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物語序章 第一版 133章

衛星の打ち上げ


太平洋の孤島に築かれた宇宙への門


― ハワイ宇宙発射基地 ―


日本がハワイ(羽合)を領有してから十数年。

海軍と空軍が共同で整備した深海港のさらに奥、

周囲を火山岩と密林に囲まれた広大な平地に、

ひっそりと巨大な鉄塔が姿を現していた。


それこそが――


日本初のロケット発射場「羽合宇宙発射基地」

である。


明賢は迷わずここを選んだ。


「ここなら、欧州のどの国にも気づかれぬ。

 新大陸へも、日本本土へも、

 地球上のどこよりも静かに飛ばせる」


ハワイの島々は海軍の基地と通信基地で固められ、

発射場周辺は完全封鎖区域とされた。


そして島の中央に、

高さ70mの発射塔と地下シェルター が建設された。



発射場の隣に立つ「ロケット工廠」


発射場から程近い場所には

専用の ロケット組立工場 が建てられた。


工場の内部には以下の生産ラインが並んでいた。

•固体ロケットブースター製造炉

•液酸・液水タンクの溶接ベイ

•高精度切削加工機(日本式CNC)

•衛星搭載用クリーンルーム

•多段式ロケットの結合ベイ

•振動試験塔、熱真空試験施設

•推進剤充填シェルター


これらは前世の技術論文を基に日本が独自に発展させた工場群で、

世界のどこにも存在しない“未来の工業地帯”となっていた。


工場は完全密閉され、

内部の作業員は全員技術保持者か帝国大学研究員に限定された。



通信の“目と耳” ― 世界三拠点 パラボラネットワーク


人工衛星は地球を周回する。

ならば地球上の複数地点で追跡しなければ通信が途切れる。


そこで日本は、

以下の三箇所に巨大パラボラアンテナ基地を建設した。



琉球通信基地


日本本土側の拠点。

•地上局コード:RYUKYU-01

•周波数帯:VHF/UHF/SHF

•任務:衛星打ち上げ後の捕捉(AOS)

•付帯設備:衛星軌道解析センター


琉球は日本全土への通信中継を担い、

衛星の健康状態を最初に受信する。



羽合ハワイ通信基地


発射場と同じ島に設置された中心局。

•地上局コード:HAWAII-00

•直径60mの巨大パラボラ

•任務:衛星との主要交信、姿勢制御コマンド送信

•専用光ファイバーで発射場と常時リンク


「人工衛星の心臓部」と呼ばれた。



フロリダ通信基地


新大陸側の前線司令局。

•地上局コード:FLORIDA-07

•任務:衛星が地球の反対側へ回り込む際の補完

•特徴:海軍基地内に設置され、軍用無線とも直結


これにより、

人工衛星は地球を1周する間 通信が一度も切れない 体制となった。


欧州の誰も知らない間に――

日本は世界初の “グローバル衛星管制網” を完成させていた。



そしてロケットは完成した


ロケット組立工場の第3結合ベイ。

そこに巨大な白い機体が静かに横たわっていた。


NV-01(日本ロケット1号)


形式:液酸液水式・二段ロケット

全長:42m

重量:92t

衛星搭載能力:45kg(低軌道)

誘導方式:慣性誘導 + 電波誘導補助

冷却:液体水素ブリードオフ方式


「日本国宇宙軍」

「暁星一号」


工場の明かりを反射して美しく光り、

まるで巨大な白蛇が眠っているようだった。



舞台は整った。


明賢はハワイに降り立ち、

ロケット発射塔の前で宇宙軍司令官に言う。


「……いよいよだな。

 世界で最初に宇宙に手を伸ばすのは、日本だ」


司令官は敬礼し、静かに答えた。


「はい。すべて準備完了しております。

  あとは、命令をお待ちするのみ」


明賢はロケットを見上げる。


その先には、誰も到達したことがない空があった。


初打ち上げ


1648年7月12日


人類はついに、空を越える。


羽合宇宙発射基地。

夜明け前の薄青い空に、蒸気が静かに立ち昇る。


発射台には白く巨大なロケット――

HNV-01 “暁星一号” が立ち、

その下には冷却ガスが滲み、青白い霧がゆらめいていた。


発射場周囲は厳重警備のもと完全に封鎖され、

空軍、海軍、宇宙軍、陸軍、技術者、博士たちが

固唾を飲んでコントロールセンターに詰めていた。



コントロールセンター


「日本の空は今日、宇宙へと開く」


明賢はロケット発射管制室の中央に立ち、

巨大スクリーンに映し出されるロケットをじっと見つめた。


静まり返る管制室。


明賢は深く息を吸い、

緊張と希望を帯びた声で訓示を述べた。


「今日、我々は新たな歴史を創る。

 大陸を越え、海を越え、時代を越え、

 ついに宇宙へと旅立つ。

 ――日本は、この空の先を掴む」


司令官、技術主任、航法士、通信士……

全員が立ち上がり、敬礼した。


「暁星一号、打ち上げ準備完了。

明賢様、発射をお願いします!」



発射前最終プロセス


カウントダウンに入る


コントロールセンターの各席で声が飛び交う。

•「推進剤ポンプ、正常!」

•「姿勢制御系、グリーン!」

•「衛星内部電源、安定!」

•「パラボラ3拠点、通信リンク確立!」


明賢は発射スイッチの前に立つ。


その瞬間――

発射台の巨大な水噴射装置が動き出した。


ドオオオオオオオオッ!!


地下の貯水池から押し上げられた大量の水が

ロケット周囲へ滝のように流れ込み、

発射台全体を覆う“水の壁”を形成した。


これは衝撃波でロケットや機器が破壊されないための

**音響衝撃波減衰システム**であった。



カウントダウン開始


大画面に巨大な数字が浮かび上がる。


10


点火装置が作動し、

ロケット底部で火花が散る。



燃料バルブ開放。



計器すべてグリーン。



羽合・琉球・フロリダの通信基地が

衛星との周波数を固定。



振動監視センサー・OK。



補助タンク切り離し解除。



明賢はスイッチに手を置いた。



コントロールセンター全員が固唾を飲む。



地響きのような低いうなりが発射台に満ちる。



ロケット底部のノズルが赤く光り始める。


――0!!



明賢、ボタンを押す


「暁星一号、発射!!」


明賢は迷いなく

ボタンを押し込んだ。



火柱が天を割る


ゴオオオオオオオオオオオオッ!!!


発射塔の底から白金色の閃光が吹き上がり、

夜明けの空を一瞬で昼のように照らした。


水の壁が一気に蒸発し、

白い水蒸気が巨大な雲となって発射場を覆いつくす。


コントロールセンターの震える声が響く。


「リフトオフ!! エンジン正常!!

 ロケット上昇中!!」


暁星一号は、地球の重力を振り切って空へ飛び立った。



空を突き抜け、歴史が動く


機体はわずか20秒で超音速に達し、

雲の層を突き破った。


青空の中、

太陽を背に白い軌跡が弧を描く。


その瞬間、世界の歴史は変わった。


暁星、生命の鼓動を打ち始める


フェアリングが開き、爆破ボルトにより人工衛星「暁星」が分離され、

真空の静寂の中でゆっくりと姿勢を整えていく。


太陽光パネルが自動展開し、

薄い光を受けて鈍く反射した。


「暁星、電源系統オンライン」

「ソーラーパネル出力、規定値内――安定!」


その瞬間、

琉球・羽合・フロリダの通信基地に設置された

巨大パラボラアンテナへ、

ピ、ピ、ピ…

という電子音が立て続けに届き始めた。


「暁星からのビーコン信号、確認!」


コントロールセンターの空気が一変する。

固唾を飲んでいた技術者たちの目に希望が灯った。



最初の画像送信 ― “青い宝石”


暁星の自律システムが起動し、

搭載カメラがゆっくりと地球へ向けて首を振る。


「画像送信を開始します。

  受信準備――よし」


大型モニターの中央に、

まだざらつきの残る画像が一枚、

徐々に描かれ始めた。


最初は灰色に近い。

線が引かれ、色が塗られ、

ノイズが消えていく。


そして――


地球が映し出された。


青く、美しく、

雲が綿のように渦を巻き、

大陸が淡く、その輪郭をのぞかせていた。


室内の全員が息を呑んだ。


「……成功だ」

「画像も明瞭です、鮮明に写っています!」


緊張がほどけ、

何人かは思わず椅子に崩れ落ちた。


成功だ。

本当に衛星は働いている。



第二の画像 ― 日本本土


次の画像送信が始まった。


「2枚目、データ受信開始……」

「解像度、正常。ノイズ除去完了」


モニターには

日本列島全体が映し出されていく。


北は蝦夷から、

南は薩摩、琉球まで――

くっきりと大地の形が分かる。


海の蒼と山脈の緑のコントラスト。

そして都市部を示す淡い光の点々。


遥か上空から見た、日本の姿。


技術者たちは誰もが静かに見入っていた。


「……美しい」

「我々は、ここまで来たのか」



明賢の安堵


明賢はモニターを長く見つめ、

小さく息を吐いた。


胸の奥に張りついていた糸が

ほぐれてほどけていく感覚。


「……よかった。

  本当に、よくやってくれた」


肩から力が抜け、

静かに目を閉じた。


彼にとって

これは単なる衛星ではない。


技術、情報、外交、戦略――

日本の未来を次の段階へ引き上げる最初の一歩だった。



会場に広がる静かな熱気


数秒の沈黙の後、

センターの各所から拍手が湧き起こる。


ドッ、ドッ、ドッ……と控えめに始まった拍手は、

次第に大きな歓声となり、

皆が互いの肩を抱き、手を取り合った。


「暁星ミッション、正常稼働!」

「人工衛星第一号、運用開始!」


誰もが喜びを噛みしめ、

日本が宇宙の扉を開いた瞬間を胸に刻んだ。


明賢はモニターに映る日本列島を見ながら

静かに言った。


「これでようやく、

   次のステージへ行けるな。」


暁星1号、気候観測開始


軌道投入から数時間後。

人工衛星「暁星1号」は姿勢制御を完了し、

地球観測モードへ移行した。


衛星下部に取り付けられた

雲量観測カメラ、赤外線センサー、

海面温度を測る放射計が順次起動していく。


「暁星1号、気候観測パッケージ起動」

「データリンク安定。受信開始します」


各国が夢想すらしていない“気象衛星”が

ついに機能を発揮する。


最初に届いたのは広域の雲分布図。

巻雲の渦、台風の芽生え、

大陸の地表から立ち上る熱のパターン――

すべてが鮮明に映っていた。


「雲の対流パターン、解析可能なレベルです!」

「これなら台風の進路予測も可能になります」


空軍と気象庁の研究者たちが歓声を上げる。

今まで地上観測でしか分からなかった気象が、

“空から丸ごと見える時代”に突入した。


明賢は低く呟いた。


「これで国民の生活は、さらに守れる」

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