ヒャッカの”非”主人について
書いたり書かれたりしました。富良原清美です。
パッと思いついて書いたので短いです。でも読みやすいと思います。首絞める表現だけあるので注意です。
ヒャッカには”非”主人様がいる。名前はない。へりくだってはいけない。主人と呼んではいけない。
ぬるい風が吹く夜。周りには人も、獣の気配すらも無い。今宵もヒャッカは塔へ入る。扉はなく、灯りのない入り口がぽっかりと口を開けている。毎朝、毎晩、鐘が八つ鳴る時に、ヒャッカは食料をもって塔を登る。十八年繰り返している。ヒャッカは今年、二十三歳になる。
その塔は「四〇四号塔」と呼ばれている。ご主人様が四〇四番目に作ったからだとか、古ぼけたらせん階段が四〇四段あるからだとか、命名時に築四〇四日目だったからだとか、とにかく由来が多い。どれが正しいかをヒャッカは知らない。ただ、階段が四〇四段も無いのは明らかだと思われる。
四〇四号塔は清掃されない。掃除担当が任命されていないからだ。老いに身を委ね、年々風化していく石造りの塔は今や苔むし、ボロボロで、蜘蛛の巣が張っていた。階段こそいまだにしっかりとはしているものの、年相応にがたいが良い男を前にすると何とも心許なかった。
しかし、ヒャッカは何でも無いというように階段を上る。白いシャツに留められたタイ、皺一つ無いパンツ、ぴっちりと整えられ、結わえられた長い黒髪。まるで執事のようなたたずまいは、どれをとっても廃墟同然の塔に似つかわしくなかった。実際、その服は「二号館ディナーパーティー」の際に、街でオーダーメイドしたフロックコートと合わせて着る正装用のスーツであり、できることならヒャッカも日常使いしたいものではなかった。しかし、彼はそれしか服を持っていなかったし、「ご主人様との様々な兼ね合い」もあることだし、着ざるを得ないというのが率直なところだった。
塔の内部をぐるりと這うらせん階段は、実際の高さと比べて長く、目が回るような錯覚を覚える。時々側面に小さな穴が空いていて、月光がやけに明るく飛び込んで内部を照らしていた。ヒャッカは上にも下にも目線を泳がすことなく、ただ目の前の階段だけを見て、無表情で登っていた。両手には銀の盆をしっかりと持ち、一食分のパンとスープ、沢山の蝋燭を載せていた。スープはマグカップのように、縦に長い木製の容器に九割も注がれていた。劣化が進み、つるつると角が取れた階段を登るのにこれ以上不都合なものがあろうかという内容だったが、そこは彼の十八年がものを言う。盆に載った一切はほとんど揺れ動くことなく、むしろ凪いだ銀の砂漠にすら見えた。
初見であればほぼ何も見えない暗さの塔を半分ほど、全く足を止めることなく登っていたヒャッカは、ある一段でトントンと踏み場を確かめ、先ほどまでの倍くらい丁寧に次の段を踏みしめる。七年前にここで転んで、人生で一番のケガを負って以降、彼のクセとして定着している動きだった。彼は欠けた階段を軽く確かめて、安心したようにまた階段を上り始める。
こぉん
遠くから鐘の音が響いた。「儀式の教会」として親しまれている教会の、神聖な鐘の音だ。軽やかで澄んだこの鐘の音が、近くで見てみればあの荘厳な金属の塊から出ているなんて、この辺りの人間でなければ信じがたいだろう。
ヒャッカは階段を十段昇る。鐘が鳴ってから十段、それで二回目の鐘が鳴る。
こぉん
また十段昇る。三回目が聞こえる。十八年のルーティンワークは、ヒャッカの体内時計を、体の動きを、まるで機械のように正確に仕立て上げていた。
こぉん ぱちん
十段昇ると四回目が聞こえる。と、同時に、乾いた拍手が一回聞こえる。聞こえると言っても、それはもちろんヒャッカの耳が慣れているからだ。澄んだ鐘の音に混じって、塔の上部から微かに手の叩く音が聞こえる。ここまで来ると月光を手招いていた小窓は封鎖され、その窪んだ小さなスペースに、消えかかった蝋燭が置いてあった。メッキが剥がれたキャンドルスタンドは掃除されておらずベタベタで、ヒャッカがちょうどその真横に立ったとき、わずか数ミリで頑張っていた蝋燭の火が消えた。もちろんこれも彼の計算通りであった。ヒャッカは新しい蝋燭をスタンドに立てた。火は点けなかった。降りるときに点けるのだ。
こぉん ぱちん
五回目の鐘が鳴った。耳が良い人であれば、そろそろ澄んだ鐘の音に混じって手を叩く音が聞こえるかもしれない。ヒャッカは五段昇って、次の窪みに新しい蝋燭を設置した。おもむろに、彼の整った小さな鼻に光が当たった。月光ではない。もっと心休まるような、部屋の灯りの色だった。しかし、やはり彼は気にも留めず、さっきまでの作業を機械的にこなしていた。灯りの出所は、もう彼が塔のてっぺん付近に来ていることを示していた。少し上を見上げれば、塔をぐるりと這うらせん階段があと一周もしない内に途切れ、蜘蛛の巣だらけの尖った天井があるばかりだと分かるだろう。それはそれとして、彼が見上げるという不必要な動作を行うことはないのだが。少なくとも、ここ十年は。
こぉん ぱちん
六回目の鐘が鳴った。ヒャッカは五段昇って、次の窪みに新しい蝋燭を設置した。もう、誰かが上方で手を叩いていることは明らかだった。それだけでなく、塔のてっぺんに重厚な扉があり、磨りガラスから部屋の光が漏れ出ているのが見えた。その扉は装飾らしい装飾もない暗い色のチーク材で、特にドアノブ付近が垢まみれで、端には虫が這っていた。チカチカと部屋の奥の光が瞬き、衣擦れの音が聞こえる。銀の盆にその光が当たって、鋭く反射した。さながら、水面に反射した月のようだった。
こぉん ぱちん
七回目の鐘が鳴った。ヒャッカは三段昇って、扉の前に立った。扉の両側に一本ずつ、消えかけの蝋燭が置かれていて、彼が正面に立ったと同時に燃え尽きた。彼は盆に載っている蝋燭の二本を右手で持ち、器用に片手でキャンドルスタンドに立てた。
ヒャッカは空いた右手を腰に持って行き、それから全く無駄のない動作で扉に手をかける。見れば、手には古びた鍵が一つ、腰のチェーンからつながって鍵穴に差し込まれていた。カチャ、と小さな解錠音が響く。鍵を腰に戻したヒャッカは、そのまま扉を脚で押し開けた。ノックもしない、「失礼いたします」も無い。執事のような見た目らしからぬ、急で乱暴な動作だった。扉が開き、磨りガラス越しでない直接的な光が彼を温かく照らす。と、同時に、
ぱちんっ
ヒャッカの鼻先三十センチメートルで、彼女の両手が音を立てた。細い指がピンと伸びていて、彼の顔に突き立てんばかりに真っ直ぐ突き出されていた。こぉん、と八回目の鐘が鳴った。
「こんばんは。夕食のお時間です」
ヒャッカは顔色一つ変えずその場に立って、ただ事務的にそう言った。パチパチと今更瞬きをしているのは驚いたとかその類いではなく、単に暗いところから急に明るいところに出たため瞳孔が収縮したからだった。
「あらどうも」
澄んだ少女の声がそう返した。今、彼の目の前で手を叩いたその人が彼女だった。
少女の声はよく澄んでいた。先ほどの鐘と比べたって比較にならないほど透き通っていた。かすれているとか、声が小さいとかそういうものではない。ただ、聞く人の耳に空気よりも自然に入り込み、水で撫でるよりもなめらかに鼓膜を震わす、そんな声だった。そんな声に違わず、少女の肌は鈴蘭のように白く、体は茎のように細かった。その細い体を枯れた枝より細いつま先で支えて、少女はヒャッカに向かって手を叩いていたのだった。
少女の発言から変な間が生まれ、それから彼女は姿勢を戻した。彼女は裸足だった。服は素朴な、ワンピースタイプの寝間着のように見えて、首からくるぶしまでしっかりと肌を覆っていた。スカートの裾に、植物の繊維で作られた茶色いフリルがあしらわれており、動きに合わせてひらっと揺れるそれが唯一の飾りだった。寝間着は全体的にくすんだ白色で、真っ白な肌の色にはっきり言って見劣りしていた。もっと言えば、あまり似合っていなかった。素材は不明だが、シルクではなさそうだった。つやが無かった。しかし、清潔感はあった。
「置いて」
少女は端的に命令した。目線をヒャッカから全く逸らさずに言った。しかし、ヒャッカにはそれが何を意味するかはわかりきっていることだった。彼はまず扉を閉め、それから盆を入り口近くの丸テーブルに置いた。扉と同じ素材で、しかしニスが塗られていない丸テーブルは小さく、盆を置くためだけに特注されたかのようにぴったりとしていた。そばにはセットの椅子があり、背もたれと座面に薄紫色のクッションが敷かれていた。
ここが古びた塔のてっぺんであることを忘れてしまえば、この部屋は特段代わり映えのない、いわゆる「少女の部屋」のように見えた。部屋には蝋燭がいくつもあり、暗さは感じなかった。いくつかは暖色系の色ガラスで装飾されたランタンの中に入っていた。ランタンは手作りのように見えたし、実際そうだった。小さな部屋の床や壁は、年期こそ感じるものの、清潔と言って差し支えなかった。少女が毎日手入れをしているためだ。ヒャッカは見たことがなかったが、昼に鐘が十回鳴ったら掃除を始めて、十一回鳴るまでに終わらせるのが日課らしい。
少女は二歩下がって、ストンとベッドに腰掛けた。少女には不釣り合いな、大きなベッドだった。どのくらい大きいのかというと、ご主人様と同じサイズのベッドだった。長い黒髪の先がシーツに当たって広がった。髪もシーツも、同じようにてらてらと光っていた。高級そうだったし、実際そうだった。天蓋までついていた。
「早く食べたいわ」
少女は囁くように言った。
「ヒャッカが盆に一滴も零さず持ってこられるようになってからどのくらい経ったのかしらね」
「さぁ……。五年は経っていると思いたいですが」
「分からないのね」
少女の細い眉が下がった。
「あなたが分からないのなら、もうしょうが無いわね。私には十年にも思えるし、一年にも思える」
少女は食べ物に一瞥もくれなかった。
「どのくらい経ったのかと言えば、あなた様はいつから私に向かって手を叩くようになったのですかね」
「あら、これは趣味よ」
少女はぺたりと手をくっつけて言った。蝋燭の柔らかい光に当たってもなお真っ白く輝く肌であったが、何度も手を叩いていたためであろうか、指先だけはほんのり血が通っている色をしていた。
「ヒトの趣味を馬鹿にして?」
「まさか」
ヒャッカは少女に歩み寄り、そのままベッドに腰掛けた。横に並ぶと、五も十も年が離れていそうであったが、実際は二、三年だった。
「ここは玩具が少ないから良くないのよ」
少女は右手の人差し指で、左手の皺をなぞった。
「八つの鐘が鳴るでしょう。七つとか、九つの鐘の時はこんなことしないのよ……。あぁ、でも安息日の『儀式の鐘』でもやるわね、最近は」
上から下まで撫でて、それから親指で手のひらをさすった。彼女は、まるで手懐けた小動物を愛撫するような、柔らかな笑みを浮かべていた。
「カウントダウンよ。八から数えるの。鐘に合わせて、ヒャッカの足音に合わせて、月の動きに合わせて……。もちろん、『儀式の鐘』は安息日にしか鳴らないけれどね。でも、静けさに合わせて七回数えれば、次の日にはぴったり合うのよ。当然よね」
「私には当然ではありません」
ヒャッカは膝の上で両手を組んで答えた。
「せいぜい鐘の四回目くらいですかね、あなた様の手を叩く音が聞こえるのは」
「それが普通のことなの?」
「さあ。比べたことがありませんから」
「ふぅん。でもそれがきっと普通なんでしょうね」
口角を上げた彼女の口元に、えくぼが見られた。
「ちゃんとカウントダウンに意味を見いださなくては。そうすれば遊戯になるんだって知ってる?例えばね、一回目は始まりの合図」
彼女は指折り数え始めた。
「二回目は終わりに向かっていく合図。でもまだ先は長いの。そうして暇していると三回目が来る。止まらない宿命を笑うように、四回目が来る。それから、私の肩を叩いて五回目が、六回目が七回目がそして-」
ぱちんっ
「-お終い。」
彼女は再び、ヒャッカの目の前で手を叩いた。今度は目の前五センチメートルまで来ていた。軽く気を抜いていたヒャッカは、今度こそ淡い驚きのために目をぱちくりさせた。
「楽しいわね?」
「……」
彼女は微笑んでいた。奇妙な間が二人の間に生まれた。無音の時間が続いて、手を叩いた音がずっと反響しているような幻聴さえ聞こえるようだった。扉も、格子付きの窓もぴったりと閉じられていて、月光すら入ってこなかった。
「……はぁ」
ヒャッカはため息をついた。あからさまな誤魔化しの、話題替えの為のため息だった。もちろんこの場合に、ヒャッカに何かを求めるのは酷というものだった。彼は否定も肯定もできる立場にいなかった。それはご主人様の希望に背くことになるからだ。
「早いところ『練習』して、食事を取りましょうか」
「はぁい」
彼女は微笑みを崩さず、そのまま仰向けに倒れて寝そべった。シルクのシーツが彼女を柔らかく包み込み、少し皺を寄せた。真っ白なシーツだった。限りなく彼女の肌と似た色をしているため、そんなところに彼女が寝転べば、まるで雪の中に溶けて消えてしまいそうに見えた。
彼女はためらいなく首筋のボタンに手をかけ、外した。一つ、二つ、三つ目、つまり鎖骨の辺りまでボタンを開けた。
「はい」
彼女はせき立てるように言った。もちろん、ヒャッカはこれが何を意味するかわかりきっていた。ベッドに腰掛けたままのヒャッカは手を伸ばして柔らかい枕を手に取り、丁寧に彼女の頭を持ち上げてベッドとの隙間に滑り込ませた。彼女が枕の位置に十分満足したことを確認し、彼は開いたボタンに手をかけた。手早く鎖骨の位置までワンピースをはだけさせると、
赤黒い彼女の首筋が浮かび上がった。
そのどす黒い、うっ血した首の色は、白い肌にも、シルクのシーツにも、素朴なワンピースにも、「普通の少女の部屋」にも似つかわしくない異質さを放っていた。首元ほぼ全体がそんな色をしていて、所々に古いひっかき傷や、老婆のように黒く、皺になった箇所も見られた。
「ね。今夜、教えてくれる約束よ」
無抵抗に体を投げ出したままの少女は、少し目を細めてそう言った。彼女は、全てにおいて疑問を抱いていないという素振りだった。まるで当たり前の行動だった。その目は真っ直ぐにヒャッカの目を捉えていた。
「行くあては、決まったの」
ヒャッカは何も言わず、スッと両手を伸ばし、
「んっ」
彼女の首を絞めた。ベッド際に座ったままのヒャッカによって、白雪姫の少女の気管はグッと絞まる。まだまだ不十分だというように、彼は左足で少女を跨ぎ、馬乗りになる。汚れを気にして、靴はベッドに付けない。しかし、男の体重を全て乗せて、細い少女が呼吸をする術を確実に奪う。
「っく」
少女の表情はほぼ変わらない。いや、ヒャッカでなければ、普段さえ硬い表情筋がことさら硬くなったことに気づかない。
少し目を細めて、軽く口を開けて、上がった口角からえくぼをのぞかせる。か、とか、え、とか、くっくっ、とか、残りの息が漏れる音が喉から鳴る。彼女は一年目のうちから、この音が漏れるのを嫌がって抑えようと必死だった。実際、なんの前触れもなしに首を絞められている立場としては、かなり静かな方だと思われた。
「……う〜〜っ」
その苦しそうな呻きに、ヒャッカははっとした。基本的に少女は呻かない。最後に呻いたのが何時だったか覚えていないほどだ。驚いた拍子に一瞬だけ手が緩み、もう一度、さっきよりもきつく首を締め上げる。『練習』の途中で手を弛めてはいけない。ヒャッカは戸惑いながらも、その戸惑いが行動に現れてしまったことを反省した。彼女はえずいた。
真っ白な彼女の顔に血が通わず、段々と暗くなる。ヒャッカはまたもや驚いた。目が、いつもと違っていた。彼はいぶかしげに彼女を観察した。
彼女がこちらをただ凝視してくるのは知っていた。段々と目が細くなり、投げ出されたしなやかな手足が強ばっていき、二人はただ『練習』の結末に身を任せる。しかし、今日の目は確実に何か違った。目を細め、薄く涙を滲ませているのはいつもの事なのだが、その奥だ。その奥が爛々としていた。黒目のその光が、好奇心を秘めた幼子のようですらあった。
(問うている)
ヒャッカは直感した。彼は少女について誰よりも知っているという揺るぎない自負があった。少女はヒャッカしか知らない。今、自分の首を絞めている男しか知らない。故の宿命的な信頼を一身に預かり、潰れないだけの自負が、ヒャッカにはあった。
「ぅあっく、うぅ」
少女はもう一度唸った。ヒャッカは、己の直感が正しいことを自覚した。
(やはり、問うている)
彼女は焦っていた。焦りと好奇をごちゃ混ぜにした目の奥がどんどん暗く濁っていく。腕をなんとかこちらに伸ばそうと力なくもがいてすらいる。ヒャッカは劣情を覚えた。まるで彼女の「ごちゃ混ぜ」を無理矢理喉に突っ込まれて、体内が棘だらけになってしまうような、ひどいフラストレーションだった。
「あぁっ!」
遂にヒャッカは応えてしまった。腹から出た声に応じて更に首が絞まり、少女からカエルの断末魔のようなか細い悲鳴が漏れた。
「行く宛てですか、決まりましたよっ!東の貧乏国家で、貴族の婆さんが死ぬまで置いていただけるとッ!」
言ってから、彼は自分の声があまりに腹立たしそうなことに、今夜一番驚愕した。ハッとして少女の瞳を見ると、黒目に彼自身の目が映った気がした。その目があまりに大きく、吸い込まれそうで、なんて必死なのだろうと他人事のように一瞬呆けて、彼は目をそらした。
「……あ゛」
もう寸分手を動かす力も残っていないはずの少女が、かすれた声を上げた。ヒャッカの声だって聞こえているか分からない状態のはずなのに、なぜかえくぼがくっきり浮き出て見えた。
「はぁ……」
それは、ため息だった。諦めとも、悲しみともつかない、そもそもただ今際の際に声が漏れてしまっただけかもしれない。しかし、彼女のえくぼのせいで、ヒャッカには安心しきったため息のように錯覚されてしまう。彼女はぶるりと痙攣し、大きく目を見開いた。目の奥が完全に濁りきったその顔に、諦念が滲んだ。しかしそれも一瞬のこと。黒目がぐりんと上を向き、少女の意識は完全に途切れた。
ヒャッカはぱっと手を離した。どす黒い少女の首筋は相も変わらずグロテスクで、締め上げたばかりのため、さらに紫色が濃くなっていた。彼は馬乗りの姿勢をやめて、ベッド際に腰掛けると、すぐさま両手で少女の顎を持ち上げ、気道を大きく確保した。念のため手首の脈を測ると、冷たいながらもわずかに動いていることが確認できた。ヒャッカは彼女に深刻な後遺症を残したことはこれまで一度も無かった。意識が途切れたときのまま白目をむいていたため、まぶたを閉じてやった。
幼子のようだとヒャッカは感じた。白目をむいたまま気を失ったのは本当に久しぶりだった。いや、手足を動かして抵抗していたのも、声を荒げたのも、すぐに諦念を見せて目を閉じないのも、全部が久しぶりだった。
彼は窓際の棚に目をやった。数冊の本と、五個のランタンと、世界地図が置かれていた。小さな棚だったので、内部も上部も、ほとんどの置き場所がランタンに占められていた。彼女が最初にランタンを作ったのは三年ほど前だった。一つ目は、カーペットの色味と合うようにと、とろけるようなラベンダー色の色硝子を使った。針金を上手く曲げられず、遠目から見ても歪な形ではあったが、初見にしては上手い方だと思われた。彼女は色のセンスが良く、カーキ色、紺色、オレンジ色、ピンクと、やけになじみの良いランタンを次々と作っていった。材料はヒャッカが持ってくるのだが、一つの色に満足するまでに、最低でも三回は微妙に色合いの異なる色硝子を持ってこなければならなかった。
ふと、彼女のささやかな寝息が聞こえてきた。ランタンを眺めながら、ふっ、とヒャッカは笑った。彼はノスタルジーに浸った。彼は十八年前にいた。少女の、雪のように真っ白だった首筋を思い出した。それを、泥も目を瞑るような諦念の色に変えてしまったのは、紛れもなくヒャッカだった。彼は、まるでこの空間で自分だけが歳をとってしまったような錯覚を覚えた。
「起きてください」
ヒャッカは優しく声をかけた。赤子に声をかけるようだった。
「夕飯を食べましょう」
「……その前に遊びましょう」
少女は緩やかに目を覚ました。体を起こす気力が無いのかどうか、目線だけでヒャッカを探り、いつものベッド際にいることに安堵し、しかしいつもと違ってこちら側を見ていないことを不思議に感じた。彼女の口角はやはり上がっていて、いたずらっ子を思わせるえくぼが覗いていた。彼女に首筋以外の後遺症は全く無かった。
「私に名前をつけて」
「駄目です」
ヒャッカはランタンを見つめたままの格好で、すぐさま否定した。
「ご主人様から命じられています」
「バレないわよ」
「駄目です」
ヒャッカは少女の方を向いた。
「そして、嫌です」
彼は少女の首元に手を伸ばし、ボタンを留めた。少女は少しも動かなかった。首元が完全に隠れると、少女は「普通の少女」のように見えた。ヒャッカは背中を支えて彼女の体を起こし、腰までを柔らかいシーツで覆った。
「何よその顔。……じゃ、名前じゃ無くて良いわ」
少女はせっかくのシーツをめくりながら言った。
「一回だけ。『ご主人様』って呼んでよ」
「駄目です」
「でも、ヒャッカのことは『従者』って呼んでも良いじゃない」
「はい。従者ですから」
「じゃあ私も」
「駄目です」
「そう」
少女は目を逸らし、今夜の食事に興味を持つフリをした。諦念すら感じさせない諦念具合に、ヒャッカは弱いところがあった。
「『あなた様は主人に非ず』……ですので」
ヒャッカが発言を続けたことに、少女は虚を衝かれたようだった。四つん這いになってベッド際まで這っていた彼女の脚がピクリと止まった。
「『非』主人様、とかなら。恐らく」
「えぇ」
彼女は目をぱちくりさせて、
「んふふ」
小さな声で笑った。
「では、夕食の支度をしてくださる?従者のヒャッカ」
彼女はベッド際まで足を運び、ヒャッカの隣にぽすんと座った。
「はい。『非』主人様」
へんな言葉、と、少し前屈みになって少女は笑った。ヒャッカも言ってみて小恥ずかしいようなくすぐったい感触がしたので、もうやめだと食事用の椅子を引いて、クッションを整えた。
「どうぞ、お座りください」
「えぇ、もう終わり?」
「終わりです」
「そう」
くつくつと笑ったまま、彼女は席に着いた。
「もう、素敵な遊びなんだから」
彼女は食前の礼をして、ゆっくりとスープを口に含んだ。
「美味しいわ。甘い」
彼女は適当を言った。このスープとパンしか食べたことが無いからだ。ヒャッカからしてみれば、こんな薄いスープのどこに味が存在するんだという程だった。
「そうだわ。東の国の、お婆さまについてなのだけれど」
「……聞こえてらっしゃったのですか」
「当たり前じゃない」
彼女は得意そうに言った。
「ま、普通の人なら聞こえないのかもしれないわね。でも私はちゃんと聞いているのよ」
「流石でございます……。ご主人様の計らいでして」
ヒャッカは向かいの椅子に腰掛けた。背もたれをゆったりと使って、脚まで組んだ。
「確かに貧乏な国ではありますが、そのお家は栄えておりまして。寝床と三食、散歩の時間まで好きに許されています」
「あら素敵」
「しかし、当のお婆さまが少し気難しいようでして。ノック一つ、言葉一つ、呼吸の一つまで規則が存在するとの噂です。一ヶ月で規則を完璧にしなければ追い出されるとかなんとか……ふふっ」
「あらあら」
少女はクスクスと笑った。
「でもヒャッカなら問題ないと思うわ。規則は得意じゃない」
「まあ……。一度面会に伺いましたが、私も同じ感想です。破格の条件ですし。気難しいお婆さまに奉公できるのであれば、死ぬまでいて良いと」
「ヒャッカが死ぬまで?」
「いえ、お婆さまが」
「あぁ」
少女は納得したように言った。
「それで、お婆さまはいつ死ぬの?」
「さぁ。十年後くらいでしょうか」
「分からないのね」
「あなた様ではないので」
少女はゴクリと喉を鳴らしてスープを飲んだ。
「十八年持つかしら」
「可能性としては無い話では無いですが……私は十年が限度だと思います」
「へぇ」
彼女は嬉しさを隠そうともしなかった。
「そんなに曖昧ではカウントダウンができないじゃない。趣味が無いってどんな気持ちなのかしら?」
「はい」
ヒャッカは適当に流して、脚を組み替えた。
「朝起きて、鐘が鳴って、手を叩く時間になるの。最期の一回を叩いて、『ああ、もう叩く時間は無いんだな』って。どんな気持ちなのかしら?」
「一般的には、『苦しい』や『寂しい』等が当てはまるのでは」
ヒャッカは適当なことを言って場を繋いだ。その間に逡巡した。
「嘘ぅ。『練習』でだってそんなこと思わないわよ。『ふぅん』『へぇ』って感じ」
「……私が思うに、」
ヒャッカは彼女の目を見ていった。彼は少女を理解していたため、彼女自身が奥底で求めている答えも理解していた。
「その言葉はまだ存在しないものかと」
「へぇ」
彼女は小さなパンを咀嚼した。
「ヒャッカが知らないのなら、無いんでしょうね。まあ、普通なら分からなくて当然の気持ちなのでしょうね」
ささやかな夕食を食べ終わった少女は、感謝の礼をして席を立った。
「また明日の朝ね」
やはり諦念の一つも感じさせない諦念具合に、ヒャッカの胸は締め付けられるようだった。彼は手早く机を拭き、部屋の蝋燭を全て取り替えた。少女は再びベッドに腰掛け、脚をゆらゆらさせてくつろいでいた。
「では、私はこれにて-」
「-そう言えば、もう『儀式の鐘』を聞くことは無いのか」
ヒャッカは、なぜ今夜はこんなにも異質なことが起こるのだろうと、半ば畏怖すら感じていた。帰り際に、少女が惜しんだ。
「やっぱり、名前をつけてよ」
「ご主人様の命です。駄目ですと」
「私の名前じゃ無いわ。この気持ちよ」
「……何を」
ヒャッカは分からなかった。彼女の表情から、一挙手一投足から全てを読み取れるという、十八年ものの自信がここに来て瓦解していることを感じ取った。
「私には何も分かりません」
ヒャッカは、まるで逃げ出すかのように鍵を取り出し、扉に手をかけた。
「教えろと言っているのではないわ。創ってと言ったの。一度のお願い」
「既にお願いは聞いています。『行く宛ては決まったのか』と」
「言い方を変えるわ。最期のお願い」
「っ……どうしたんですか、今夜は」
ヒャッカは思わず項垂れた。ランタンの灯りに照らされた真っ白な少女と自分は、あまりにも遠かった。かけ離れた同士だと思った。例え三歩の距離しか離れていない、狭い部屋にいたとて。
「怖がっているのですか」
「違うと言っているでしょう?」
「あぁ……」
ヒャッカは押し黙った。動くことも、言葉を発することもできないと感じていた。苦しかった。首を絞められたのは、本当は自分の方ではないのかと思った。彼女の発する、無色透明の糸に巻き取られ、ヒャッカは立ちすくんだ。この奇妙な夜を終わらすまいという執念が部屋を包み込んで充満し、噎せ返りそうだった。ヒャッカは動かない頭で必死に思いを巡らした。彼の頭の中はありきたりな言葉で満ち満ちていた。しかし、それでは彼女は満足しないことは分かっていた。満足しないだけで無く、そんな言葉を発した暁には、彼は完全に無色透明の糸に巻き取られてぴくりとも身動きできなくなってしまうと思った。彼は自分のふがいなさを責めた。
「あ、そうだ。そうです、あれはどうでしょう」
長い珍妙な間を経て、彼は遂に言葉を発した。自信は無かったが、それでも彼女の信頼を一身に浴びているというささやかな誇りを少しでも取り戻しているようだった。
「例の行く宛てであるお婆さまからいただいた、『使用厳禁・非教養的言葉リスト』と言うものがございまして」
「へえ」
ぱちんと彼女は手を叩いた。とても嬉しそうだった。
「東の国の若者の間で、それも中から下級民の間で『ヤバい』という言葉が使われていると教わりました」
「どういう意味なのかしら」
「曰く、『激情をヘラで伸ばしたような、軽薄で、信頼の置けない、頭が悪くなる言葉』であると」
「……?よく分からないわ」
「私もです」
ヒャッカはキョロキョロと辺りを見渡した後、銀の盆を指さした。
「感情が動けば何でも良いらしいのです。例えば、このスープを飲んで『美味しい』と思えば、『このスープはヤバい』と」
次に、本棚を指さした。
「本が興味深く、いくつかの学びを得られたのであれば、『ヤバい本だ』と」
ヒャッカは少女を真っ直ぐ見た。二人の視線が重なった。
「あなた様が『儀式の鐘』を聞くことがもうないのであれば、『それはヤバい』のでしょう」
「確かに頭は悪そうね。便利だけれど……ヤバい。使い方合ってるかしら?」
「さあ。でも間違っていたって問題ないでしょう」
「それもそうね」
二人はぎこちなく笑った。
「ヒャッカ」
「はい」
「私は今、ヤバいと思っているのね」
「そうですか」
「あなたは今、どう思っているの?」
「ヤバいと思っています」
「んふ。一緒の気持ちね」
少女の口元が安心したように緩んだ。緩んで、
「じゃ、バイバイ」
ヒャッカの肩を、諦念の表情をもってトンと押した。
「……良い夜を」
ヒャッカはもうそれしか言えず、体を押される錯覚のままに部屋を出た。あっという間に扉は閉まった。最後の瞬間に彼女の表情が、あの諦念から変わったのか、変わっていなかったのか、確認することができずじまいだった。ヒャッカはいつも通りに部屋の鍵をしっかりと閉め、立てておいた蝋燭に、順番に火をともしながら階段を降りた。塔の半分より下まで降りれば、キャンドルスタンドが置かれていた壁の小さなスペースはくり抜かれ、月光が静かな激情をもって飛び込んできていた。それに照らされた石壁の一部だけが痛いほど眩しかった。
「はぁ……」
ヒャッカはずるりと石壁にもたれかかった。立っていられず、べしゃりと階段に座り込むと、右手と盆の一部に月光が当たって反射した。彼はぼうっと、その反射した光を見つめた。
こぉん
九つの鐘が鳴り始めた。もうこんな時間と頭の片隅で考えながら、ヒャッカは少女のことを考えずにはいられなかった。彼女は「普通じゃ無い」が好きだった。首を絞められ、命の残り香を拭き取られようとしているその時だって、彼女は絶対に「怖い」とか「苦しい」とか言わなかった。まったくの素晴らしい日常ねと彼女は嘯き、すぐに食事を取った。彼は-これは彼女自身さえも気がついていないことだが-知っていた。彼は十八年間、朝の鍛錬と、昼の座学と、夜の『練習』を行っている。どれだけ手慣れた日常であっても、目を瞑ってできるものだとしても、苦しい時は苦しい。嫌なときは嫌だ。
塔の上部から少しでも手の叩く音が聞こえれば、なんて思ったが、それには遠すぎる距離だった。透き通るような鐘の音だけがこの生ぬるい夜に響き、老いぼれた塔を撫で上げた。
「あぁ、ヤバいよ。全く」
ヒャッカは無意識的に頭を抱えてうずくまった。手入れの行き届いた黒髪を両手で握ると、くしゃりと潰れてしまった。小さく、脆く、弱い、幼子のようだった。
「せめて、時が生き物であったなら」
ヒャッカは人らしく苦悶した。彼の顔に、彼女が最後に見せた諦念と同じものが浮かんでいたのは、月光であっても知らなかった。
ーーー
こぉん
十の鐘が鳴り始めた。
ふとその音を認識した少女は、自分が九の鐘からずっと呆けていたことに気がついた。狭い部屋には一人で、机と、高級ベッドと、本棚があった。ヒャッカの気配はもうどこにも無かったが、替えられたばかりの長い蝋燭の火が、先ほどまで彼がいたことの名残のように揺らめいていた。
少女はベッドから立ち上がり、窓へ近づいた。格子のついた小さな窓は磨りガラスで外はよく確認できず、強いて言えばあれが月かもしれない、という光が確認できた。窓を開けることはできるがかなり重いため、今の彼女にそれをする気力は無かった。
「ヤバいよぅ」
少女は、磨れた月を見上げて言った。
「ヤバい……ヤバいヤバいヤバいっ。ヤバいって、ヤバいよ。あぁ、ヤバい。ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいぃ……ぅああ」
彼女は譫言を夜もすがら繰り返した。窓の前に立ちすくんだまま、彼女の両手が無意識的に首元を押さえていることに、彼女自身も、月光すらも、磨りガラスに阻まれて気がつかなかった。
彼女は化け物のように苦悶した。
ーーー
ヒャッカの”非”主人について
カクヨムでも投稿予定です。同じ名前です。好きな方で読んでいただけますと。
執筆用のツイッターはじめました。(@Huraharakiyomi)
ここまで読んでいただける皆様ならきっと仲良くなれると思います。
では。
JKよりJD派の富良原より