清水寺
おじいさんのありがた~い おはなし。
「鬼門を破壊していた奴をとらえました。」
保昌一行が清水寺へ向かうと、袴垂が一人の僧を捕えていた。
「それで、鬼門は?」
「かなり壊れてますけど、残ってはいますぜ。」
保昌が袴垂と周囲を警戒しているが、女性二人は怖がる様子もない。
「そうなんだ。早く本堂に行きましょ。」
小式部は、母の和泉式部とともに、楽しそうに清水の坂道を上っている。
「見えるのか?」
「だって、お寺の敷地自体が大きな結界よ。悪い霊は来ないよ。」
「田村麻呂様がお建てになったんですよ。悪い霊も怖がって、入ってこれませんわよ。」
「悪い心もなくなるって、ね!玄昉さん。」
「え?玄昉いるのか?」
「さっきからいっしょに登ってるわよ。」
「って、和泉にも見えてるのか?」
「ええ、貴船神社以来、いい霊は見えるわよ。ね、真備様。」
「あ?真備って、あの吉備真備か?」
「パパ、真備様は最初からついてきてくれてたわ。」
「そうなのか。それで?」
「玄昉さんと、唐にいたころの話で盛り上がってたわ。」
「玄昉って、藤原氏に恨みがあるんじゃないか?」
「それよりも許せないやつがいるんだって。」
「わたしもあの好色坊主嫌いよ。あんな親父の何が良かったのかしら。」
「好色坊主?」
「そうよ。私のことを好色って陰口叩く人いるけど、わたしのは純愛よ。」
「で、誰なんだ。」
「特にレベルの低い、男の歌人たちね。」
「そっちじゃなくって、好色坊主の方。」
「パパ、歴史に残る、好色坊主よ。」
「もしかして、道鏡?」
<あいつだけは、許さん。あんな奴と手を組むのはお断りだ。>
「パパ、玄昉さん怒ってるわよ。」
「なるほど、じゃあなんで本堂に向かってるんだ?」
「あなた、ここの主に会うに決まってますわよ。」
「ママ、その前に」
「そうね。田村麻呂様にご挨拶をしなきゃ。」
二人は坂上田村麻呂が祀られている開山堂に向かった。
「あっ、いたいた。」
<お前が、小式部と言うのだな。話は聞いておるぞ。>
「田村麻呂様、始めまして、私は和泉式部と申します。」
「私のママよ。」
<それで、何が聞きたいのかな。>
「阿弖流為さんのこと」
<その件か。あれは本当に最悪の出来事だった。奴らには本当に悪いことをした。>
「処刑したこと?」
<朝廷に帰順することで、食糧援助する約束で京まで連れて行ったのに>
「なんで、約束破ったの?」
<自分では血を流さない公家たちが、処刑しろって騒いだのさ。>
「なんで?」
<奴ら、戦いに勝ったしるしが欲しかったのさ。>
「しるし?」
<公家や寺社が自分たちの加持祈祷のおかげで、蝦夷を滅ぼしたってな。武官よりも褒美がもらえるんだ。首をさらせば、誰の目にもわかるだろ。>
「そんなことのために?」
<ああ、阿弖流為も母禮も気のいいやつらだったよ。蝦夷のみんなが凶作で食うものなくてな。助けてくれって帰順してきたんだ。最期まで故郷に帰りたいって言ってたよ。>
「かわいそう……。田村麻呂さんは将軍だったんでしょ。帝にお願いできなかったの?」
<もちろん、何度もしたさ。でもな奴らは、蝦夷は人じゃないから祟りはないって帝を説得したのさ。当時はもう帝も有力貴族の意見を無視できなかったのさ。あいつらの方が人でなしだよ。>
「そうだったんだ。それで…。」
<河内の椙山というところで処刑することになってな。首はさらされてな。胴と別の塚に埋めたよ。最期まで泣いてたよ。>
「ひどい話ね。じゃあ阿弖流為さんたちの霊は、まだ河内でさまよってるってこと?」
<たぶんな。故郷に帰してやりたいよなぁ。>
「ありがとう。じゃあ河内の椙山ってところを探してみるわ。」
<ああ、阿弖流為のこと聞いてきた悪霊たちがいるから、気を付けてな。>
「うん。じゃあまた解決したら来るわ。」
小式部と和泉式部は何とも言えない表情で、本堂へ向かった。
「これって、藤原とかの問題じゃないよね。」
「そうね。人は違う言葉や、習慣で人を差別するんでしょうね。」
「でも、これだったら、彼らから見たらヤマトの人たち、みんなかたきだよ。」
「そうなるわね。」
「だったら、ヤマトの人同士の争いに力を貸すかしら。」
二人は本堂の前の清水の舞台にたどり着いた。二人の後ろを保昌も考え深げに歩いていた。真備と玄昉はいつの間にかいなくなっていた。
本堂の観音様にお参りして、小式部は清水の舞台から谷を見下ろしていた。
「わあ、意外と高いわねぇ、ママ。ここから飛び降りようとする人がいるんだ。」
と、欄干から谷底を見下ろしている時であった。急に激しい風が吹き小式部の姿は谷底に消えて行った。
「ええっ、小式部!」
その姿を見た和泉式部は慌てて、本堂を振り返って
「観音様、お助け下さい!」
保昌は妖気に刀で切りつけたが、何かにかすった感触を残して妖気はなくなっていた。
ーあれ、誰か押した?ー
ー落ちてるわね。どうしよう。ー
ーもう、目が離せませんね。ー
ーまだ、私のところに来るのは早いですよ。ー
保昌と和泉式部は、小式部を探しに谷底まで急いで下りていった。
小式部は谷底の落ち葉が多く積もっている上に優しく抱きとめられているように倒れていた。
「ん、紅葉の葉がここに?」
「傷一つないようだ。おい、小式部!」
小式部はうっとりとした顔をして目を覚ました。
「業平様が抱きとめてくれたわ!」
清水寺の主は観音様




