↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明賢の物語(日本建国物語)試作版 第一版  作者: 大和草


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/248

物語序章 第一版 10章

第十章 決戦関ヶ原


夜明け前、関ヶ原の地は白い霧に包まれていた。

土は夜露を吸い、草の先が冷たく濡れている。

鳥の声はなく、遠くで旗の布が揺れる音だけが響いていた。


明賢は部屋の中で無線機を見つめていた。

木の机の上には、清助たちが作った観測小屋からの通信器が並び、

小さな灯が点いたり消えたりしている。

それがまるで心臓の鼓動のように感じられた。


「こちら観測小屋一、敵の布陣、予定通り東の丘。数、約二千。」

「風向きは?」

「午前は北東、午後から東へ変化する見込みです。」


報告を聞きながら、明賢はノートに素早く線を引いた。

赤い印は敵、青い印は味方。

兄が率いる部隊は南西の丘に展開している。

父の部隊は中央やや後方。


「父上、兄上。予定通り午前に先制攻撃を仕掛けてください。

風が変わる前に終わらせます。」


伝令が馬で走り出す。

霧の中に小石の音が遠ざかっていく。


⸻


情報の戦


清助は観測小屋にいた。

双眼鏡で敵陣を確認しながら、通信機に短く言葉を送る。


「東側、火薬の準備を確認。煙、まだ薄い。」

「了解、こちら西の丘、火薬装備は完了。」


戦が始まった。

銃声が霧を突き破るように響く。

鉄の匂いと土の煙が混ざり、視界がわずかに赤く染まった。

清助の耳には、通信音と爆ぜる音が交互に届く。


「北西側、敵が動いた! 予備兵が南に移動中!」

「そのまま放置、あの道はぬかるんでいる。進めば足を取られる。」

明賢の冷静な指示が返る。


敵は足を取られ、進軍が遅れた。

味方の側面攻撃が予定より早く成功し、敵陣が一部崩れた。


「報告、敵の退却確認。中央陣、押し上げ開始。」

明賢は深く息をついた。

兄の部隊が前進している。父の旗が見えた。


⸻


戦の終息


昼を過ぎ、風が東に変わった頃には、すでに戦況は決していた。

敵は陣を崩し、退却する者が多い。

味方の損害は最小限だった。


清助が通信を送り、静かに報告した。


「……勝利です。」


明賢は返事をしなかった。

ただ、机に広げた地図を見つめていた。

無数の線が戦場の動きを示し、

そこに命の流れが刻まれていた。


父と兄が無事に帰還したという報告が届く。

父は戦功を称えられ、兄は部隊を率いた功で重臣の目に留まった。


「見えぬ戦いが、見える戦を動かす。」

明賢はその言葉を胸の中で繰り返した。


⸻


勝利の影


夜、清助が屋敷に戻った。

衣の端には泥と草の匂いが残っている。

「本当に、先生の言った通りでした……敵の動きまで。」

「理屈を積み重ねれば、偶然は減る。それだけのことだ。」

明賢は静かに答えた。


家の外では、勝利を祝う声が遠くに響いていた。

けれど屋敷の中は静まり返っていた。

勝利の先に何があるのかを、

この屋敷の誰もまだ知らなかった。


勝利の報せ


関ヶ原の戦いが終わって数日、屋敷には多くの使者が訪れた。

勝利の報告と戦功の確認、そして戦場での詳細な記録を求める者たち。

父は何も言わず、静かに書状を受け取った。

兄は傷ついた鎧を拭きながら、外の光を見ていた。

屋敷の空気は静かだったが、その静けさの底に確かな誇りがあった。


⸻


召し出し


ある朝、徳川家康の使者が正式に訪れた。

封書には、父とその嫡男、そして「その子息、明賢」との名が記されていた。

戦の報告と功績の確認のため、江戸への召喚命令である。

使者は深く頭を下げ、言葉少なに去っていった。


家の者たちは驚き、清助は無言で立ち尽くした。

明賢は封書を見つめたまま、静かに笑った。

「……ついに、来たか。」


⸻


作戦会議


その夜、父と兄、そして明賢は囲炉裏を囲んで話し合った。

「褒美はどうする?」と兄が言う。

「名誉より実を取ります」と明賢が答える。


父は眉をひそめた。

「実、とは?」

「江戸の屋敷です。できれば城に近い土地。

 そして、いくつかの土地を教育施設として使えるようにしてほしい。

 今後、学問を広めるための“場”が必要です。」


兄はうなずいた。

「確かに、戦の勝ち方を知る者が増えれば国は強くなる。」


「それともうひとつ、家の格を上げること。

 人を増やすためには地位が必要です。

 優秀な者を雇い、教育し、動かす。

 そのために“名”を手に入れます。」


父は黙って茶をすくい、湯飲みに落とした。

「……すべて、考えているのだな。」

「はい。江戸は次の国の中心になります。

 その中枢に入ること、それが最大の褒美です。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。