物語序章 第一版 132章
時は遡る ― 空軍・宇宙軍の誕生と研究の日々
日本国成立直後。
陸軍・海軍の整備が急速に進む中、
空軍と宇宙軍は全く別の形で静かに立ち上がっていた。
彼らは「戦う部隊」ではなく、
“未来のためだけに存在する研究軍” だった。
ドローン開発と試験訓練
この時代にドローンは当然異次元の存在だ。
そのため空軍はこう名目付けた。
「観測用鳥型無人偵察機の研究」
実際には、
現代の家庭用ドローンを分解し、
構造を模倣して軍用に再設計していた。
•電気モーター
•リチウム系電池の代替高性能バッテリー
•軽量素材(カーボン複合材の簡易版)
•探索レーダーと連携した管制システム
これらを組み合わせ、
山岳地帯・海上・砂漠で試験を繰り返し、
空軍は世界最先端の “空の目” を手に入れ始めていた。
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明賢による前世知識の投入
空軍・宇宙軍の研究室には
明賢の前世から書き起こされた膨大な論文データ
(ロケット方程式、燃焼工学、航空材料学、ジェットエンジン理論など)が持ち込まれた。
英語・日本語問わず、
明賢は機密情報やインターネットから入手した内容を、
データとして書き起こした。
•高効率燃焼器の設計
•ターボジェット・ターボファンの構造図
•液体燃料の圧送方式
•ABL(大気境界層)理論
•ステルス技術の概念
•ロケットの段階式設計
•化学推進剤の組成式
•衛星軌道計算の基礎公式
•GPSの概念(原理のみを記録)
軍・大学はこれを金鉱脈のように扱い、
文字通り血眼になって解析した。
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ジェットエンジン開発の開始
レシプロエンジンは陸軍などが既に開発をスタートしていたので
空軍が狙ったのは
後退翼の初期航空機 + 小型ジェットエンジン の完成だ。
軍研究班は
“ターボジェットの燃焼室と圧縮機をどう作るか”
という課題に直面した。
初期の問題
•金属加工精度が足りない
•耐熱合金が存在しない
•高速回転軸の素材が不足
•振動解析のデータ不足
だが、ここで役立ったのが日本国内の産業革命の先行だ。
•船舶用高性能エンジンを作った職人
•鉄鋼プラントの高級合金
•精密工場の機械設備
•大学の材料分析装置
すべて “先に現代技術が広まっていた” 世界線だからこそ可能な組み合わせだった。
小型ジェットの誕生
1621年には陸軍製のレシプロエンジンが完成
1635年には日本において
世界唯一のジェットエンジンが完成する。
•推力約750kg
•燃焼試験で安定運転に成功
•亜音速機の試験飛行を実施
•無人機にも応用可能
空軍の将校たちはこの成功を見て震えた。
「これが……空を支配する力か」
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宇宙軍の研究活動
宇宙軍は空軍の知見を取り込み、
主に ロケットエンジンの研究 に専念していた。
初期の研究テーマは以下の通り:
•液体酸素(LOX)の製造・保存方法
•液体燃料(ケロシン系)の精製
•LOX/燃料の混合比制御
•ポンプ式ロケットの模倣
•ロケット方程式の実験的検証
•耐熱セラミック素材の検討
•姿勢制御
•初期衛星の通信方式
•高度計測機器の開発
明賢が断言した。
「最初は観測ロケットだ。
いきなり人工衛星は狙わない」
その言葉通り、
宇宙軍はまず 3m・6m・12m の小型ロケットを次々に打ち上げ、
高度5km → 30km → 80km と記録を伸ばしていった。
世界中にはもちろん知られていないが、
この頃すでに “日本のロケット観測網” は完成していた。
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羽合宇宙基地の建設計画
研究が進み、
「人工衛星が本当に射程距離に入った」と確信した宇宙軍は、
明賢に計画許可を求める。
「明賢様、人工衛星打ち上げのため、
射場と制御施設が必要です」
明賢は世界地図をじっと見つめ、
迷わず言った。
「――羽合だ」
こうして、
秘密裏に羽合宇宙基地の建設が開始された。
•工兵隊による地下施設の掘削
•ロケット組み立て棟
•液体燃料プラント
•自動化された追跡レーダー
•海軍との共同監視網
•地下通信ケーブル(日本本土直通)
静かに“21世紀の機能”を持ち始めていた。
宇宙軍 ― 人工衛星開発の黎明期
宇宙軍が正式に設立されたのは、
まだ世界が帆船で戦っていた時代だった。
しかし彼らは大砲も剣も必要としなかった。
必要なのは、明賢が前世から持ち込んだ 膨大な論文 と、
その知識を吸収するだけの静かな環境だった。
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1. 論文の解読と知識の蓄積
宇宙軍士官たちは、
最初の数年を 「読むことだけ」 に費やした。
•オービタルメカニクス(軌道力学)
•ニュートン力学の応用
•固体・液体ロケットの燃焼理論
•熱力学
•材料力学
•姿勢制御(反応ホイール、スラスタ)
•電波工学
•衛星運用システム
•太陽電池の構造
•観測機器の設計法
士官学校では習わない内容ばかりであったが、
誰も音を上げなかった。
なぜなら彼らは分かっていた。
「この研究が完了した時、日本は空と宇宙を支配する」
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2. 産業革命の先行による“現実化”
日本の産業は既に電子機器の大量生産を開始していた。
このため、論文で見るだけだった技術が 次々と現物として利用可能になっていく。
前世の知識をもとに作られた
簡易的なクリーンルーム、フォトリソ装置、真空蒸着機。
これにより宇宙軍は次の部品を入手できるようになった。
•CCDセンサー
•半導体メモリ
•マイクロコンピュータ
•小型無線トランシーバ
•太陽電池パネル
•姿勢制御用ジャイロセンサー
•遠隔計測用テレメータ回路
文明の発展が、
人工衛星開発の速度をどんどん押し上げていった。
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3. 衛星試作機の開発
宇宙軍はまず 「想定最低限の衛星」 を設計した。
•重さ:9〜15kg
•姿勢制御なし
•電源は太陽電池とバッテリー
•ミッション:カメラや測定器などを装着し簡易的な観測を行う
•温度対策:簡易断熱材
•通信方式:短波・極超短波の2系統
これはいわゆる単純衛星である。
内部には高耐久の電子基板が敷き詰められ、
温度変化や振動、真空での動作を再現した試験装置で
何度も破壊・再設計が繰り返された。
試験設備
日本国内にはすでに衛星試験のための設備が作られていた。
•振動試験装置
•熱真空チャンバー(TVAC)
•放射線照射試験
•落下衝撃試験機
•太陽光模擬ライト
試験をするたびに衛星は壊れた。
•基板が割れる
•はんだが剥離する
•太陽電池が剥がれる
•バッテリーが膨張する
•通信回路が過熱する
だが、破壊の度に得られるデータは宝だった。
宇宙軍は試験の失敗を
“神の恵み”と呼んだ。
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4. 破壊と成功の両立
宇宙軍が開発した衛星は、 試作90基以上。
そのうち実用レベルまで到達したものは、
わずか 8基 だけだった。
しかし試験を重ねるごとに進歩は目覚ましかった。
•断熱材は3代目でようやく温度差に耐える
•姿勢制御なしの設計が安定
•回路が真空でも発火しないように改善
•通信モジュールが長距離伝達に成功
•ソーラーパネルの剥離が解決
•内部の熱分布が最適化
そしてついに宇宙軍は確信する。
「このモデルなら宇宙空間で運用できる」
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5. “人工衛星第1号”の形が現れる
試作と破壊を繰り返した結果、
ついに “衛星第1号(仮称:暁星)” の基本形が完成した。
•重量:18.2kg
•通信:短波・極超短波の二系統
•外装:高耐熱アルミニウム合金
•電源:高効率単結晶太陽電池 + 保護回路
•温度制御:MLI(多層断熱材)
•姿勢制御:スピン安定(0.5〜1rpm)
•ミッション:地球周回軌道での通信実験
宇宙軍は報告書にこう書いた。
「人工衛星の最低限の形は整った。
あとはこれを宇宙へ運ぶだけである」
そして、明賢に提出する。
明賢は報告書を読み、静かにうなずいた。
「……よかろう。
羽合に集まれ。
日本の技術を、世界より先に宇宙へ繋げる」




