その日は突然に
ちょっとした好奇心で初めて小説というものを書いてみることにしました。どうか温かい目で見守っていただけると幸いです。
俺はの名前は永井一。来年に大学受験を控える17歳のしがない高校生だ。趣味といえば本を読むことぐらい。特に変わったことはない。今日も今日とていつもと同じ生活を送るだけだ。チャリを漕いで学校へ行き、帰って寝るだけ。無機質で退屈で何もない。そんな変わらない日々が俺は好きだ。
変わらないこと。それが俺を安心させる。
「ただいま」
返事は返ってこない。時間は16時。共働きの両親は夜遅くまで仕事。弟は部活でいつも帰りが遅い。この家にいるのは自分一人だけ。
いつものこと。一人がいい。一人が落ち着く。今日はなんだか眠い。そう思い俺は制服も脱がずに自分の部屋のベッドで目を瞑った。
ーーーーーーーーーーーーー…
俺が次に目を開けた時に見たものは見知らぬ天井だった。体を起こして周りを見渡してみる。見知らぬ部屋だ。例えるならば欧州の絢爛な王室のような、そんな部屋だ。突然の光景に脳の処理が追いつかない。
しばらく考えて俺が出した結論は「夢」だった。だが今自分はこれが夢だと認識している。これが明晰夢?それを確かめるために俺は自分の頬を抓った。痛い。つまり夢じゃない。
そこから導き出される一つの結論は…
「異世界転生!」
俺は大声で叫んだ。こんな大声を出したのは久方ぶりだった。そしてこんなにも嬉しい気持ちになったのは人生で初めてだ。ここが異世界だという確実な証拠があるわけではない。しかし俺の直感がここは異世界だと言っている。俺は本で読む現実とは違う世界、「異世界」に憧れていた。そして願わくば何者かが俺をそこへ誘ってくれはしないかとそう思わなかった日はない。実のところ俺は飽き飽きしていた。変わり映えのしない退屈な日々に。神という存在を信じていなかったが今だけは心からの感謝を神に捧げたい。そう思えるほどに俺の心は高揚していた。
俺はベッドを飛び出して改めて部屋を見渡してみる。見れば見るほど豪華絢爛な部屋だ。貴族、はたまた王族の住まいのようなそんな印象を受ける。
鏡を見てみるとそこには制服姿のいつもの鈍臭い顔をした俺が映っていた。だがその顔は希望に満ちていた。
そうして気分を高揚させたまま部屋を歩き回りあれこれ考えていると、戸を叩く音がした。
「どうぞー」
この世界で日本語が通じるのかわからないが、とにかく俺はそう声をかけた。そして言葉が伝わらなかった時のことも考え、自分も扉に向かって歩く。そうして扉に手をかけた時、向こう側から扉は開けられた。
「ひゃっ、す、すみません!」
ひどく怯えた声でそう言葉を発した声の主は黒髪ロングボブの女性だった。年は自分と同年代ぐらいだろうか。見た感じ、所謂メイドという立場の人だろう。ザ・メイドといったような格好をしているので俺がそういうふうに決めつけただけだが。それにしても俺をひどく恐れているようだ。無理もない。誰だって見知らぬ人間は怖い。ましてや別の世界の人間だからな。
「大丈夫?」
怯える彼女に俺はそう声をかけた。だが彼女の俺を恐れる顔は変わらない。ここまで怖がられると心にくるものがある。俺自身、自分は近付き難いオーラを醸し出している自覚はあるがここまでではない。はずだ。見知らぬ者に素性を明かすのは得策ではないと思うが彼女から少しでも信頼してもらうため、俺は名乗ることにした。
「俺の名前はー」
「大変失礼致しました!カール様!」
「…は?」
彼女は俺のことを「カール様」と呼んだ。知らない名前だ。俺は彼女の必死の謝罪に気押され、それ以上言葉を紡ぐことができなかった。俺を誰かと勘違いしているのか?はたまたそれともー
「私の非礼をどうかお許しください!」
「まてまて!カールってのは俺のことか?」
「貴方様こそ私の主、カール様に御座います!」
どうやら俺はそのカール様とやららしい。しかし俺の姿は間違いなく俺だ。制服を着て鈍臭い顔をした俺だ。決してカールなどという者ではない。
「言っておくが俺はそのカールとやらじゃなー」
「朝食の準備はすでに広間の方に。何か御座いましたら何なりとお申し付けください。」
…これは先が思いやられるな。俺はため息をつき高い天井を見上げた。