浄妙寺
おじいさんのありがた~い おはなし。
「見事な出来ですな。」
藤原公任は、藤原斉信とともに完成したばかりの浄妙寺の扁額を見上げていた。斉信もいつもの皮肉な調子は消えて素直に感心している。
「さすが、当代一の書家、藤原行成殿ですな。もうこれだけで尊い思いがしますな。」
異界の門封印の後、御堂関白殿は宇治木幡の地にある宇治陵に安倍晴明ら陰陽師と赴き、寺地を定めた。この地、宇治陵は藤原一族の多くが埋葬される場所で、この地に眠る藤原氏の人々と、その藤原氏に恨みを持つ人々を弔い、供養することで、世の中に平安をもたらそうとしたのであった。当代を代表す仏匠、康尚が精魂を込めた普賢菩薩像が木幡堂に安置され、鐘銘や本堂のいたる所まで、その道の名人と言われるものが関わり、そしてその供養にはほぼすべての公卿が集まった。
その要人たちの警護に源頼光とその四天王、源頼信、藤原保昌ら武官たちも参加している。
「ふうーん、ママってそんなにモテたの。」
「保昌様と会う前よ。」
「でも皇子さまがお相手って、大変そうね。」
「おかげで好色扱いよ。相手が勝手に夢中になっても、愛人にしかなれないのよ。」
「私も愛人は嫌だな。」
「お相手は教通様?」
「んー、まあ、今回の活躍で少し見直したけどね。」
母娘がコイバナに夢中になってると、教通が慌ただしくやってくる。
「こちらにいましたか。出番は次ですから、スタンバイお願いします。」
「あら、教通くん、頑張ってるわね。」
母の和泉式部が返事をすると、教通は小式部の方をちらっと見た。
「こんな大イベントの仕切りを任されるなんて、ホントに名誉なことですよ。」
「忙しくって大変ね。」
ちょっと、小式部がいじわるそうにいった。しかし、教通は
「父や兄の期待に答えられるように頑張るだけですよ。」
「父や兄だけ?」
「え?もちろん、小式部さんに認めてもらえる男になるためですよ。」
「いいわ、これまでのこと許してあげる。」
その様子をみていた、母、和泉式部は、にこりと笑って
「まあ、任せておいて」
と、つぶやいたのであった。
浄妙寺の本堂では、当代が誇る楽人、歌人が招かれその技を奉納した。
源博雅が五人囃子を率いて、見事な新雅楽を披露すると、その演奏に続き現れたのは
「三人官女オールスターズ!!!!」
和泉式部、紫式部、清少納言の三人官女に、小式部内侍、大弐三位、小馬命婦の新三人官女の6名に、赤染衛門、伊勢太夫ら女流歌人4名が加わった10名による。歌が披露される。更に公任、長能、道綱、頼宗、定頼、長家ら男性歌人も加わり大合唱となった。
その歌の、音の響きは光を呼び、邪悪な気を全て洗い清めるのであった。
斉信は、もちろん彼自身の責任ではなかったが、この度の自分の失態に内大臣の任官を辞退した。それだけでなく、新たな内大臣に藤原教通を推薦したのであった。また、同じく源俊賢、藤原行成、藤原公任もその推薦人に加わったのであった。
「教通殿、これで晴れて大臣殿ですな。」
この事件以来師と仰ぐ公任も自分のことのように喜んでくれた。
「本当にありがとうございます。皆に認められて、父も喜んでいました。」
「関白殿の望みはそれだったんですよ。」
「父の望み?」
「ただ昇進させたら、わが子、かわいさの身びいきですよね。周りを納得させる働きがあればこそですな。本当に昇進おめでとうございます。」
「これも師匠のおかげです。」
「師匠?」
「師匠と呼ばせてください。」
「まあ、義父と呼んでほしいものだがね。」
「娘さんいるんですか?」
「ああ、養女もいないこともないな。」
公任は、いたずらっぽく、くすりと笑った。
「斉信殿も娘を嫁にと、言ってきているんですよ。」
「ふん、それは。しかし、教通殿には思い人がおりますな。」
「はい、彼女は私を成長させてくれました。愛人にはしたくないんです。失礼すぎます。」
「身分の問題ですね。」
「ええ、ただの公卿ならまだしも、大臣になったのですから。」
「私には、長年の歌の弟子がいてのう。その娘を養子にと考えておるんじゃ。」
「え?それって……。」
めでたし めでたし
第7章完結です。




