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安達ケ原

おじいさんのありがた~い おはなし。

 さて、武蔵に使いに行くことになった教通は、三日三晩馬を走らせ続けた。途中、各国の国府を回って馬を乗り継ぐのに、藤原摂関家の子息という威光は大変役立った。

 しかし、遠江から駿河までの長い野の道で日が暮れかかり、とうとう野宿することになってしまった。  国司が付けてくれた二人の護衛も帰り、供の者一人が今夜の宿となりそうなところを探しに出ていた。教通は晴明に渡された3枚の護身の符を握りしめて

「もっともらっておくべきだったな。小式部ちゃん怖いよ。わっ!」

 そこに現れたのは、宿となる所を探しに出ていた供の男だった。

「この辺りには人は住んでませんぜ。ただ少し先に人が住んでいない古い寺がありました。今夜はそこに泊まりましょう。」

 そこで、教通はその廃屋となった寺で一夜を過ごすことにした。


 教通が廃寺の本堂に入ると、中は蜘蛛の巣だらけで荒れ果てており、あまりも気味が悪かったので、旅装も解かず、国府に立ち寄るたびに渡されたお土産の品を傍らに置いて、護身の符を1枚使うことにした。そしてそのまま眠ってしまった。

しかし、真夜中になって、話し声がするので目が覚めた。

「父上、こんなところに呼び出すなんて失礼ではないですか。」

「入鹿よ。奴らの目の届かぬ場所じゃ。仕方がない。」

「おや、あなた様は蝦夷様では、私、伴善男と申します。」

「応天門ではひどい目にあったそうじゃな。」

「うまくはめられましたよ。」

ーん、入鹿に蝦夷、伴善男? 昔の人だな。なんで?ー

「源信殿も来るとのことでした。道真公は神となっているためこれません。」

「うむ。まあ恨みを持っている者は多いだろうからな。続々集まるだろうよ。」

ー恨みって、もしかして……。ー

「父上、しかし将門は来るのでしょうか。あの娘、今一つ信用なりません。」

「結界が解ければ来るだろうよ。もう一つの方が心配だよ。」

「それは玄昉(げんぼう)殿が仕込んでいます。真備(まきび)が参加してくれるとよいのですが。」

「今、都で評判の陰陽師対策か。」

「真備殿なら十分対抗できますが、最近、道真公と一緒になって、人間の小娘にはまっておりまして。」

「小娘?」

「あの土蜘蛛を祓った娘か?」

「ええ、そう聞いております。道真公が手を貸したようですが。」

ーん、小娘って、小式部ちゃん? ー

「まあ、清水の結界が解けたら、さっさと始末してもらおう。」 

ーわぁ、大変だ!ー

 慌てて、教通は立ち上がって、逃げ出そうとしたが、自分が置いていたお土産の山につまづいて、大きな音を立ててしまった。

「おや、何かいるようですね。」

 物音に気付いた亡霊が近づいてくる。教通は近くで物音を立てないようにじっとしていた。

「こんなところに荷物の山が、おお『うなぎパイ』『ういろう』『赤福』…。」

「ここから、都までのお土産ですね。『生八つ橋』で終点ですか。」

「わしらへのお供えじゃろ。いただいておこう。」

「おや、こんなところに変な布がありますね。」

「おい、このマークは?」

「こんなところまで藤原か。縁起でもない、誰かに捨てさせろ。」

 護身の符の力で教通の姿は見えなかったようだが、藤原家の家紋には反応したようであった。伴善男の悪霊は、一匹の鬼を呼ぶと、教通を外に捨てさせた。

 

 外に捨てられた教通は夜が明けるのを、じっと震えながら待った。

 夜が明けると、周りはただの草っ原で、いたはずの廃寺もなくなっていた。おーい!と声を出しても返事もない。外にいたはずの供もどこかへ行ったようだった。しかたなく、人が通った跡がある野の道をたどって歩いていくと、もう日も暮れかかってきた。

「腹減ったなあ、疲れたなあ、もう歩くの嫌だ。」

と、見ると道の先に灯りが見える。近づいていくと古ぼけた小屋のような家があった。

 戸を叩くと、中から一人の老婆が現れた。

「見たところ、立派な方のようじゃが、こんなところまで何の用だい。」

「道に迷いまして、今夜一夜の宿をお借りしたいのですが……。」

「ほう、そうかい。まあ中に入りな。」

 老婆は教通を家に上げると、温かい汁を出してくれた。中には何かわからない肉のようなものも入っていたが、教通は礼を言ってさっさと寝ることにした。

「隣の部屋に私はいますが、決して入ってきてはいけませんよ。」

 いくらなんでも老婆を襲う趣味はない教通は笑って

「母より年上の人には興味ありませんよ。」

といった。


 真夜中に物音がして、教通が目を覚ますと、老婆のいるはずの部屋から、シュー、シューという音がする。そして、障子に映る影を見ると……。鬼?

 そこで、こっそりと障子の破れから覗くと、そこには吊り下げられた女の死体と、鎌を研ぐ角の生えた老婆の姿が……。

「わっ!」と思わず声を出した教通に、老婆は気づくと、

「見たな!」

「ギャー」

と、教通は脱いでいた旅装を小脇に抱えたまま外に逃げ出した。方角もわからないまま駆け続けて、草むらに隠れて様子を見ると、近づいてくる様子はないので、急いで服を着た。

 まだ、夜明けまで時間があるので月あかりを頼りにすこしでも離れようと歩いて、それから、疲れて道端に座り込んでいた。


ようやく空が白んだ頃、向こうから馬が走る音が聞こえてきた。見ると馬に乗った男たちがやってくる。

「すみません。ここから街道に出るにはどう行ったらよいのですか。」

「街道?ここは道の奥だよ。街道なんて白河に出るまでないよ。」

「道の奥?白河? ここどこですか?」

「ここは、ほれあそこに見える山が安達太良山だよ。この辺は安達ケ原っていうな。」

「安達太良山?まさか岩代ですか?」

「そういったな。ここからずっと東に進むと二本松、そこから白河まで半日かな。」

「えっ、そんな……。」

 そこで、教通は自分の身分と、起こったことを男たちに話した。

「ふん、不思議なこともありますね。確かに高貴な方のようですね。これから、国府に向かうところです。いっしょに参りましょう。」

 教通は、男たちの馬に同乗して、国府までたどり着いた。そこには藤原氏筋の国司がいたため、スムーズに話が進み、教通は武蔵に向かって白河の関を無事通ることができた。 結果的に数日予定より到着が早くなったようだった。 


百鬼夜行+安達ケ原の鬼婆でした。

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