船外活動だ。慎重に行け。」
宇宙飛行士たちはハッチ前に集合し、
最後の酸素・通信確認を行う。
船外活動開始:減圧とハッチオープン
3人がハッチ前の区画へ移動し、
船長が圧力隔壁を閉めるレバーを下ろした。
ゴウン…
隔壁が重い音を立てて閉まり、
船内区画と切り離される。
宇宙飛行士Bが計器を確認する。
「減圧開始。目標 0 気圧。」
ゆっくりと空気が排気されていき、
耳鳴りのような静圧変化の音だけが響く。
0.4気圧… 0.2気圧… 0.05…
ついに計器の針が「0」を指した。
宇宙飛行士C:
「気圧ゼロ、確認。船外区画、真空状態。」
管制の明賢:
「……よし。ハッチオープン、許可する。」
船長は赤いハンドルを掴み、
深呼吸してからゆっくり回す。
ゴッ…ギギギギ……
気密ロックが解除され、
ハッチが外へ押し開けられる。
そこには──
光と影の境界に沈む月の大地が広がっていた。
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月面へ降り立つ
ハッチの外には着陸船専用の金属製階段が伸びている。
無重力に近い月の引力とはいえ、第一歩の緊張は消えない。
船長:
「……こちら船長。階段に足を移す。」
左足を慎重に階段に乗せる。
一段、そしてもう一段。
ゆっくりと、慎重に。
ついに最後の段に立つ。
船長はハッチ越しに仲間を一度見上げ、
ゆっくりと月面へ足を伸ばした。
ザクッ……
灰色の月面砂が舞い上がる。
月面に、はっきりと「足跡」が刻まれた。
船長:
「……こちら船長。人類として初めて、
日本国として初めて、月面に立った。」
ハワイ管制では拍手があがり、
明賢は目を閉じて安堵の息を吐いた。
船長は周囲をゆっくり見渡す。
「視界良好。ローバー確認、着陸船の下5メートル地点に正常に待機。」
2人目・3人目の月面降下
船長が月面へ降り立ったのを確認し、
ハッチ内に残る2人は緊張と興奮の混じった声で準備を整えた。
宇宙飛行士B:
「こちらB。降下を開始する。」
慎重に階段へ足を移し、
低重力のため身体がふわりと浮くような感覚を押さえながら降りていく。
船長:
「段差に注意。最後の一段、少し砂で滑りやすいぞ。」
B:
「了解。」
最後の段を降り、
月面に右足を踏みしめる。
ザクッ……
灰の粉のような砂が舞い、
世界で2番目の日本人が月面に立った。
続いて宇宙飛行士C。
C:
「こちらC。降下開始。」
階段を降りる間、
地球と月が同時に視界に映る。
「……信じられない光景だ。」
最後の一段を降り、
月面へ着地した。
船長:
「全員、月面への降下を完了。3名とも健在。」
ハワイ管制ではまたしても大歓声が湧き起こった。
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日本国旗掲揚
着陸船のカーゴから、
折りたたまれた日本国旗と伸縮式ポールを取り出す。
月面用に特別加工された金属で、
上部に水平バーがあり旗が垂れずに張る構造になっている。
船長:
「国旗設置作業に入る。」
3人は国旗の前に等間隔で位置を取り、
BとCが左右を支える。
船長が旗竿を月面に押し込む。
ギギ…ザクッ……
固いレゴリスに押し入るようにして、
50cmほどの深さまで差し込んだ。
船長:
「……固定完了。」
横バーが広がり、
白地に赤い日の丸が月面にゆっくりと開く。
地球からの光が反射し、
国旗が月面で鮮烈に輝いた。
C:
「……美しい。世界で一番美しい旗だ。」
B:
「宇宙船のカメラによって地球からも、きっと見えているはずだ。」
明賢(ハワイ管制):
「こちら管制室。月面への日本国旗掲揚を確認した……
よくやった。全員、誇りに思う。」
3人は国旗の前に並び、
記念撮影用のカメラに向かってポーズを取る。
“初の日本人月面着陸記念写真” が撮影された瞬間だった。




