物語序章 第一版 101章
日本電化計画
電脈の黎明 ― 日本電機工廠と光の綱
南嶺州の精錬港が稼働し、希土類の炎が夜空を焦がす頃。
日本の中枢では次の命令が下された。
「文明の鼓動を伝える神経を作れ。
機械に魂を与える電子の血を流せ。」
こうして、帝国電機産業の礎を築く一大計画――
**「電脈構想」**が始動した。
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◇ 日本本土 ― 電機工廠群の建設
まずは本州中部(静岡・名古屋地区)に、
日本最大の電機工廠群が建設される。
新たに工場を建設し、次の四大ラインが整備された。
工場名主生産品補足設備
第一電波工廠軍用/民間無線機・通信装置周波数試験棟、真空管・トランジスタ組立ライン
第二電装工廠発電機・重機制御用コンピュータ制御盤組立、冷却ユニット製造
第三航測工廠船舶・航空機用レーダー・測距機回転アンテナ製作所、半導体増幅器試験場
第四電子統制工廠電子制御盤・回路基板・電源装置PCB製造棟、IC組立棟、QA検査区
各工廠には帝国大学と陸海軍技術本部から派遣された技師団が常駐し、
電磁波・通信・制御・信号処理を専門とする研究部を併設。
生産は月単位で次第に拡大し、
初期は軍用無線機・陸軍戦車制御盤・艦艇用発電機を中心に製造された。
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新大陸 ― 北岸電脈都市群の形成
一方、新大陸東岸では**「北岸電脈都市」**が誕生。
主要都市沿いに複合電機工場を配置し、輸送・発電・通信の中心とした。
•第一新大陸電装廠(ニュー・ヨコハマ地区)
→ 発電機、産業用モーター、整流器、電力変換装置。
•第二無線電工廠(アーガス平原)
→ 移動無線・通信中継装置・短波受信機。
•第三航測局(デルタ湾沿岸)
→ 船舶レーダー、気象観測装置、港湾監視システム。
新大陸の電力はすべて送電線網(高圧線2系統・冗長化)によって統一され、
工場地帯には蓄電池と変電所が併設された。
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光の時代 ― 光ファイバー工場建設
電機工廠群の整備と並行して、通信省が**「光通信計画」を発表。
国内および新大陸間を結ぶ銅線通信に変わる光ファイバー通信網**の敷設を目的としたものである。
① 光ファイバー素材生産工場(熊本)
清浄な水と安定した電力を持つ和歌山に、
光ファイバー素線工場が建設された。
主要工程:
•石英ガラス溶融炉(2000℃)
•MCVD/OVD法によるプリフォーム作成
•ファイバー引き出し塔(高さ25m)
•被覆ライン(紫外線硬化樹脂)
この施設で年間光ファイバー素線1200トンの生産が可能となる。
② 光通信機器組立工場(川崎)
•光モジュール、送受信機、レーザーダイオード、光コネクタ製造
•検査ラインに干渉計・光パワーメータを導入
③ 海底ケーブル製造工場(大阪)
•鋼線補強+多層防水構造
•専用ケーブル敷設船「光龍丸」「蒼潮丸」を建造
•日本、オーストラリア大陸、新大陸、汎名、副嶺島を大陸間通信を光で結ぶ計画
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夜の和歌山工場。
白衣の技師たちがガラス炉の前に立ち、
炎の中から一本の透明な糸が静かに垂直に引き出されていく。
「これが……光を運ぶ糸ですか」
若い研究員が息をのむ。
「そうだ。
日本の都市と都市を、心と心を、
この一本の線が結ぶのだ」
工場の天井から伸びる繊維が、
まるで天と地をつなぐ神経のように光を反射した。
それはやがて、電波と光が交わる帝国の新しい時代――
“電子帝国”の胎動を告げる光だった。
電子の舵 ― 海と鋼に宿る知性
電機工廠群の稼働から一年。
電子の灯が工場から軍へと渡り、
海と陸のあらゆる機械が“思考”を始めた。
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海軍艦艇 ― 電子の目を得た艦隊
海軍省の技術本部は、電機工廠第三航測局と協同し、
艦艇用電子装備の体系化を決定した。
第一段階として、全艦への軍用無線機の搭載が始まる。
これにより艦隊行動は従来の旗艦のみの無線通信や旗信号や伝令艇に頼ることなく、
全ての艦艇が遠洋で即座に司令部と連絡が取れるようになった。
次に導入されたのは、**新型軍用レーダー「菊眼型」**である。
その特徴は次の通り。
•出力:40kW級パルス発信
•探知距離:海上30km/航空機60km
•操作員:3名(レーダー士、整備士、記録士)
•構造:回転式アンテナと電子表示CRTを搭載
この装置が主力艦隊の全艦に順次搭載され、
艦隊は“電子の目”を得た。
夜の洋上、巡洋艦〈高砂〉のブリッジで若き航海士がCRTを見つめる。
緑の光点がゆっくりと回り、画面に点滅が現れる。
「艦長、方位一四二、距離八〇、反応あり!」
「――見えるか。あれが電子の力だ。」
闇を裂く電波の波が、
海軍を未知の海域へと導く時代が始まった。
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重機の進化 ― 鋼鉄に宿る電子の魂
同時期、陸の重工業にも電子の革命が訪れる。
従来の機械式制御を改め、電子制御方式が導入されたのだ。
重機工廠では油圧・機械式の旧型ブルドーザーを基に、
電子制御システムを搭載した新世代機――
**「1式電子油圧掘削機」**を開発。
•メイン制御ユニット:日本製マイクロコントローラ
•センサー系統:油圧圧力・温度・傾斜・燃料流量
•操縦系:電気信号による比例制御レバー
•エンジン:電子点火・自動回転制御付き
•通信:工事現場間無線リンク(短距離無線)
この新型重機は、燃費と作業効率を大幅に改善し、
土木局と陸軍工兵隊の共同運用によって、
道路、鉄道、港湾、発電所建設の主力となった。
また、各機体には固有の制御IDが割り振られ、
作業記録が本部サーバーに自動送信される仕組みも導入された。
それはまさに、
“機械が自らの働きを報告する”という、
新しい時代の幕開けだった。
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電子帝国の胎動
海の艦艇は電子の目で世界を見、
陸の重機は電子の心で動く。
それぞれの機械が電線を通じ、
中央の制御局と情報を交わす。
無線の波、光の線、そして回路の脈。
帝国全土を覆うその網は、
やがてひとつの巨大な“神経系”を形づくっていった。
「人が命じ、機械が応え、
機械が感じ、また人へ伝える――
これこそが文明の進化だ。」
技師たちの手に握られた半田ごての先で、
一滴のハンダが銀色に光るたび、
帝国は確かに、電子の時代へと歩みを進めていた。




