阿弖流為
おじいさんのありがた~い おはなし。
<アテルイ、ミツケタ>
山道を踏み分けて登って行った頼義一行は、山の中腹の少し開けたところに出ていた。
頼義の馬から下りた小式部は、座り込んでいる阿弖流為に近づいた。
「阿弖流為さ~ん。こんにちは」
<オマエダレ、ナンデ モレトイッショ。>
「私は小式部内侍よ。母禮さんが、ここまで案内してくれたの。」
<オマエイキテル。ナンデ ワタシワカル。>
「なんでだろう。私見える体質みたい。」
<ソウカ。オマエモ ワタシノチカラ ホシイノカ>
「力?ん~ん、そうね。私は悪い霊になってほしくないだけかな。」
<ワルイレイ?>
「田村麻呂さんの話聞いて、助けてあげたいって思ったの。」
<タムラマロ シッテルカ?ゲンキカ?>
「うん。清水寺で会ったよ。もうとっくに亡くなってるけど。」
<ソウカ。アノオトコハ イイヤツダッタ。>
「うん。阿弖流為さんたちを助けられなかったことを悔しがってたわ。」
「小式部さん。気を付けて。」
弓を手にした頼義が、周囲を見まわしながら、近づいてきた。
<コイツ ダレ?>
「この人は源頼義さん。私たちの味方よ。」
「阿弖流為さんはじめまして。」
頼義は、首にかけた八幡様のお守りを手に持った。
<オマエモ ワタシミエルノカ?>
「見えないけど、こうすると声が聞こえる。それよりなんか妙な気配がする。」
「来たわね。」
<アイツラキタ、オマエラニゲロ。>
見るとすでに、頼義が連れてきた家来たちは動きを止めていた。
<おや?若い娘と若武者、お前たちは動けるのか。>
小式部が声のした方をみると、高僧の姿をした霊が立っていた。
「あなたが、道鏡さん?帰ってよ。」
<誰かと思えば、噂の小式部内侍か。ふん、なかなか使えそうじゃ。>
道鏡は手に持った独鈷杵をかざすと、何かを唱え始めた。
小式部の体がぼうっと光り、頼義のお守りも光った。
<対策済みってことか。それなら、そこの家来たちを使えばよい。>
頼義が連れてきた家来たちが、一斉に刀を抜いて………、抜けない。
<お前は何者だ。>
「源頼信が長子、源頼義だ!」
<河内源氏か。嫌なやつらだ。仕方がない、阿弖流為!こいつらを憑き殺したら、故郷に帰れるぞ。>
阿弖流為は立ち上がったが、動こうとはしない。
「阿弖流為さん。信じちゃダメ。悪霊になるだけよ。」
「悪霊になって、故郷に祟るつもりか。」
<ワタシ、カエリタイダケ。>
「小式部さん、他にも何か近づいて来てる。」
<おや、皆さんこっちに来るようですね。阿弖流為、迎えが来たぞ。早くしろ。>
<エゾノミンナハ マモリタイ。>
<だから、藤原を滅ぼすんだ。>
「道鏡さんが、なんであの人たちに力を貸すの?」
<わが弓削氏のかたきじゃ。えーい、面倒だわしがやる。>
<道鏡よ。いい加減にしなさい!>
頼義の持っていたお守りが光を強め周囲はまぶしい光に包まれた。その光は邪悪なものをうち祓う光。
<お前は、まさか、また……。>
道鏡の姿は光に飲み込まれ消えて行った。
「八幡様!」
「武者の守り神ね。宇佐八幡様。」
<頼義よ。お前の一族は私を深く信じてくれておる。坂上田村麻呂も、平将門もみな私に帰依しておった。皆まっすぐな心の持ち主だ。私はお前たちの守り神である。>
「八幡様、はじめまして。私は、小式部内侍と申します。」
<話は聞いておる。天界でも人気でな。こちらに早く呼べと、皆がうるさいのだ。>
「え、私、若死にするんですか?」
<そうならんように働いているものもいるそうだがな。>
「あっ、それで業平様たちが、」
<さて、阿弖流為よ。意識はあるか。>
阿弖流為の方を見ると、その姿を保っている。阿弖流為も浄化の光を浴びたが、悪心だけが消えて行ったようであった。
<ハチマンサマ、タムラマロガ、マツッテタ カミサマ。>
<ああ、胆沢に八幡宮を建ててくれた。>
<タムラマロノ カミサマ シンジル。>
<そうか。それでは頼みがある。>
<デキルコト アルカ。>
<ああ、この頼義と、この後生まれる子を守ってほしい。>
<ワタシニデキルカ>
<頼義たちを守ることが、お前たちを故郷に帰すことになるだろう。>
この事件の後、頼義は壷井八幡宮を氏神とし、その長子は、石清水八幡宮で元服し、八幡太郎義家と名乗り、父とともに十二年の陸奥での戦役で活躍することになるが、これはこの後、数十年後の話。
阿弖流為は悪霊になることなく、陸奥の守り神として母禮とともに祀られることになった。
この話は後に続きます。




