表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
137/160

物語序章 第一版 137章

宇宙飛行士、実機模型での訓練開始


生物試験の成功をうけ、

JSA-1(宇宙飛行士候補12名)はついに

有人宇宙船 “AMATERASU-Ⅰ” の実寸模型 を使った訓練を開始した。


訓練棟の中央には、

全長7mの白い宇宙船の模型が静かに置かれている。


日本式クルー構成


宇宙船は 3人乗り。

操縦担当パイロット

•航法・通信担当ナビゲーター

•機器・船体管理担当エンジニア


日本海軍の艦船運用思想を応用した、

“3人で一つの機体を扱う” 日本独自の方式である。



模型訓練の内容


① 操縦訓練


AMATERASU-Ⅰ 模型の前方には

巨大なスクリーンが設置され、

•打ち上げ時の振動

•軌道投入時の無重量

•姿勢制御の実感

をリアルに再現した。


飛行士たちは汗だくになりながら

スラスターの手動操作を練習した。


② 緊急事態訓練


訓練では

「あえて機体異常を起こす」

プログラムが頻繁に組み込まれる。


「ジャイロコンパス異常!姿勢制御不能!」

「冷静に!スラスターB系統に切り替えろ!」


常に冷静さを求められた。


③ 宇宙服訓練


気密室で日本製宇宙服を着る。

•窒息の恐れ

•過加圧

•冷却不調

•グローブ操作の難しさ


様々な問題点を洗い出し、

宇宙服班が毎日のように改良を加えていく。


④ クルー連携


3人は声を合わせ、常に役割を確認する。


「操縦、良し!」

「通信、良し!」

「機器、問題なし!」


訓練は軍事的でありながら、

どこか儀式のような日本的統一美があった。


AMATERASU-Ⅰ 無人最終試験


1652年11月。

ハワイ宇宙センターの発射台には、

日本初の有人宇宙船 AMATERASU-Ⅰ(天照一型) が静かに姿を現していた。


今回の試験は――

「有人機そのものを無人で飛ばす最終検証」

これに合格しなければ、絶対に人を乗せない。


船体には膨大なセンサーとダミー宇宙飛行士が搭載され、

生命維持系・姿勢制御系・脱出システム・再突入システムなど、

全てがフル稼働する“本番仕様”である。


発射


明賢は発射管制台に立ち、静かに指示を出す。


「最終チェックを開始せよ」


•電源系統:正常

•姿勢制御:正常

•生命維持システム:ダミーで正常作動

•逆噴射エンジン:正常

•耐熱シールド:正常

•再突入プログラム:正常

•避難用カプセル:正常


打ち上げは許可された。


カウントダウンが響き渡る。


「3… 2… 1… 発射!」


AMATERASU-Ⅰは炎をあげ空に吸い込まれる。

加速・分離・軌道投入――全てが完璧。


軌道上でソーラーパネルが展開し、

ダミーの生命維持データが安定して送られてくる。


宇宙軍・空軍・帝国大学の研究者全員が沈黙した。

それは成功を確信した沈黙だった。


再突入


二周半した後、逆噴射。

大気圏へ突入し、耐熱シールドは設計通りの温度上昇を記録。

パラシュート展開、海上着水、回収。


内部のダミーパイロットは損傷なし。

計器は全て基準値以内。


ついに「人を載せられる」段階へ到達した。



1号・2号クルーの最終選抜


JSA-1(宇宙飛行士候補12名)はすでに長期間の訓練を終えていた。


最後に残ったのは6名。

その中から 3人×2組 → 1号機・2号機クルー が選ばれる。


総合評価基準は以下のとおり。

•無重力での作業効率

•冷静さ・緊急事態対応速度

•操縦技術

•通信技術

•工学知識

•体力・精神安定性

•チームワーク


最終選抜試験は、

“宇宙船が異常連発する” 模擬コントロールルームで行われた。


電源異常 → 姿勢制御エラー → 冷却装置停止 → 通信断 → 再起動不能

という最悪の連鎖シナリオだ。


その地獄の訓練を最も安定して乗り越えたのは――


世界初の宇宙飛行士


世界初の宇宙飛行「1号クルー」


1号機クルー(AMATERASU-Ⅰ Crew-1)


パイロット:

 天城あまぎ 隼人 — 27歳(空軍)

冷静沈着。極限状態でも脈拍がほとんど変わらない“氷の男”。


ナビゲーター:

 大江おおえ 玲花 — 26歳(宇宙軍)

数学と航法の天才。全クルー中もっとも計算が早い。


エンジニア:

 徳川 敦 — 30歳(宇宙軍)

整備班出身で宇宙船を隅々まで理解。トラブル時の判断が鋭い。


彼らが「人類史上初の軌道宇宙飛行」を託された。



1号機のバックアップ兼 次の偉業「2号クルー」


2号機クルー(AMATERASU-Ⅰ Crew-2)


パイロット:

 四条 直哉 — 28歳(空軍)


ナビゲーター:

 和泉 奏 — 25歳(宇宙軍)


エンジニア:

 島津 巌 — 32歳(宇宙軍)


2号機は以下の任務を想定している。

•1号機が失敗した場合 → 即日代替で世界初の宇宙飛行へ

•1号機が成功した場合 → 世界初の宇宙遊泳(有人船外活動)を担当


つまり、

1号と2号の6人こそ、日本が選んだ “宇宙時代の最初の開拓者たち” である。


AMATERASU-Ⅰ ― 1号機 打ち上げ前夜


1653年1月8日 夜。

門松もまだ取れないハワイ宇宙センターには、

巨大なロケットの影が月明かりに浮かび上がっていた。


明日の朝。

人類は地球を離れる。

そして、その先頭を走るのが――

天城隼人、大江玲花、三島敦の3名である。



クルー宿舎


宿舎は特別に用意された隔離施設で、

医療班と警備隊が常時待機する厳戒態勢。


夜10時。

クルールームには3人だけが集まっていた。


天城 隼人パイロット


真っすぐに窓の外を見て、

遠くの発射台に立つAMATERASU-Ⅰを見つめていた。


「……ついに明日なんだな。」


声は低いが震えていない。

彼の心拍は普段とほとんど変わらない。



大江 玲花ナビゲーター


「怖くないんですか?」


「怖いよ。ただ、それ以上に楽しみなんだ。」


玲花は小さく笑った。


「……隼人さんらしいですね。

私は、計算が間違っていたらと思うと、少し緊張します」


「玲花の計算は誰よりも信頼できる。

それに、間違えたら徳川が直してくれるさ」



徳川 エンジニア


整備士出身の徳川は、

今日まで機体の細かい点を何度も何度もチェックしてきた。


工具も触れない今、手持ち無沙汰で湯のみに手を伸ばした。


「……ああ、俺は直すけどな。

明日は壊れないように頼むぞ?」


3人は静かに笑う。

この笑いは緊張をほぐすためではなく、

長年の訓練を共に生き抜いた仲間の証だった。



家族との通信


夜11時。

最後の家族通話の時間が訪れた。


通信は1人10分。

軍の記録として保存される。


隼人の母


「隼人。無事に帰ってきなさい。

生きて帰ってくること。それだけでいい」


「ああ。必ず帰る。母さんの飯を食うまで死ねないよ」


ほんの少しだけ声が揺れた。

それでも隼人は男として、軍人として、宇宙飛行士として、

静かな口調を崩さなかった。



玲花の妹


叫んだ。


「お姉ちゃん、宇宙に行くって本当なの!?

行かなくていいよ! 怖いよ!」


「大丈夫。ちゃんと帰るよ。

宇宙から、地球の写真を撮るから。

あんたに一番に見せたい」


その言葉を聞いて、妹は涙の中で笑った。



徳川の父


質実剛健な職人気質の父で、

いつもは厳しい言葉しか言わない男。


しかしこの日だけは違った。


「……息子よ。誇りだ。

明日の朝、お前が空へ行くその瞬間、

俺はきっと泣く」


徳川は無言で深く頭を下げた。



打ち上げ前最後のブリーフィング


深夜0時。

宇宙軍と空軍の司令部から、

最終確認のブリーフィングが行われた。


巨大スクリーンにはAMATERASU-Ⅰの各システム状態が映し出される。

•推進系:良好

•姿勢制御:良好

•航法システム:良好

•生命維持装置:良好

•脱出システム:起動待ち

•再突入システム:良好

•衣服圧力スーツ:良好


司令官が3人に向けて言った。


「明日の朝、諸君は“人類史上初の宇宙飛行士”になる。

これは世界の流れを変える瞬間だ。

日本は諸君を全力で支える。

我々は誇りに思う」


3人が敬礼すると、

会議室にいた全ての者が立ち上がり、

一斉に敬礼を返した。



深夜2時 ― 最後の夜


宿舎の灯りは落とされた。


隼人はベッドに横になりながら、

窓の外のロケットを静かに見つめていた。


玲花は航法メモを読み直し、

徳川は訓練で使った工具ケースを撫でていた。


誰も眠れなかった。

だが、誰も不安を口にしなかった。


明日、自分たちが「歴史になる」のを理解していたからだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ