土蜘蛛再び
おじいさんのありがた~い おはなし。
貞光と別れた頼光一行は、鬼怒川を下り、半日ほどで下総相馬郡にたどり着いた。
「あの丘にある砦っぽいどころが怪しいだ。」
舟の中で周りを見ていた金時が、野生の勘を働かせた。教通は怪訝な表情をして
「なぜ、わかるんですか?」
「さあ、なんでかな。金太の勘は当たってると赤子も言っておる。」
見ると、季武の背中には何人もの赤子がしがみついている。
「で、季武さん。その赤子は?」
「さあな。川を進むうちに増えておった。」
「この辺りで、舟を降りるぞ。」
頼光が声をかけたので、舟を動かしていた綱が、舟を岸に寄せた。
「私は、ここで待っていたらいいのですか。」
教通は護身の符を取り出して、ここで一人で待つ覚悟を決めたようであった。
「何言うだ。いっしょにいないと危ないぞ。」
「その腰の守り刀で、切れ!」
「いや、これは……、笛です。」
「笛?」
「公任殿と晴明が持って行けと……。あっ。」
守り刀を入れる袋の中には、一本の篳篥が…。
ー悪心や魔を祓うのは、篳篥が一番じゃ。ー
教通は公任の言葉を思い出していた。でもあの廃寺の悪霊や鬼婆にどうやって使えばよかったんだろう。……ん、袋の底に何か入っている。
守り刀の袋の底には、折りたたんだ紙が入っていた。
ー篳篥で祓えなくても、止めることはできるでしょう。これを頼光殿に渡しなさい。ー
手紙には、2枚の護符が挟まっていた。
「頼光殿、晴明がこれを渡すようにと書いています。」
「おおこれは!助かるな。」
「これは何の護符なんですか?」
「土蜘蛛騒動のときにな。相手が見えなくて苦労したのでな。」
「魔物が見えるのですか?」
「ああ、もらっていた分は、武蔵で使い果たして、不安だったんだ。」
「それなら、安心ですね。じゃあ私はここで、」
「何を言っているんですか。護身の符持ってるんですよね。行きますよ。」
「つべこべ言うと切る。」
頼光から一枚の護符を渡された綱が、教通の背中を押した。
相馬の城に近づくと、綱が刀を振り回し始めた。
「見えるぞ、見えるぞ、切る!切る!切る!」
当たりの森は、蜘蛛の巣だらけだった。
「やはり怪しいな。しかし、ここには土蜘蛛もいるのか?」
「土蜘蛛って、本当にいたんですね。」
教通にも蜘蛛の巣が見えていた。護身の符の力で、遠江で悪霊の声や姿が見えたんだということに教通は気づいた。戻ったら晴明に礼をしなければ……。
しばらく山道を登ると、一行は砦の門の前にたどり着いた。
「門が少し空いてる。閂がかかってないだ。」
「誘ってるな。切る!」
「金太、季武、門をあけよ。綱、開いたら行くぞ。」
「私は?」
「教通殿は、門の影にいてください。」
「せーの」で、門を開けると中には、大小さまざまな無数の蜘蛛が待ち構えていた。
「綱、金太 前に出るぞ。季武は教通殿を守りつつ、大きい奴を狙え!」
「おー」と、頼光を先頭に金時と綱が飛び出した。
頼光が名刀「蜘蛛切り」、綱が名刀「鬼切丸」で次々と近づく蜘蛛を切り回る中、見えていないはずの金時も、鉞を振り回し、何匹もまとめて切り飛ばしている。
「金時殿の分の護符はなかったはずですが……。」
「あいつは、特別な勘があるんだな。」
教通に答えながら、季武は次々と赤子を弓につがえては、爆速で大蜘蛛を射止めていた。「あの、その赤子って?」
「それは秘密だ。」
「そうですか。って、わああああ。」
背後の森からも続々と大小の蜘蛛が、門に向かって集まって来ている。
「うむ。いかんな。囲まれる。」
季武は背後の斜面に向かって、赤子を発射すると大声を上げた。
「頭、このままだと囲まれる。金太!手を貸せ門を閉めるぞ。」
門の中の蜘蛛はだいぶ数を減らしていたが、門外の蜘蛛が合わさると、完全に囲まれてしまう。金時が手を貸して、季武は門を閉めた。
「ちょっと、待ってくださいよ。」
門の影にいた教通は一人、門の外に取り残されてしまった。自分がいる門に向かって大小の蜘蛛が集まってくる。
「これは困った。」
ー悪心や魔を祓うのは、篳篥が一番じゃ。ー
そうだ、篳篥!教通は腰の篳篥を取り出し、吹き始めた。
しかし、蜘蛛たちは、相変わらず近づいて来ている。
ー よいか。心を澄まして、無心で奏でるんじゃ。じゃ、じゃ、じゃ……。ー
心の中の公任の言葉を受けて、教通は一心に篳篥を奏でた。
すると、大小の蜘蛛たちは動きを止め、更に小型の蜘蛛から次々に消滅し始めた。
残ったのは、大きな蜘蛛が数匹。
ーこんな蜘蛛に小式部ちゃんは襲われたんだ。それなのに、私は……。小式部さんごめんなさい。ー
教通の吹く篳篥が、明るく光った。そしてその音色に神々しさが加わり……。残った大蜘蛛は次々と消えて行った。
教通覚醒




