三舟の宴 最終日
おじいさんのありがた~い おはなし。
「和歌の宴」後半戦は、午前中と入れ替わり、白組先攻となった。
前半は、新進気鋭の若手中心となり、大弐三位、小馬命婦らの紅組に、御子左家の祖となる道長の六男長家が、高得点を出し、好勝負となっていた。
そして、後半戦は、ベテラン勢の真剣勝負となった。
「さて、後半戦、白組は小野宮流嫡男、歌神、藤原公任様の後継者、藤原定頼!!!!」
公卿たちに用意された席で、一人舞台を見つめる公任を教通は見ていた。その姿は息子を見る父親であった。
教通は、公任の手伝いをしていたときのことを思い出していた。
「私には父や頼通兄のような才覚も、頼宗兄のような歌才もありません。」
「ふむ、優れた父や兄に教通殿は、そのような卑屈な思いを持っているんですね。」
「私はどうしたら、良いんでしょうか。」
「教通殿は、その父や兄がどのような目で、あなたを見ているかわかりますか。」
「さぞ、失望していることでしょうね。」
「まずは、父や兄の気持ちを考えることから始めましょうか。」
「父や兄の気持ち?」
それには公任は直接答えず。自分やここの場にいない定頼にも言い聞かせるように
「私は才能というものは、それがあると信じて努力する者にあると思うんです。そして、その努力の結果を周りが才能と評価するんですよ。」
「努力なき天才なしってことですね。」
定頼は満々と流れる大堰川の情景を朗々とした声で自ら読み上げた。
ー水もなく見え渡るかな大堰川 ー
「定頼がまたやらかした。『水もなく』はないだろう。大事なところでしくじりおる。困ったものだ。」
と、自分が失敗したかのように公任が青ざめるのが、教通や周りの公卿たちにも分かった。
ー峰の紅葉は雨と降れどもー
「見事……。」
公任はやられた!という表情を浮かべた後、自分が詠んだかのように口ずさみ、会心の笑みを浮かべた。教通は、その姿を見て、父や兄がどのような目で自分を見ているのか分かったような気がした。
将門の星は一気に7つ光ったと思ったら、7つ目は一度点滅して消えてしまった。
「まだまだですね。父上、これからも励みます。」
定頼は、晴れやかな表情をして舞台から下りて行った。
「さあ、これで白組は41点、紅組と8点差を付けました。さて後攻の紅組は、紫式部!」
その後、紫式部、清少納言、赤染衛門、伊勢大輔らベテランの女流歌人の猛追に、頼宗、斉信、藤原長能、道綱らが抗い、勝負は66対64、白組優勢のまま双方最後の一人となった。
「さあ、勝負はいよいよ最後の一名ずつとなりました。」
「白組のトリはこの人、三舟の才、藤原公任!!!」
公任は自身では見えない異界の門のある方角を向いて、深く礼をした後、読み手として指名された教通を連れて、舞台に上がった。
ーおぼつかな うるまの島の 人なれや わが言の葉を 知らず顔なるー
(心もとないことだ 言葉が通じないうるまの島の人なのだろうか。私の送った和歌に知らぬ顔をしているのは)
将門の霊に呼びかける公任の言の葉に、将門の七つの玉は一斉に点灯した。
皆が歓声を上げる中、最後の一つが消えた。
「おっと、まだ足りないのか。しかしこれは6.5にも相当する高得点!」
公任は異界の門のある方角に深く礼をして舞台を降りて行った。
「とうとう、大トリとなりました。既に72対64、点数勝負は白組の勝利ですが、紅組の逆転勝利は7点満点を出すしかありません。そして封印の最後の希望はこの人だ。当代随一の女流歌人、和泉式部!!!!」
和泉式部は、夫である藤原保昌に付き添われて舞台にあがった。
そろそろ、日がくれ始めて、川端には、ちらちらと数匹の蛍が飛んでいた。
和泉式部は自らの声で、その思いのこもった言葉を紡いだ。
ーものおもへば 沢の蛍も わが身より あくがれいづる 魂かとぞみるー
(ものおもいに悩んでいると 沢の蛍も わが身から 抜け出した 魂かとおもえるわ)
魂と玉を掛け、周囲の情景を取り込んだ一首は、この場の情景にふさわしく、貴船神社に奉納するために作ったものとは思えない効果を生んだ。
「見事……。」
公任は、うんうんと、何度も頷きながら、口ずさんでいる。
しかし、将門の玉は光らない……と皆が見ていると、いきなり眩しく発光し、七つの光が一つになって周囲が光の中に包まれた。
ー奥山に たぎりて落つる 滝つ瀬の 玉散るばかり ものなおもいそー
(奥山にたぎり落ちる滝の水玉が飛び散るー魂が飛び散るーように思い悩んではいけないよ。)
光の中で、返歌が響いて、すべての玉が姿を消していた。
「異界の門が消えました。」
晴明が報告に現れると、公卿たちの席だけでなく、会場に集った人々全員が歓声を上げた。和泉式部は紅組メンバーだけでなく、多くの歌人たちに囲まれ祝福されている。
「紅組の逆転勝利です!もちろんMVPは和泉式部!!!!!」
いろんな説話が援用されていますよ。




