物語序章 第一版 115章
イギリス内戦の終結
欧州列強の使節団がロンドンへ集まる
ロンドンでは王党派勝利の祝宴が開かれ、
欧州各国から祝電を携えた使節団が次々と到着した。
フランス、オランダ、神聖ローマ帝国、ポルトガル――
そして最後にスペイン王国の使節団。
どの国も、
「イギリスが短期間で内戦を終えた理由」
を探るため、各代表は鋭い目で空気を読んでいた。
その中でひときわ沈んでいたのがスペイン代表だった。
王党派の側近が耳打ちする。
「実のところ……日本の支援が決定打となったのです。
莫大な金と鉄、それに大量の食料。
あれがなければ王党派は押し返せませんでした。」
その報告を聞いた瞬間、スペイン代表の顔は凍りついた。
「日本……あの極東の、不可思議な国が……
イギリスの内戦を左右するほどの力を……?」
代表は祝いの言葉を述べるだけで精一杯だった。
そして式典が終わるとすぐさま帰国の準備を始めた。
第百五章 スペイン王国、帰国後緊急会議
マドリードへ戻った使節は
震える声で報告を読み上げた。
「……日本国の支援によって、
イギリス内戦は王党派が完全勝利したとのこと……
支援の量は、我々の軍年間予算数年分に匹敵……」
部屋の空気が一気に緊張した。
老臣たちは顔を見合わせ、
若い将校は青ざめ、
枢機卿は十字を切った。
一方で、怒りを露わにした者もいた。
「なぜ日本などという得体の知れぬ国が、
欧州の戦局を左右できるほどの力を持つのだ!」
「すでに北米を丸ごと掌握し、
アフリカ南部にも進出し、
太平洋の島々にも勢力を伸ばしているという……」
「スペインを包囲しつつあるのではないか?」
場は瞬く間に“恐怖”と“猜疑心”に支配された。
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会議は完全に二分された
開戦強硬派 vs. 開戦慎重派
開戦強硬派
「日本がさらに勢力を伸ばせば、
いずれスペインに牙をむく!」
「今ならまだ我々には“無敵艦隊”の伝統がある!
撃滅するなら今しかない!」
「来年、日本を叩き潰すべきである!」
開戦慎重派
「いや、日本は開戦の意思がないと言っている。
無駄な戦争を仕掛けてはならん。」
「相手の実力を測らずに挑めば、
大国スペインの名折れである。」
しかし――
慎重派の声は日に日に弱くなっていった。
なぜなら、
報告にあった“日本の軍事力”が、
あまりにも常識外れだったからだ。
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幕引きを決めたのは、ハプスブルク家
最終的な判断は、
スペイン王家とハプスブルク家に委ねられた。
国王側近が静かに口を開いた。
「今のスペインは、かつてほど強くはありません。
しかし、これ以上日本が力をつければ――
我らは太陽の沈まぬ帝国を保てなくなるでしょう。」
側近たちが深刻な表情でうなずく。
ハプスブルク家は長く沈黙したのち、
重く、冷たく告げた。
「……来年、スペインは日本と戦う。
ポルトガルにも連携を命ずる。」
その瞬間、
会議室内の空気は張りつめた。
穏健派は息を呑み、
強硬派は顔を輝かせ、
軍人たちは武具を握りしめた。
日本との戦争が決まったのである。
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すぐさま軍部に招集命令
鐘が鳴り響き、
全国の軍関係者に召集命令が飛んだ。
・艦隊再整備
・火砲の生産増加
・植民地からの兵力徴収
・補給線の確保
・遠征計画の立案
スペイン王国は、
“世界最大の脅威”と見なした日本との戦争に向けて
動き始めたのだった。
英国代表からの密書
日本への“重大な警告”
イギリス内戦が終わって間もなく、
薩摩の外交施設に英国代表の使いが駆け込んだ。
封蝋を割ると、そこには短く鋭い文面があった。
「スペイン・ポルトガルは、貴国を恐れ疑っている。
我々の報告の一部を聞き、日本の力を測ろうとしている。
両国の動向には十分注意されたし。」
英国代表は日本への感謝とともに、
“欧州の火薬庫”がいま日本に向けられつつあることを
密かに知らせてきたのだった。
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明賢の判断
文を読んだ瞬間、明賢の目は鋭く細まった。
「……やはり動いたか。
スペインのことだ、我々が北米を掌握した時点で
警戒が頂点に達するとは思っていたが。」
文を卓上に置き、
ゆっくりと立ち上がると背筋が張りつめた。
「よい。
スペイン・ポルトガルが宣戦布告するなら、
その意志を我らも以って受け取ろう。」
この一言で、
日本国軍が動き始めた。
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明賢、全軍に号令を下す
──静かだが、重く響く声だった。
海軍への命令
「海軍はただちに全艦隊に戦時準備を発令せよ。
偵察艦隊をスペインへ向け派遣し、
艦隊の追跡情報を逐一届けさせろ。」
「長期間追尾可能な偵察艇は大西洋に回せ。
スペイン艦隊の追跡を開始し、
“動き出した瞬間”を掴め。」
「輸送船団は海軍指揮下に入り、
戦時護衛輸送隊として編成訓練を開始せよ。」
重巡・軽巡・駆逐艦、
それに最新式の支援艦が次々と整備ドックに並び始めた。
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陸軍への命令
「陸軍はすぐに三方面へ軍を展開せよ。」
1.メキシコ国境線
2.パナマ地峡の新国境
3.南アフリカの国境域(24度線)
「スペイン植民地軍が反撃に来るのは必ず陸路も含めてだ。
監視網を構築し、
全面衝突に備えろ。」
この瞬間、北米と南アフリカの広大な国境線で
日本軍の砲兵中隊が次々と陣地を築き始めた。
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海兵隊への命令
「海兵隊は即応態勢に入れ。」
「開戦と同時に
フィリピン、南米沿岸、アフリカ大陸、スペイン領諸島へ上陸作戦
を敢行する。
上陸艦・揚陸艦はすべて整備し、
分単位で出港できるように即時待機せよ。」
かつて欧州でも最強と恐れられたスペインの海を、
日本海兵隊は一気に制圧しようとしていた。
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工廠・補給部隊への命令
「工廠は弾薬・砲弾・支援物資の大量生産にリソースを集中しろ。
戦時備蓄は平時の倍を積み増せ。」
「生産した物資は、日本本土・新大陸・南アフリカの各基地へ
順次前線備蓄として移送する。
これを最優先任務とする。」
巨大な倉庫では、
砲弾箱が山のように積まれ、
輸送トラックが絶え間なく往復し始めた。
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日本は“戦争前夜”へ
静かに、しかし確実に全軍が動き始めた。
英国の密告によって、
スペイン・ポルトガルが本格的に日本を脅威と見なしたことは
ほぼ確実となった。
明賢は静かに地図を見つめた。
「……来るのか、スペイン。
太陽の沈まぬ帝国と言われたその艦隊、
どれほどのものか、見せてもらおう。」
日本は完全に戦時体制へと入り、
いよいよ“スペイン・ポルトガル連合 vs 日本”の
歴史を揺るがす大戦が近づいていた。
スペイン、“日本は戦う気だ”と断定する
日本側の軍の動きが、欧州諸国に伝わる。
・メキシコ国境への日本軍集結
・パナマ周辺での突如の防衛線構築
・南アフリカ方面軍の増強
・太平洋・大西洋での日本艦隊の活動活発化
これらの情報が
スペイン王宮の作戦室に次々と運び込まれた。
スペイン国防評議会では、
地図の前で高官たちが声を荒げた。
「日本は我々の植民地周辺に軍を集めている!」
「これは防衛などではない、戦線布告の前段階だ!」
「来年まで待てば、こちらが先に叩く機会を失う!」
そしてハプスブルク家によって
ついに“日西戦争”の開戦が正式に決まった。
1644年春 スペイン・ポルトガルは日本と戦争を開始する。
この決定は瞬く間に陸海軍の末端まで伝わった。
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スペイン、軍拡を最大規模に引き上げる
「日本に先を越されるな!」
「準備を急げ!」
「海も陸も、常時即応だ!」
スペインの軍備増強は一気にピークを迎える。
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スペイン陸軍
国境線──
特に“メキシコ北部”と“パナマ以南”の防衛拠点に
大量の兵士が送られた。
・砦の新設
・火砲の増設
・馬上兵の増強
・予備兵の動員開始
・補給線の強化
そして軍令が発せられた。
「日本軍の動きを見たら即座に迎撃せよ。」
スペインは日本の侵攻を恐れ、
全面的な“国境警戒態勢”に突入した。
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スペイン艦隊
欧州最大を誇る艦隊が
大西洋・カリブ海・インド洋に常時展開し始めた。
・ガレオン船を中心とする大型艦隊
・港湾は常時出撃可能な戦時体制
・補給基地をアゾレス・マデイラ・カナリア諸島に拡大
・私掠船を招集し“準軍隊”として統合
提督たちは自信満々だった。
「大西洋は我らスペインの海だ。
日本が来るなら撃沈すればよい。」
しかし、彼らは知らなかった。
すでに“見えぬ場所から日本が監視している”ことを。
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日本艦隊、レーダーでスペイン艦隊を追跡開始
大西洋の水平線の上──
完全に海の境界線すら見えない距離で
日本海軍の対水上レーダーが静かに回っていた。
大型艦隊の反応がレーダー画面に浮かぶ。
「スペイン第1艦隊、南西へ進行中。」
「速度低下──補給行動の可能性。」
日本の偵察艦は
肉眼で見られず、火薬の煙の匂いすら届かず、
それでいてスペイン艦隊を丸裸にしていた。
副官は報告した。
「スペイン艦隊、常時展開を開始しています。
どうやら開戦の準備に入っている模様です。」
明賢は静かに頷いた。
「……1644年春頃、か。
ならばこちらも間に合わせよう。」
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大戦の足音
スペインは恐怖と誤解の末に開戦を選び、
日本はそれを迎え撃つ構えを整えた。
歴史の流れは、
いま大陸も海も巻き込む“世界最初の超大戦”へと向けて
確実に動きつつあった。
スペイン軍総司令部
1643年末 ハプスブルク家宮殿作戦室
石造りの作戦会議室には、
新大陸・アフリカ・アジアを含む巨大な地図が広げられ、
日本の勢力圏が赤線で引かれていた。
司令官メンドーサが言った。
「諸君──来年、日本との戦争が始まる。
今夜は“日本の攻撃地点”を予測し、
我が軍の最終的な戦略を固める。」
重い空気が流れる。
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1. 日本の攻撃予測地点の分析
参謀長が棒で地図を指しながら説明する。
① メキシコ国境
日本軍はすでに北側に大兵力を集結させている。
「日本軍が一気に雪崩れ込んでくる可能性が高い。
攻撃速度は未知数だが、
あの“規律と物量”を持つ軍が一斉に来れば
数日で中米を失いかねない。」
② パナマ地峡
狭いが要衝。
日本軍がここを突破すると南米が丸裸になる。
「ここを突破されればペルー、ボリビア、チリ、全てが危険だ。」
③ 海上からの直接侵攻
海軍参謀が言った。
「最大の問題は海上侵攻である。
あの“音のしない艦船”……
あれを伴った日本艦隊は、
砲撃の精度も速度も我々では予測できぬ。」
海軍は沈痛な表情だった。
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2. 予想される攻撃:
「陸は一気に突破され、海は未知数の艦隊が襲来する」
これが全員の共通認識になった。
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3. 対策会議
司令官が言った。
「では対策案をまとめよ。
日本に突破されぬよう、
必ず複線的な防衛戦略を構築する。」
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国境の要塞化を最優先
陸軍案は明快だった。
メキシコ・パナマ両国境の“徹底要塞化”
・大砲の増設
・馬防柵
・高地砦の強化
・補給庫の新設
・予備兵の後方配置
「とにかく“日本軍の初撃”を耐え抜く。
1週間でも持ちこたえれば反撃可能だ。」
陸軍は、日本の先制突破を何より恐れていた。
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海軍:未知の艦隊に対抗するため“総動員”
海軍大将が立ち上がった。
「日本艦隊の性能は全く読めない。
だが数で押すしかない。」
官民問わず、船という船を“軍艦化”
・ガレオン
・商船
・漁船
・私掠船
これら全てに砲を搭載し
大艦隊を編成することが決定された。
「火力の密度さえ確保すれば、
未知の敵でも撃ち負かせる可能性はある。」
完全に“物量勝負”の発想である。
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各植民地司令官に“独立指揮権”を付与
副官が言った。
「連絡が遅いため、
本国の指示を待てば全て後手に回る。
ゆえに──」
南米・中米・アジアの植民地司令官へ
「臨機応変に戦闘を開始してよい」権限を付与
これにより、
日本軍が攻撃した瞬間に反撃が可能になる。
司令官は力強く言い切った。
「各地の指揮官は即断せよ。
必要とあらば、本国の許可なく戦端を開いても構わん。」
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司令官メンドーサは
決定事項をゆっくりと読み上げた。
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スペイン軍最終戦略(1644年)
1. メキシコ・パナマ両国境を最優先で要塞化
日本の地上侵攻を遅滞させる。
2. 官民全船舶を“砲艦化”し、物量で日本艦隊を迎撃
未知の艦隊には「数」で対抗。
3. 植民地司令官へ独立指揮権を付与
日本軍攻撃時、即応可能にする。
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会議の結論
最後に司令官は静かに言った。
「これでようやく“戦う準備”が整った。
あとは日本が動くのみだ。」
重い沈黙のあと、
全員がゆっくりと頷いた。
1644年──
スペインはまさに“戦時体制”に突入した。




