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喰界 -咆哮する遺骸の記憶-  作者: mutusimo
第1章 変異
2/14

魔法を使えない支援兵

毎日投稿です!

温かい目で見守ってください。。。

 戦場は、五感を濁らせる。


 耳に響くのは金属と咆哮の交錯。鼻を刺すのは焼けた血と焦げた骨の匂い。空は重く、灰色の雲の下で、今日も人は命を削っていた。


「――北東第五戦線、峡谷ラインに魔力反応、急増中。数値……通常時の1.9倍を記録。モンスターの波状攻撃、来ます」


 私、ノア・シュミットは、支援部隊の一員として前線後方に展開された陣地で、術式地図を睨んでいた。


 このラインが崩れれば、中央基地が側面から突かれる。既に防衛拠点のうち二箇所は落とされた。残る支部は四つ。中央を含めて、かろうじて六角形の陣を保っている。――**今だけは**、まだ。


 私の手元には、魔力術式を埋め込んだ手書きの古い地図がある。地図を中心として、敵味方の魔力反応だけが光の点となって示される。地形が崩れたり、戦場を移動すれば、地図はすぐ無効になり、度重なる戦闘により何度も描き直されてぼろぼろになっていた。


 修復する技術は失われた。風化した端末に記録された術式すら、もはや再現できない。旧時代の遺物を動かせる者などいないのだ。


「第四戦線、左斜面の陣が膨張しています。地形変化注意、後退を。」


 私の言葉に、前線の魔術士が短く応答する。誰も余計な言葉は使わない。感情は、命を削るから。


 魔法を使う者たちは、魔力を酷使しすぎると血を吐く。魔法の威力に耐え切れず、指が千切れ、閃光により目が潰れる。だが、それでも“撃つ”。この世界は、そうしなければ生きられないから。


 私は魔力を持っている。数値は平均以上。だが、発動だけができない。


 呪文を唱えても、0から構築しても、術式に魔力を通すことすらできない。


 なぜかは分からない。誰も教えてくれない。ただ、“使えない”。それが私の全てだ。


「ノア、魔力供給ライン、切れてるぞ」


「……今、繋ぎ直します。三秒ください」


 地図の上に指を滑らせる。新たな供給ラインを組む。陣地から味方の光点へと線をなぞりながら、魔力の流れを手動で再構築する。

 魔力供給の術式は地図に付与されている。モンスターから取れる魔核を接続し、魔力の無い者でも術式行使できるように組まれている。


 本来、自分自身の持つ魔力によって魔法は行使される。ただ、今回のような防衛線になるとそれだけでは足りない。陣地にある魔核から地図を通し、魔力が供給される仕組みとなっている。


 だから、魔力供給に失敗すれば、仲間が死ぬ。私の目の前で、仲間が何人も倒れてきた。


 前線の向こうでは、黒いモンスターたちが蠢いている。牙を剥き、咆哮をあげる。ただただ喰らうだけの、喰界の住人たち。


「供給ライン、再接続完了。次の一撃、撃てます。」


「了解。ノア、助かる。」


 感情のこもらない短い言葉。それでも、私は少しだけ救われた。


 支援部隊の私に、誰も期待はしていない。だが、“ここにいる”ことで守れる命があるなら、それでいい。


 ふと、積まれた資材の中に紛れていた金属片に目が止まった。旧時代の部品。ほとんど風化し、原型も定かでないそれが、ほんの一瞬、光ったように見えた。


 「……」


 気のせいだ。動くはずがない。整備技術も術式構文も、誰も残していない。私には、触る資格もない。


 ただ、なぜか、その光に、僅かな“意志”のようなものを感じた。


 戦場は続いていた。


 今日もまた、誰かが喰われる前に、誰かが生き延びなければならない。

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