物語序章 第一版 143章
月軌道到着
月を背景に、探査機を搭載したモジュールが静かに姿勢を変える。
計算通りの軌道に入った瞬間、管制室に安堵の息が広がった。
「月周回軌道到達。パラメータ正常。」
「探査機、分離シークエンスへ移行します。」
⸻
月影(探査機)、分離
サービストランクから月影がゆっくりと射出され、
月の淡い光を反射しながら単独行動に入った。
続いて、もう一つの貨物ユニット
「月面探査パッケージ(前進補給ユニット)」
も同じく分離され、予定着陸地点へ送られる。
月影と補給パッケージの両方が、
着陸モードへ移行した。
⸻
月面降下シークエンス開始
月影が姿勢制御スラスターを吹かし、
高度を一気に下げていく。
月面にはまだ人がいない。
しかし――日本の影が、確実に差し始めていた。
「高度5000…3000…1500…下降安定。」
補給パッケージも同じ降下軌道をたどる。
⸻
着陸
ドン……!
小さな振動と共に、月影が着陸脚で静かに月面を捉えた。
わずか数十秒後、
補給パッケージも離れた地点に無事着陸。
「着陸成功!着陸成功!」
管制室には歓声が広がり、
明賢も思わず拳を握りしめた。
⸻
月影 起動
太陽光パネルが展開し、
電子音と共に探査機のシステムが立ち上がる。
カメラが回転し、
“人類史上初、日本の月面映像”
がモニターに映し出された。
灰色の荒野、遠くに連なるクレーター。
誰も足跡を残したことのない世界。
「初期調査開始。地表サンプル分析モジュール、起動。」
「放射線量、問題なし。着陸予定域、安全性高し。」
月影は、
着陸候補地点の地形、傾斜、熱環境、障害物を詳細にスキャンし始めた。
⸻
月面探査パッケージ
補給パッケージが自動展開し、中の物資が整然と姿を現す。
内容は:
•有人着陸船「天翔」が使う 着陸地点標識ビーコン
•将来の月面基地予定地に埋設する 初期資材(蓄電池・ソーラーパネル)
•小型有人居住モジュール
•地質調査器具の予備品
•月面での作業用ロボットのドック
これらは後続の有人着陸船が来た時、
すぐに活動できるよう前もって送られたものだった。
探査機自身がロボットアームを伸ばし、
着陸予定地点の目印となる 標識 を設置していく。
⸻
明賢の言葉
月影から最初のスキャン地図が送られてきた瞬間、
明賢は深く息を吐いた。
「……ここに立つのか。
人はついに、月に足跡を残す。
この地図を見た者は皆、その時代の幕開けを知るだろう。」
月影から届く大量のデータ
着陸から数時間後。
月影(探査機)の通信アンテナが自動で地球方向へ向き、
次々とデータ送信が始まった。
「映像パケット受信――解凍します!」
技術者の声と同時に、
巨大モニターに月面のパノラマ写真が広がる。
荒れた灰色の砂、大小のクレーター、
その奥に沈む黒い空と地球。
「すげぇ……」「これが……月……!」
研究員たちは息を呑み、
歓声と拍手が起きた。
⸻
高解像度映像の送信
続いて動画が再生される。
月影のカメラが滑らかに左右へ動き、
まるで人が首を振って観察しているかのような臨場感。
地平線の向こうから太陽が昇る。
影が長く伸び、月の表面を黄金色に染める。
「この解像度……地質判定が一気に進むぞ!」
「クレーター内部の影の深さまでわかる……!」
研究チームはモニターの前に集まり、
指で画面を指しながら興奮して議論を始めた。
⸻
明賢は少し離れた席で、
静かにその映像を見つめていた。
やがて目を閉じ、ぽつりとつぶやく。
「……ついに、ここまで来たか。」
彼の脳裏には、
前世で見た膨大な研究資料や、
それを未来へ繋げようと努力した科学者たちの姿が浮かんでいた。
「この世界でも、人類を宇宙へ導ける……
そう信じていたが、確信に変わった。」
隣にいた空軍司令官が言う。
「明賢様、有人着陸は近いですね。」
明賢は微笑んで答えた。
「――月に立つ日が、すぐそこだ。」
⸻
月影の更なる観測
月影は次々と観測を続けた。
•地中レーダーによる地下構造のスキャン
•温度センサーによる昼夜の温度差分析
•放射線量測定
•風化痕の観察
•小岩や砂のアップ写真の撮影
届き続けるデータに、
月面探査チームは寝る暇もないほど喜びながら解析を進めた。
無人探査機「月影」による着陸点の最終調査
月面での初期観測を終えた月影は、
有人着陸船が安全に着陸できる地点を確定するための
詳細スキャンを開始した。
地形解析モードへ切り替わると、
カメラが低高度で月面を舐めるように移動し、
着陸候補地点を次々と記録した。
•転倒の恐れが少ない平坦な地形か
•地盤が硬く、着陸脚が沈まないか
•岩の密度、大小のクレーターの位置
•昼夜の温度変化・放射線量
•通信中継の電波状態
これらが順次地球へ送られ、
ハワイのコントロールセンターで解析が続いた。
「候補地点A、地盤硬度良好。」
「候補地点C、地形に凹凸あり除外。」
「候補地点E、通信状態最良。ここが本命だな。」
衛星画像を元にした三次元地図が更新され、
ついに着陸に最適な地点が決定された。
その名も――
“日本平原”
日本の名を冠したのではなく、
夜明け時に太陽光が最初に反射して輝くことから
研究員たちが日の本と自然とそう呼ぶようになったのだ。
⸻
着陸誘導装置の設置
月影は所定の地点に降り立ち、
ロボットアームを展開した。
搭載していた 着陸誘導ビーコン を慎重に設置し、
地中へアンカーを打ち込んで固定する。
ビーコンが起動――
青白い誘導信号が宇宙空間へ向けて放射された。
「誘導ビーコン稼働確認!」
「地球側で信号正常受信!」
地上のスタッフが歓声を上げる。
続いて、月影は周囲の小石や障害物を
アームでどかし、最終的な着陸エリアを整える。
•小石を排除
•地表硬度の追加測定
•発着地点のマーキング
•着陸方向の風化痕解析
•周囲100mの地形データの高精度再スキャン
月面の静寂の中、
まるで整備士のように淡々と準備を進めた。
最後に、月影はゆっくりと後退して
着陸予定地点をカメラに収め、
地球へ最終写真を送信した。
⸻
明賢の反応
巨大な画面に映し出されたのは、
静かに広がる灰色の平原、
中心に光る誘導ビーコン。
明賢は静かに言った。
「……これで道は開けた。
あとは、人が月に降り立つだけだ。」
その言葉に宇宙軍・空軍の関係者が深く頷いた。




