後始末
おじいさんのありがた~い おはなし。
その日、御堂関白は、四納言である源俊賢、藤原公任、藤原斉信、藤原行成と側近の源頼光、藤原保昌、それに安部晴明らを呼んで、土蜘蛛事件の後処理を話し合っていた。息子の摂政頼通が議事を進めた。
「今回の事件、何らかの意図があったと思うのだが、調べは進んでいるのか?」
調査に当たった保昌が、最後の小式部襲撃を報告すると
「父上、今日も行成が来ておりませんが、大丈夫でしょうか。」
本来、俊賢の上席に着くはずの行成がこの場に現れなかった。
「行成殿は、弘法大師にも比肩される書の達人、この度の襲撃にあったのでは?」
「いや、頼通よ。行成は恩がある俊賢の上座には決して座らんのだ。」
「念のため、手の者を向かわせましたが、異常はないようです。」
頼光が報告すると、黙って話を聞いていた斉信が発言した。
「関白殿、頼通殿、公任殿、頼光殿、紫式部、源博雅と晴明殿、まあ人選は悪くないのですが、なぜ、若輩の小式部内侍が襲われるのですか。教通殿や頼宗殿のように自分を大物に見せたかっただけなのではありませんか?」
無遠慮な発言に、関白殿も不機嫌に、頼通は顔を真っ赤にして
「愚弟らのやったことは、本当に恥ずかしいが、本当に小式部は?」
保昌が何か言おうとしたが、それを押しとどめて晴明が
「よろしいですか。」
「晴明殿、発言を認めよう。」
「小式部さんを襲った蜘蛛は、最初に頼光殿を襲った蜘蛛と変らない大きさでしたが、子蜘蛛を出しませんでした。土蜘蛛のオスだったと考えられます。」
「ふん、それで?」
「今回、土蜘蛛退治にかかわったのは、私、頼光殿と四天王、保昌殿と小式部さんです。」「しかし、かたき討ちだとしたら、保昌殿を狙うのではありませんか。」
俊賢は話の内容を理解してしまったようだった。
「俊賢殿は大事なことが分かっておらんな。保昌殿の弱点じゃよ。」
公任に言われた保昌は、きまり悪そうな顔をした。
「とりあえず、要人の警護はしっかり、頼みますね。」
頼通が話を締めくくった。
それまで、黙って話を聞いていた関白殿は一つ咳払いをして、
「今日は、皆に提案があってな。三船の宴を催そうと思うのじゃ。公任説明せよ。」
「はあ、名のある歌人、文人、演奏家、書家、画家を集めて、桂川で大イベントをやるのじゃ。」
「大文化祭ってことですね。」
俊賢はあっさり話の内容をまとめた。
「唐からのゲストも呼んで、それぞれの一位を決めるんじゃ。」
「父上、今の情勢では危険ではありませんか?」
「頼通殿、だからですよ。」
「手の者にも準備をさせております。」
と武官の保昌と頼光がいうと、晴明も
「あの辺りには異界への門があるらしくね。異界のものを一か所に集めて封印しますよ。」
「まあ、わしは楽しいライブが見られればいいのだがな。」
関白殿は紫のサイリュームを取り出した。
「それで、ライブやることになったのね。」
「酒呑童寺」からの帰り道、小式部は、保昌と晴明に挟まれて、都に戻っていた。
「でも『異界の門』って、もしかして?」
「ええ、あの場所です。」
晴明が答えると、保昌は、
「でもあれは、土蜘蛛とは関係ない気もするんだがね。」
「私の占いでは、七条河原なんですよ。」
「そこから、土蜘蛛とか異界のものが出入りしているってことね。」
「出入りの場所を特定して封印します。」
話をしている3人のはるか後方を、教通は定頼と歩いていた。
「定頼さん、私には修行が必要なんでしょうか。」
「教通どのは、関白殿や、頼通殿の補佐をするべきなのではありませんか。」
「父には四納言のみなさんがいますから、私の出番はありませんよ。」
「今はそうですが、頼通殿の代になった時に支えられるのは、あなたですよ。」
「私では力不足ですよ。」
「今のままでは、そうかもしれませんね。だから、自分を磨くんですよ。頭も心もね。」
「自分磨きですか。だからどうやって?」
「そうですね。一度父のもとに行ってみませんか。」
土蜘蛛事件は終わってない?