物語序章 第一版 134章
衛星の大量打ち上げ
次なる目標 ― 2号機打ち上げ
暁星1号の成功は、
そのまま2号機打ち上げのGOサインとなった。
2号機は――
日本の初めての衛星通信試験機。
後世でいう通信衛星の原始モデルで、
軍・外交・災害時の長距離通信を確立するための
極めて重要な存在だった。
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1648年9月3日 ― 2号機打ち上げ準備
ハワイのロケット発射場では、
再び巨大な組立棟が開き、
二段式ロケットが発射台に姿を現した。
機体の側面には
「暁星2号 - 通信試験機」
と誇らしげに書かれている。
コントロールセンターには
空軍、宇宙軍、通信技術局の幹部がそろい、
明賢が再び前に立った。
「衛星通信の確立は、日本の未来に直結する。
今回も、頼んだぞ。」
静かに頭を下げる技術者たち。
緊張と興奮が同時に走る。
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発射
10秒前――。
水門が開き、
大量の水が発射台の周囲に流れ込み
蒸気と衝撃波を吸収するための“水の壁”が形成される。
10……9……8……
点火装置が振動し、
燃焼室に液体燃料が送られる。
3……2……1――
「点火!!」
ロケット下部から白い炎が噴き出し、
巨大な影がゆっくりと、
確実に空へと押し上げられていく。
「離昇確認!
暁星2号、上昇中!」
ハワイの青空に、
眩い光の尾を引いて昇っていくロケット。
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分離、そして軌道投入
第一段分離。
第二段エンジン点火。
軌道修正――すべてが手順通り。
「通信試験機、分離成功!」
「送信アンテナ展開完了!」
続いて、
コントロールセンターのスピーカーに
小さな電子音が流れ始めた。
ピ……ピ……ピ……
「暁星2号、ビーコン受信!」
「通信安定。リンク確立!」
宇宙軍司令は拳を握った。
「これで……世界中どこにいても
日本と連絡が取れる。」
まさに外交・軍事・気象・科学研究――
あらゆる面で劇的な変革が始まる瞬間だった。
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2号機が送る“最初の通信データ”
暁星2号は地球の影を抜け、
日光を受けてアンテナとパネルが輝く。
最初の試験信号が
ハワイ、琉球、そして日本本土の受信施設へ
極めて鮮明に送られた。
「通信感度、規定値の150%。
想定より遥かに良い状態です!」
技術者たちの声に
明賢は深く満足げに頷く。
「これで、衛星通信網の時代へ入れるな。」
本格気象衛星群計画 ― 暁星3・4・5号
日本の宇宙軍は、1号・2号の実験成功を受け、
ついに“本番”となる 本格的気象衛星計画 に着手した。
これは単なる気象観測ではない。
地球規模の気流・台風・海流・湿度の完全監視ネットワーク。
つまり、後世でいう 気象衛星コンステレーション の誕生だった。
だが、この一大計画は――
日本国内でも、ごく一部の関係者しか知らない最高機密。
知っているのは
・宇宙軍上層部
・空軍の技術局
・政府中枢の数名
・明賢本人
だけであった。
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1648年11月18日 ― 暁星3号打ち上げ
ハワイ発射場周辺の海域は日本海軍によって厳重封鎖された。
夜間。
発射台に照らされたロケットが静かに佇む。
識別文字は伏せられ、
外部からはただの“資材輸送ロケット”にしか見えない。
「暁星3号、最終チェック完了」
「大気観測ユニット、正常」
「プラズマセンサー、待機状態」
明賢は控え室でモニターを見つめた。
彼が発射ボタンを押す必要はない。
しかし最終承認だけは彼の専権だった。
「……発射を許可する」
短いひと言に、
コントロールセンターの技術者たちは背筋を伸ばす。
発射!!
3号機は夜空に溶けるように上昇し、
静かに宇宙へ到達した。
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1648年12月15日 ― 暁星4号打ち上げ
4号機は 海流・海面温度観測特化型。
巨大な放射計と海洋レーダーを積み、
地球全海域を数時間でスキャンできる設計だった。
今回は日没直後に発射。
発射音を消すために特別な遮音壁が建てられ、
ジェットの轟音が山に吸い込まれるように消えていく。
「暁星4号、軌道投入成功……海面温度データ受信開始」
画面に現れたのは、
暖かい赤道流から冷たい深層水が湧き上がる具体的なパターン。
空軍の気象部門は震えた。
「これ……気象学が300年進んだ……」
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1649年1月25日 ― 暁星5号打ち上げ
5号機は 雲量・降水量・雷活動の総合観測衛星。
3号・4号と三角配置になるように軌道が調整され、
地球全域を“死角なし”で観測できるように設計された。
発射は 真夜中の3時。
技術者たちすら知らされるのは直前。
すべての記録は複数の暗号層で保護され、
発射管制ログは極秘扱い。
「暁星5号、衛星機能起動」
「雲量解析カメラ、オンライン」
「雷放電センサー、出力正常」
そして――
三機の衛星データが初めて統合された。
巨大モニターに映る地球は、
かつてないほど詳細な“気象の鼓動”を見せていた。
台風の卵がどの海で生まれ、
どの気流に乗り、
どこへ進むか――
完全に把握できる。
「……これで、世界の天気は日本のものだな」
明賢が静かに呟いた。
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機密保持の徹底
これらの情報は
一般政府ですら知らない超機密。
国会の会議では
「気象観測技術の研究が進んでいる」とだけ報告され、
衛星の存在自体が隠蔽された。
宇宙軍将校の家族でさえ、
何が行われているかを知らない。
世界のどこも
“空から常時監視されている”
など夢にも思っていない。
暁星6〜9号機 ― 日本初の軍事衛星群
気象衛星3〜5号の成功からわずか数ヶ月後。
宇宙軍は「表向きは運用試験」として夜間に発射場を封鎖し、
立て続けに 軍事専用衛星・暁星6〜9号 の準備を進めていた。
これまでの衛星以上に機密性は高く、
発射作業員の多くは
「何号機か」「用途は何か」を知らされないまま動いた。
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暁星6号 ― 1649年4月23日
軍事通信衛星(高出力暗号通信)
6号機は宇宙軍・海軍・陸軍・海兵隊をつなぐ
完全独立型の軍事通信衛星 だった。
特徴:
•日本全軍をリアルタイムで結ぶ
•独自暗号化(前世の量子暗号の簡易版)
•電波妨害に強い
•全地球の太平洋圏をカバー
ハワイ発射場は完全封鎖され、
発射時刻は深夜2時。
「暁星6号、通信ノード起動」
「軍事暗号リンク構築完了」
これにより日本軍は どの大陸でも衛星経由で即時通信 が可能となり、
戦争の在り方が一変した。
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暁星7号 ― 1649年5月16日
軍事偵察衛星(光学+近赤外)
7号の打ち上げは通常より静かに行われた。
第三者に“絶対にバレてはならない”衛星だからだ。
搭載能力:
•地表の構造物を詳細撮影(分解能は前世2010年代級)
•夜間撮影可
•近赤外で農地・森林・水源・兵站を分析
•大陸ごとの軍隊の位置を読み取れる
軌道投入後、
モニターに最初の映像が映る。
スペインの港。
破壊された軍港跡地。
動く兵士、馬車、煙まで鮮明に映っていた。
「……これなら、どこの国が何を準備しているか一目だな」
明賢は確信した。
この時代において
偵察衛星を持つ国家など絶対に存在しない。
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暁星8号 ― 1649年6月10日
広域レーダー偵察衛星
これは最も異質な衛星だった。
大気や雲の影響すら受けない 合成開口レーダー(SAR) を搭載し、
地表の動きをミリ単位で検知できる。
能力:
•国境に集まる兵士の「移動」まで分かる
•夜間も雨天も関係なし
•海上では艦隊の大まかな位置を捕捉
宇宙軍の技術者の一人が震えながら言った。
「……地球が丸裸です、明賢殿」
日本は
“どの国がどこに軍を動かしているか”
を常時監視できるようになった。
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暁星9号 ― 1649年7月1日
電子偵察衛星
この衛星は“耳”だった。
•日本軍港間の通信
•日本外交施設の暗号化発信
•軍艦同士のやり取り
•反乱計画の密談
あらゆる“電波”を広域で傍受し、
種類ごとに自動分類する。
日本の大使館に置かれた通信施設と連動し、
世界が通信技術を作り出した場合“盗み聞き”できる 状態が完成した。
「……これで戦争は二度と奇襲にならないな」
と宇宙軍司令官。
「奇襲を仕掛けられるのは日本だけだ」
と明賢。
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6〜9号機の統合運用
これによって日本の衛星網は以下の構成となった。
•1号:実験衛星
•2号:通信試験機
•3〜5号:気象衛星
•6号:軍事通信
•7号:光学偵察
•8号:レーダー偵察
•9号:電子情報収集
これらを総合統括するのが
琉球・羽合・汎名通信基地。
地上の大使館や各軍司令部とも連動し、
1649年時点で日本は 人類史上最強の情報網 を完成させた。
世界のどこにも、
これを“理解できる国家”は存在しない。




