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農民蜂起②

カール様!ご無事ですか!」


パウルがそう言いながら手綱を引きこちらへ向かってくる。

間違いなくあの時、俺は死ぬはずだった。あいつは殺そうと思えば俺のことを殺せた。

だが殺さなかった。なぜだ?


「ああ、なんとかな。…あの男は何者だ?」


「私も存じ上げませんが、相当な手練れです。あのように武術、魔術共に秀でた者は帝国内でもそう多くはないでしょう」


パウルがひざまずいて深々と頭を下げてきた。


「私がそばにいながら…一生の不覚でございます」


「いいんだよ!生きてるし」


だが、被った被害は決して軽いものではない。負傷兵の治療に軍内は大忙しだ。


「さて、ここからどうするかが悩みどころですな」


「そうだな…」


「おそらく農民を率いているのは先程のあの男。個人の能力に限らず指揮官としての才能も飛び抜けております。この戦い、はっきり言って我々だけで勝てるかどうか…」


どうしたものかと見上げた空はすでに夜明けを迎えていた。緊張が解け、溜まった疲れがどっと襲ってきた。この世界に来て一日。まさかこんなことになるとは。

そうして目線を落としら遠目に見た城には衝撃の光景が広がっていた。

何と白旗が掲げられていたのだ。


「フール城より降伏の申し入れが!」


一人の兵士が大慌てでそう言いながら書状を持ってきた。この世界じゃ俺は文字が読めないから何で書いてあるかはわからないが。

陣中が騒がしくなる。それもそうだ。このまま戦えばおそらく、いや確実にこちらが負けていただろう。

何の目的があってこのタイミングで降伏するのか。


「なぜ奴らは降伏するのだ?」


パウルも顎に手を置き眉をひそめそう呟く。


「降伏文書には何と書かれている?」


「降伏の条件は農民の助命。形は問わないと書かれています。…カール様、いかがいたしましょうか?」


「お前ならどうする?パウル」


パウルは一瞬驚いた顔をした。


「失礼ながら申し上げると私ならば処罰を覚悟の上降伏を受け入れます」


「処罰?何でお前を処罰する必要がある?」


「…普段のカール様ならば一人残らず殲滅せよと仰るのでてっきり…」


「あー!もう!そんなことしねぇよ!」


忠義に熱く有能で、さらに命まで救ってもらった男を処罰などできるはずがない。

この男はやはり信頼できる。


「…カール様、随分とご立派になられたようで」


「…カール。一つ話がある。二人きりにしてくれないか?」


そう聞いたパウルは周りの指揮官、兵士たちに陣外へ出るよう促してくれた。

この男になら言ってもいいだろう。


「…実は俺は記憶がないんだ」 


俺はアウゲーとトルーとのやりとりをパウルにそのまま伝えた。


「…なんと!」


パウルは今日で一番驚いた顔をしていた。


「このことを知っているのは城の医者のアウゲーとメイドのトルー、あとお前だけだ。どうかこのことは内密にしてくれ。頼む。」


「神に誓って!」


パウルはそう言いひざまずいた。



程なくして砦の火は落ち着きを見せ、オストホーフェン家の白地に黒十字の旗が掲げられた。

そして城から武器を捨て両手を挙げた農民が次々と列をなしてこちらへ向かってくる。

しかしその中に眼帯をした男の姿は見受けられない。


「大変申し訳ございませんでした!この私!いかなる処罰も受ける所存にございます!全ての罪はこの私めに!」


「いいえ!私めに!」


農民たちの悲痛の訴えが聞こえてくる。


「彼らをそのまま村に返すってのは…」


「難しいでしょうな…それではカール様の面目が立ちません。ある程度の示しをつける必要はあるでしょうな」


「そうか…」


「…南部の村々の水害の被害からの復興は駐屯兵だけでは手が足りないようです。罰としての労役という形で彼らの一部を派遣するというのはどうでしょう?」


「ナイスアイディア!」


俺はパウルと話し合った後、陣から出て並んだ農民達に姿を見せた。

彼らは俺を恐怖と憎悪の目で見ている。


「お前達には罰として南部の村の復興の労役を課す!」


農民達はポカンと口を開けている。


「…それだけでよろしいのですか?」


「それだけだ。」


農民達は互いに泣きながら抱き合った。


「お前達に一つだけ質問がある」


「はい!なんなりと!」


農民の代表のような男が答える。


「眼帯をした男を知らないか?」


「は、はい。もちろん存じ上げております…」


「名前は?」


「…存じ上げません」


「お前達とはどのような関係だ?」


「…彼は武器を取り恐れ多くもカール様に立ち向かおうとした我々の前に現れ、『道を示してやる』と言い我々の指導者として戦いを進めてきました」


「奴はどこにいる?」


「…わかりません。騎馬を率いて城を飛び出し、帰ってきた後、『あいつは大丈夫だ』と言い我々に降伏文書を持たせ降伏の白旗を掲げさせた後どこかへと消えてしまいました」


訳がわからん。だが、やはり農民を率いていたのは奴だ。色々と気になる事はあるがとりあえず今は無事に戦いが終わった事を喜ぼう。

あ、後ひとつ言い忘れていたことがある。


「私は丁度減税について考えていたところだ。お前たちの意志関係なく減税は行われていただろう!全ての決定権は私に帰する!」


…こういうのはやはり苦手だ。



もぬけの殻となったフール城に俺は入城した。

すっかり外も明るくなってきた。ここで仮眠をとったのち居城のオステート城へ帰還する予定だ。

疲れた。こんなに波瀾万丈な一日を過ごした事はない。この世界に来てから全てが夢のようだ。


…夢は夢でも悪夢だが

そんなことを考えながら俺は眠りについた。

読んでくださっている方、ありがとうございます!

まだまだおぼつかないところもあると思いますがどうか温かい目で見守っていただけると幸いです。

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