瓜二つ
早く誤解を解きたいところだが、しばらく様子を伺おう。俺はそう思い広間へと入った。俺はそのメイドに促されるまま広間へと入った。テーブルに用意されているのはザ・洋食といった感じの食事だ。パンにスープに肉に…そしてワイン。朝から酒なんていいご身分なこった。俺は食べる方だが、朝からこんな量は食べられない。
だが、用意してもらったものはちゃんと平らげるのが俺のポリシーだ。
「いただきます。」
味の方は…そこそこだ。強いて言うならパンが硬い。だが、問題はワインの方だ。俺はまだ二十歳になってないからアルコールの類は飲めないのだ。異世界に来てまでそんなことを気にするのかって?これは俺の気持ちの問題だ。俺は誰もいない赤信号でも止まるタイプの人間だ。お酒は二十歳からって決めているんだ。
「水をお願いしても?」
「はい!ただいま!」
さっきのメイドが大急ぎで水を持ってきてくれた。やはり俺のことを恐れているようだ。なんというか、学生が顧問の顔を伺うようなそんな感じだ。
そうして俺は食事をしながら思考を巡らせた。状況から察するに俺はそのカールとやらと間違えられている…或いはそのカールとやらになったのか…
しかし、鏡で見た俺の姿は家で寝入ったままの姿だ。そのカールとやらと顔も服装も何もかも違うはずだ。
とりあえず聞いてみないことには何もわからん。
「あの…」
「どういたしましたか?」
「俺の顔が本当にカールって奴に見えるのか?」
「はい!間違いなく」
「じゃあこの服は?」
「いえ。特に…」
俺にはわかる。これはウソをついてる顔だ。この子、さては顔に出やすいタイプだな?
「本当に?」
「し、失礼ながら申し上げると、昨晩のお召し物と違うようで少し疑問には…」
「…顔は?」
「間違いなくカール様です!」
どういうことだ?確かに服は違うようだが、顔が同じ?だが彼女の顔は嘘を言っているようには見えない。
「俺はそのカールとやらじゃないぞ」
「またまたご冗談を。少々飲み過ぎですよ」
「だから!本当に俺はカールじゃないんだ!」
少々声を荒げてしまった。彼女を怯えさせてしまったようだ。この際だ、違う世界から来た永井一だと名乗り素性を明かすのも手だろう。だが、このメイドに言ってもまた戯言だと流されてしまうだろう。何より、これ以上彼女を傷つけたくない。もう少し情報が必要だ。
「今日の予定は?」
「昼過ぎに恒例の行政会議、夜には酒宴の予定です」
コイツ…いや俺は随分と暇なんだな。その行政会議とやらまでの時間で情報を集めないとな。
「ごちそうさま」
「お、お待ちください!そのようなことはこの私めに!」
食べ終わって皿を持った俺をメイドが必死に止めてきた。だが、ご馳走になって皿洗いまでしてもらっては申し訳ない。
「これぐらいやらせてくれ。俺は暇なんだ」
「は、はい…カール様がそうおっしゃるなら…」
そうして俺はメイドと皿を洗いながら話をした。そしていくつかわかったことがある。俺が今いるここはシュタルケル帝国。永井一改めカールの本名はカール・フォン・オストホーフェン。年は俺と同じ…ってのも変な話だが17歳。やはり貴族らしい。そして俺はこの帝国で地方貴族の当主。
このメイドはかなりオブラートに包んで話しているがどうやら俺は領民から「独裁者」だと言われ嫌われているらしい。色々と気になることはあるがひとまず状況は掴めた。
おっと、最後に聞き忘れていたことがあった。
「君の名前は?」
「トルーです!本当にお酒は程々にしてくださいね!」
…どうやら俺は飲み過ぎで朦朧としていると思われているらしい。皿を洗い終わり、少し周りの部屋を観察しているととんでもないものが目に入ってきた。
「…これは」
そこにあったのは俺と瓜二つの顔をした肖像画だった。