責務
肖像画に描かれていたのはいかにもな貴族のおぼっちゃま…だが顔は俺!
驚いた。こんなことが本当にあるなんて。弟だってここまでは俺に似てない。
なるほど合点がいった。トルーが俺のことを頑なにカールと呼ぶのは顔が同じだからだ。
これは…誰にどう説明してもわかってもらえなさそう
だ。
どうしたものか。俺はこの世界でカールとして生きていかなければならないのか?まあ貴族という立場は悪くないが…いかんせん独裁者と呼ばれ嫌われるのはなぁ…
そんなことを考え肖像画を見つめていると背後から声がした。
「おはようございます殿下」
セバスチャンといった感じの老人だ。
「お、おはよう」
「トルーから聞いております。体調の方は大丈夫ですか?本日の行政会議、どうなさいますか?」
「大丈夫だ。出席しよう」
本当は出たくないが。状況を知るためにも出ないといけないだろうな。
「そうですか。くれぐれもお酒は程々にしてくだされ」
そう言ってセバスチャンはどこかへ行ってしまった。
とりあえずこの建物を探索してみよう。
思いのほかこの建物…いや城はそこまで巨大というほどでもなかった。それでもたくさんの部屋に従者、そして豪華な装飾。
だが一つ言えるのはあまり居心地の良い空間ではないということだ。会う人会う人俺のことを恐怖の目で見てくる。城内でこれなら外に出れば俺はどんな反応をされるのだろうか。
これはカールの悪政ぶりを確かめる必要がありそうだ。
俺はセバスチャンに頼んで馬を出してもらった。
「え、ええ。どうかお気をつけて」
セバスチャンはどこか驚いたような顔をしていた。
俺は護衛を連れて城下を歩いた。馬に乗るのは初めてだったが数分もすればコツを掴んだ。
街自体はそこそこの規模だったがどこか陰鬱な空気が流れていた。俺を見た街の人々は俺をやはり恐怖の目で見ていた。そして一部は怒りをこらえるような目で。よっぽとカールは嫌われているようだ。
「あんたのせいで…うちの子は!」
街を練り歩いていた俺に1人の女性が泣きながらそう言ってきた。カールは何をしでかしたのだろうか。
「返せ!うちの子を返せ!」
「やめろ!し、失礼しました!こいつにはよく聞かせておくのでどうかお許しを!罰ならこの私に!」
そう俺に必死の形相で男は許しを請うた。おそらくこの2人は夫婦で子供にカールが何かしたのだろう。
「子供に何があった?」
「あんたの行列を横切った息子を…あなたが殺したんじゃない!」
「す、すみません!この者にはきつく言っておきますので!どうか罰はこの私に!」
そう言う男の目にも怒りの感情が見え隠れしていた。
呆れた…まさかそんなことで子供を…
「殿下。この者達は如何致しましょうか?」
衛兵の一人がそう俺に尋ねた。
「…この者達の子はどうなった?」
「監獄の方に。まだ生きていますが、いずれ処刑せよと申されていたので…」
「解放してやってくれ」
「は?」
「聞こえなかったか?解放してやれと言ったんだ」
「は、ははぁ!」
そう言った衛兵の顔には安堵の表情が浮かんでいた。
「悪かった。許してくれ。この通りだ」
「え?」
二人は頭の整理がつかない。と言ったような表情をしている。今の俺にできるのはカールに代わって頭を下げることだけだ。無論そんなことで許されるとは思っていないが。
その後、しばらく街を練り歩いた後、俺は城へと帰った。
「さっきの夫婦の子のように捕まっているものは何人だ?」
「…数えきれないほど」
衛兵はそう答えた。
「同じように解放してやれ」
「良いのですか?」
「ああ、今すぐにでも」
「承知いたしました!」
俺は胸が痛むのと同時に酷い怒りを覚えた。
カールという男に対し。
そして決意した。
カールの負の遺産を俺が帳消しにすることを。