物語序章 第一版 105章
「国際会議 ― 静かなる宣言」
翌朝――。
鹿児島の外交施設には、朝日とともに各国の外交官たちが集まっていた。
石造りの会議棟の前には、各国の旗が並び、
中央には金糸の縁取りが施された日本国旗が高く掲げられている。
会議室の内部は荘厳な静寂に包まれていた。
壇上に立つのは日本側代表の外交官と、
前日に艦を指揮した艦長である。
席上には各国の紋章を刻んだ名札が並び、各国の外交官たちが緊張した面持ちで座っている。
外交官がゆっくりと口を開いた。
「まずは――昨日の艦の閲覧にご同行いただき、心より感謝を申し上げます。」
柔らかな口調ながら、その一言で場が静まり返る。
「ご覧いただいた通り、我が国は新たな海上航行技術と兵装を確立しました。
しかしながら、それは征服のためではなく、
我が国の民と世界の安寧を守るためのものであります。」
艦長が続けて、黒板に図を描きながら艦の構造を再び説明した。
艦体の大まかな寸法、装備兵数、搭載砲の数――。
外交官たちは真剣にノートを取りながら聞き入っていた。
だが推進方法についての質問が出ると、艦長は静かに笑って答えた。
「――それに関しては、軍事機密であります。」
会場にはわずかな笑いが漏れ、緊張が少し和らいだ。
次に議題は外交方針へと移った。
外交官が手元の資料を開きながら、明確に言い放つ。
「我が国は、可能な限り外交関係を維持いたします。
しかし――交易は行いません。」
ざわめきが起きる。
代表団の一人が立ち上がり、問いかけた。
「交易を断つというのは、経済的にも外交的にも孤立を意味するのでは?」
外交官は首を横に振る。
「いいえ。孤立ではありません。自立です。
我が国の船は、必ず国旗を掲げて航行します。
その際は、いかなる国も我が船へ接近又は攻撃せぬようお願い申し上げます。」
その言葉は、明確な警告でもあった。
武力誇示ではなく、絶対的な自信に裏打ちされた“宣言”。
外交官たちは互いに視線を交わしながら黙り込む。
続いて、日本代表団は一枚の金属製の箱を開けた。
中には、鏡のように輝く白金製の金属棒と、精緻な分銅が並べられている。
「こちらが我が国で定めた長さと重さの基準――メートル原器と分銅原器です。」
外務卿が続ける。
「この単位系を、世界共通の国際単位として採用していただきたい。
人が測る数値が一致すれば、言葉の壁を越え、
協力はより確かなものとなるはずです。」
各国に複製が複数配布されると、
外交官たちは感嘆の声を上げ、慎重にそれを手に取った。
この瞬間、世界における“共通尺度”が生まれたのである。
その後の議題は、領土の確認と国境線の調整だった。
外交官は地図を広げ、淡々と宣言した。
「現在、日本が支配する地域は以下の通りです。
北米大陸、オーストラリア大陸、南アフリカ地域、太平洋の諸島群――
これを正式に日本領として登録いたします。」
一瞬、場が凍る。
だが、反論の声は上がらなかった。
実際日本人が大量に入植していて他の国々の入る隙がない。
そして前日の艦の砲声が、いまだ耳に残っていたからだ。
彼らは理解していた――これが現実の力の証明なのだと。
続いて、各国代表は互いの支配地域を再確認し、
国境の再確認を行った。
会議の末、日本の提案により、
「一年に一度、各国が順に持ち回りで国際会議を行う」ことが決定された。
平和と調和を掲げる、新たな外交秩序の始まりである。
その後、日本代表はさらに踏み込んだ議題を提示する。
「北米大陸におけるイギリス領について――」
外務卿は静かに地図を指差す。
「現在、イギリス本国では内戦が発生しており、
北米植民地の統治は極めて不安定な状態です。
我が国は、安定した統治のため、
譲渡、もしくは友好的な売却の形での移管を検討しております。」
数名の外交官がざわつく。
外交官はその波を鎮めるように言葉を続けた。
「我々は、いかなる領土も力によって奪いません。
秩序と合意のもとに引き継ぐのです。」
さらに日本は、
「東南アジアの一部島嶼を、日本の技術支援を対価として譲渡して欲しい」
という提案を各国に持ちかけた。
高度な造船・新技術の提供――それは、どの国にとっても魅力的な交渉材料だった。
やがて議題はすべて終わり、
外交官は深く一礼して締めくくった。
「――本日はご参集、誠に感謝申し上げます。
これより代表ごとの質疑応答に移らせていただきます。」
会場の空気がわずかに緩み、
外交官たちは次々に手を上げた。
その表情には、恐怖と興味、そして――確かな敬意が入り混じっていた。
各国の質問
イギリス王国(イングランド内戦期)
― 商業と海軍の国。日本の艦艇技術に最も強い関心を持つが、同時に恐れている。
内戦で疲弊しているため、技術援助・貿易・領土交渉に焦点が当てられている。
1.「あの艦は風も帆もなく、どうしてあのような速度で進めるのです? 新しい推進機構なのですか?」
2.「船体は金属のように見えました。あの重さで浮くとは信じがたい。浮力をどう維持しているのです?」
3.「砲塔が回転して標的を狙うとは驚きました。あれは人力か、それとも別の力で動かしているのですか?」
4.「あの砲弾の威力は尋常ではない。もしそれを海戦に用いれば、我が艦隊は一日と持ちません。どのような火薬をお使いか?」
5.「北米における貴国の支配地域と、我が国の支配領の境界をどう定められるおつもりですか?」
6.「交易をなさらぬということですが、技術の一部を譲渡いただける可能性はございますか?」
7.「もし貴国が我が国の内部勢力を支援することになれば、それは内政干渉と見なしてよろしいでしょうか?」
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オランダ共和国
当時世界有数の商業・金融国家。現実主義で理詰め。宗教的束縛が弱く、科学・測量・航海術に強い興味を持っ。
日本の単位制度・測量・通信技術に最も理性的関心を持つ。
1.「貴国の『メートル』なる単位体系は非常に合理的です。どのように定義されているのです?」
2.「その単位や測定方法を用いれば、我々の海図も正確に描けるはず。共有いただけるでしょうか?」
3.「日本の船には羅針盤以外に位置を測る装置があるように見えました。あれはどういう原理ですか?」
4.「砲撃の精度を保つには角度・距離の計測が不可欠です。何か新しい測量法をお持ちですか?」
5.「交易をなさらぬということですが、観測器具や書籍の交換は許されますか?」
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フランス王国
― 絶対王政下で威信を重んじる。科学にも興味があるが、政治と軍事に結び付けて考える傾向がある。
外交的・感情的な表現で質問する。
1.「我が国の造船技術をもってしても、あのように美しく滑るように進む艦船は作れません。どうか一隻だけでも作り方を拝見させていただけませんか?」
2.「あの艦の装甲と砲撃力は、もはや“海の要塞”に等しい。貴国は他国の海をも制圧できる力をお持ちなのですか?」
3.「日本は交易をしないと仰る。ならばその力は、世界を閉ざすためのものですか?」
4.「単位制度や測量技術は素晴らしい。これは科学者たちへの贈り物として理解してよろしいですか?」
5.「もし協力を願えば、我が国の宮廷でその科学を披露していただくことは可能でしょうか?」
6.「北米やアフリカで、貴国が建設している港や施設は防衛のためですか? それとも交易のためですか?」
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スペイン王国
― 大航海時代の栄光が陰り始めた時期。宗教色が強く、日本の“異端的科学”を恐れつつも興味を抱く。
1.「あの艦の力は神の御業に等しい。貴国は天の力を借りておられるのですか?」
2.「あの火を吐く砲は、聖書の教えに背くものではありませんか?」
3.「貴国がキリスト教を禁じておられると聞きました。今もこれからもそうですか?」
4.「その単位“メートル”というもの――神の作った世界を人の手で決めるなど、僭越ではありませんか?」
5.「南アフリカに進出しておられるとか。我らの植民地との境をどのようにお考えですか?」
6.「日本は海を越えてまで何を求めておられるのです?」
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ポルトガル王国
― 宣教師派遣と貿易を主とする国。かつて日本と関係があったため、“再接触”の立場で質問する。
宗教と商業の両面から探りを入れる。
1.「かつて我らの宣教師が日本を訪れましたが、今はすべて閉ざされたと聞きます。再び交流の門を開くつもりはございませんか?」
2.「貴国の船には、我らが見たこともない力が宿っています。それはどのようなものですか?」
3.「あの船を作るための金属は、どこで採れるのです?」
4.「貴国の海軍が世界の海を航行していると聞きます。インド洋の我らの航路には干渉されぬでしょうか?」
5.「我らが持つ香辛料や金属との交易をお考えではないのですか?」
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(神聖ローマ帝国・プロイセン系諸邦)
― 科学と軍事の合理主義的思考。宗教より理論重視。武器と技術に興味。
1.「あの砲の構造は合理的だ。反動を抑える機構があるように見えた。どのような仕組みだ?」
2.「照準の補正はどのように行っている? 風や重力を計算しているのか?」
3.「あれほどの金属部品を精密に仕上げるには、どんな技術を使っているのか?」
4.「貴国では兵の訓練は数学的な規律に基づいているのか?」
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ローマ教皇庁(宗教勢力)
― 技術を“神の領域を侵す異端”と見る立場。政治的圧力をかけてくる。
1.「貴国は信仰を持たぬままこれほどの力を得たのですか? それは危険ではありませんか?」
2.「もし神の名を否定する技術ならば、我々はそれを認めることはできません。」
3.「それでも貴国が平和を望むのなら、その技術を戦いに使わぬと誓えますか?」




