道長邸温泉
おじいさんのありがた~い おはなし。
三船イベントの初日「漢籍の宴」では、唐代の名詩人 李白、杜甫の作品は各1句のみで、後は新進気鋭の白居易の作品中心という藤原公任の斬新な選択で、道真の孫、文時の作品も多く取り上げられた。それらの詩文を当代の美声を誇る若い僧、貴族たちによって披露された。
藤原定頼や藤原頼宗も詠み人の一人として選ばれていた。
「父上、私は歌人ですぞ。なぜこちらなのですか。」
「おまえの読経は、天にも通じるものだ。ならばここでその力を見せよ。」
定頼らの美声は、会場の周囲の怪異を一掃するような効果があったようだった。
会場が盛り上がっているころ、袴垂の操船で小式部内侍は淀川に入る所であった。
「道真さん、お見送りありがと。でも何で会場からこっちに来たの?」
「いやいや、孫の詩なぞ聞いておれんかったわい。」
「そうなんだ。でも文時様って評判高いよ。」
「まあ、子孫の中では優秀な方だが、45歳でやっと官吏に合格した遅咲きでな。」
「へえ~。でさ、頼義さんってどんな人かわかる。」
「源頼信の息子じゃな。あの一族はとんでもない大物が守護しておるからの安心じゃろ。」
「とんでもない大物って?」
「八幡様さ。じゃあわしはここで帰るぞい。」
「うん。ありがとね。」
船は順調に川を下り、河内の国、壷井の僧に着いた。そこには年若い少年が待っていた。
「よくいらっしゃいました。私が頼信が長男、源頼義です。父から話は聞いております。」
「私は小式部内侍といいます。椙山までよろしくね。」
「わたしもついていくように保昌様から命じられております。」
「ああ、そうか。頼義さん。こちらが盗賊の袴垂さん。」
「盗賊?」
頼義は刀に手をかけた。
「いやいや、今は足をあらって、藤原保昌様の家来をやってます。」
そんなわけで、三人は椙山を目指すこととなった。
その日の夕刻、頼光とその配下は道長邸の御座所に潜んでいた。
「貞兄、そろそろ来そうだから、隠れるだ。」
「わしはここでいいんだよな。」
「静かにしろ、赤子が起きる。」
部屋の陰に隠れる二人に梁の上から、季武が声をかける。そして、頼光側を見おろしたた時であった。部屋中に真っ白になるほどの蜘蛛の糸が降ってきた。
「来たぞ。綱、まだ動くな。」
頼光は綱が刀を抜こうとするのを止めた。そこで金時がわざとらしく、
「ああ、動けなくなっただ。」
「おお、これは動けませんな。温泉でもなおせませんね。」
貞光も騒いでいる。そこに蜘蛛丸と晴明を引き連れた老婆が入ってきた。
「晴明よ。よくやったのう。」
「蜘蛛丸殿の糸のおかげですよ。」
「いや、お主にできないことはなさそうじゃのう。これからも役に立ってもらうぞ。」
「いえいえ、玉はこちらです。」
晴明は部屋の中央に滝夜叉姫と蜘蛛丸を案内した。
「蜘蛛丸、あちらの方は大丈夫かのう。」
「まもなく、結界は壊れますから、このまま急ぎましょう。」
滝夜叉姫は中央の台座にある六個の玉に近づいた。
「まあ、ここに集めてくれて助かるわい。あの男もまあ使えるのう。」
「さあ、早く持って、転移しましょう。」
と、滝夜叉姫が玉を手に取ろうと手をのばした。握ると柔らかい……。
「ん?これは晴明!どういうことじゃ!」
晴明の手が印を結ぶと同時に、部屋中に貞光のお経が鳴り響いた。
滝夜叉姫と蜘蛛丸は動きを止め、部屋の外からは水が吹き出す音が聞こえてきた。
「いまだ!」
頼光と綱は蜘蛛丸に切りかかり、真っ二つに、妖術を唱え転移しようとする滝夜叉姫に、季武は赤子を発射して術を破壊し、金時が滝夜叉姫を捕えた。
「わたしが、この男に操れると思ったのですか。」
晴明は捕えられた滝夜叉姫の額に手を当てると呪を唱えた。すると、すーっと、滝夜叉姫の体から玉が現れ、滝夜叉姫はただの老婆となった。
「たしか五月姫じゃったな。もうよいであろう。」
屋敷の中に潜んでいた関白殿が現れた。
ほんのわずかの時間で、滝夜叉姫は捕縛された。
そして、そのころ、会場では結界を破壊しようとしていた斉信が、保昌に捕えられていた。
「武官ごときが、わしになんてことをするんだ。無礼であるぞ。」
「関白殿のご命令です。」
たまたま結界付近で、明日の篳篥の練習をしていた教通が、その騒ぎに気づいてやってきた。
「保昌殿、どうされたのですか……。あっ、斉信殿?」
「どうやら、操られていたようなのだ。」
「そうですか。それで……。ちょっと待ってください。」
教通は、持っていた篳篥を吹いた。その音色は清澄で、今の教通の成長を感じさせるものだった。
「うっ、私は何を……。いかん道鏡が!」
蜘蛛丸が殺されたこともあってか、斉信は我に返った。
「教通殿が、術を解きました。縄をほどきましょう。」
保昌が、縄をほどくと、斉信は教通の手を取った。
「これまで失礼じゃった。よくぞ、ここまでご立派になられた。」
三舟の宴一日目終了




