物語序章 第一版 136章
宇宙軍、大気圏再突入機の試験開始
人工衛星 1〜20号の打ち上げがすべて成功し、
日本は“宇宙を支配する国家”としての基盤を完全に手に入れた。
だが、明賢の本当の目的はここでは終わらない。
「人工衛星は序章だ。
次は“人”を宇宙に送る時代に入る。」
宇宙軍本部では、すぐに新しい計画が発表される。
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再突入試験機「KAGUYA-α」計画
宇宙軍が最初に取り組んだのは、
宇宙から大気圏に安全に戻る機体 ——
すなわち再突入試験機だった。
名称は仮称「KAGUYA-α」。
•胴体は特殊耐熱タイルで覆われ
•形状はリフティングボディ(揚力で軌道を調整)
•無人、完全自律制御
•回収は羽合沖の海上回収艦が担当
設計の基礎には、
前世のシーダートやスペースシャトル・X-37B・ソ連のBOR試験機など
明賢が持ち込んだ全ての資料が活かされていた。
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第1回 模擬再突入テスト(1652年)
人工衛星の開発が一段落した直後、
宇宙軍は再突入計画の“地上試験版”を開始。
1. 高高度気球からの落下試験
高度 40km から小型試験体を投下し、
耐熱タイルの剥離や回転の安定性を確認。
→ 成功
温度上昇も想定通り、亀裂なし。
2. ブースターロケットによる“準軌道”飛行
KAGUYA-α 試験体を
高度100km(宇宙空間ギリギリ)まで打ち上げ、
初の本格再突入試験を行った。
実験データが羽合・琉球の基地に送られ、
関係者全員が息をのんで見守る。
結果は——
成功。
KAGUYA-α 試験体は予定海域で回収された。
これにより“宇宙から戻れる”ことが証明された。
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宇宙軍の長期計画
KAGUYA-α の成功を受け、宇宙軍は新方針をまとめた。
① 2年以内に無人宇宙往還機を完成させる
名称:「KAGUYA-β」
•宇宙で衛星修理
•偵察衛星の延命
•軌道上実験
② 3年以内に日本人を宇宙へ
有人宇宙船 「AMATERASU-Ⅰ」 計画
•2人乗り
•完全再突入型
•軌道滞在1日
③ 10年以内に「月ミッション」
•月周回衛星
•月軌道有人飛行
•月面着陸
明賢は会議でこう言い切った。
「大航海時代は海の時代。
だが今は“宇宙大航海時代”だ。
日本がその先頭に立つ。」
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世界が知らないまま進む宇宙開発
この時点で欧州の誰も
「日本が宇宙に挑戦している」など夢にも思わない。
•夜に遠くで“謎の光”を見たという噂が増え
•一部の修道士は「天使の光」と書き残し
•オランダ商人は「日本が怪しげな火の矢を飛ばしている」と国へ報告し
•フランスの天文学者は「未知の彗星」だと誤認し
しかし実態は、
日本のロケット試験と再突入実験の閃光だった。
宇宙軍、宇宙飛行士の選抜試験開始
人工衛星 20号の運用が安定する何年も前、
宇宙軍は “日本初の宇宙飛行士” を選抜する計画を発表した。
国防省内に緊急の隊員通達が発せられる。
「宇宙飛行士候補募集。
海軍・陸軍・空軍・海兵隊のエリートより志願を受け付ける」
募集開始からわずか数日で
各軍から数百名の精鋭が名乗りを上げた。
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1次試験:身体能力・耐G試験
つくばの空軍基地には巨大な遠心分離装置が作られ、
候補者たちは最大6Gの負荷試験を行う。
•意識が飛びそうになる者
•失神する者
•ぎりぎり耐える者
厳格に評価され、
通過率は20%にも満たなかった。
合格した者には胸に“宇宙軍選抜候補”のバッジが渡される。
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2次試験:心理試験・隔離耐久試験
宇宙は孤独との戦いでもある。
候補者たちは窓のない隔離室に1週間閉じ込められ、
疑似的な宇宙滞在を体験する。
記録装置とセンサーが壁に埋め込まれ、
•心拍
•睡眠
•反応速度
•精神の安定性
が厳しく監視された。
この試験も半分以上が脱落した。
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3次試験:学科・技術試験
宇宙機を操作するには高度な知識が必要だ。
•天文学
•軌道力学
•機体構造
•緊急脱出手順
•航法
•異常時対処
熾烈な筆記試験とシミュレーター試験が行われた。
前世のデータをもとに明賢が構築した
「宇宙船操作シミュレータ」 に候補者たちは驚愕した。
「まるで本当に宇宙空間を飛んでいるようだ…」
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最終合格者
こうして、
数百人の志願者から たった12名 が合格した。
彼らこそ、
日本初の宇宙飛行士候補生(JSA-1) である。
名前は明賢の意向で秘匿され、軍籍も表には出ない。
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宇宙飛行士訓練開始
宇宙軍“与圧訓練棟”では、12名が宇宙服の装着訓練を行う。
•無重量環境プール
•緊急脱出訓練
•宇宙船内部での整備
•手動姿勢制御訓練
•交信訓練
全てが本格的で、誰一人として気を抜けない。
さらに、日本式の宇宙飛行士として——
忍耐力 が訓練項目に加えられた。
「精神を整え、己を律する技こそ宇宙で生きる鍵である」
と明賢は語った。
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無人宇宙帰還機のデータ蓄積
訓練と並行して、
鹿児島宇宙軍基地では 無人宇宙帰還機(KAGUYA-β) の発射準備が進んでいた。
KAGUYA-β の目的
•再突入の耐熱データ
•姿勢制御の精度
•冗長システムの確認
•ハードランディング時の機体強度
•自動軌道修正アルゴリズム
これらを、
有人飛行に転用するための“必須データ” として蓄積していた。
実験のたびに膨大なデータが羽合と琉球の基地に送られ、
宇宙軍技術班は昼夜を問わず解析を続けた。
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宇宙飛行士 × 無人帰還機
宇宙飛行士候補たちは、
解析された“最新の帰還データ”を授業形式で受け、
軌道上の挙動や再突入の挙動を理論的に理解していった。
「ここが偏流した場合、機体は数秒で反転します」
「姿勢制御ジェットが片方壊れた時の手動操作はこうします」
データは毎回更新され、訓練内容もアップデートされた。
動物搭載・帰還試験
KAGUYA-β の無人再突入試験が成功した後、
ついに宇宙軍と宇宙医学局は “生物搭載試験” に踏み切った。
目的:生物が宇宙空間に耐え、無事帰還できるか
ハワイ基地の組み立て室には、
生命維持装置を搭載した KAGUYA-γ が完成していた。
生物実験に選ばれた動物
•小型の猿(耐久試験用)
•犬(精神ストレス検査用)
•マウス(宇宙放射線、生体変化の統計用)
彼らは日本の獣医によって丁寧に健康管理され、
宇宙に行く“特別な隊員”として扱われた。
打ち上げ
1652年9月4日、
KAGUYA-γ は発射台に立ち上がった。
「生命維持装置、正常作動」
「加速度センサー、全て正常」
「動物カプセル、与圧良好」
研究者が見守る中、
ロケットは火柱を上げ、青空へと消えていく。
軌道上
衛星通信で生体センサーのデータが送られてきた。
•心拍安定
•呼吸正常
•体温正常
•ストレス値許容範囲内
関係者たちは息を呑んだ。
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再突入
48時間後、コマンドが送信された。
「KAGUYA-γ、再突入モードに移行」
機体は逆噴射を行い、
大気圏に突入した。
高熱に耐える耐熱シールドの真価が問われる。
炎に包まれながらも、
機体の姿勢は安定していた。
やがて、
ドンッ! と大きくパラシュートが開く。
数分後、
太平洋上の回収部隊が機体を発見した。
カプセルを開く
獣医たちは慎重にロックを外した。
中には――
猿も犬もマウスも 全員生存していた。
「成功だ!!」
管制室では歓声があがり、
明賢は静かに目を閉じた。
「これで、人も必ず帰って来られる。」




