七:鶯が一声上げる
「鑑定」発動。
_____________________________________
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
名称:サユノマサ
種族:怪異種エニアイサピエン
職業:名称保有 特異
詳細・・・・・・ヴァンエニサピエンを99体倒すことによって出現する、エニサピエンが進化した姿。この個体は頭が10個、目が66個、腕が120本、脚が30本あり、基本的にこの怪異はこのように異形である。1ミョウごとに身体能力1.01倍になる「反旗」、ライフが30%を切ると能力の効果が3倍になり自身の姿が変化する「革命」、ライフが99.9%を切るとヴァンエニサピエンの特異を3ミョウごとに1体無限に召喚する「義勇軍」に加え、名称保有なので、自分の召喚した怪異を名称保有にするユニークスキル「独立宣言」を取得していて、特異なので、身体能力が2倍。また、「髑髏の数珠」を装備していて、スキルの効果2倍に加え、攻撃を当てるたびに身体能力2倍。さらに、ヴァンエニサピエンのスキルも引き継いでいる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
_____________________________________
つくづく怪異ってインフレしてるというか何というか。
流石にそれは強すぎるだろ。
「でも強いのがいい。勝てないって思わせてくれるヤツなんて、最高じゃないかっ!」
エニアイサピエン、サユノマサの腕の内、半分が伸びる。
「石火Ⅶ」発動。
俺自身の身体を構成する原子とエネルギーを「石火Ⅶ」で模倣し、この空間全てに埋め尽くす。
しかし、サユノマサは混乱するどころか、「看破」発動、「骨拳」発動を確認、と同時に急に腕の勢いが増し、俺の擬似分身を正確に、的確に狙ってくる。
まあでもそれはシミュレーション通り。
60本の腕があるなら、それを避けるのではなく突っ込んで行けばいい。
目の前に拳があっても「石火Ⅶ」と「思考」を使えば当たらない。
体を捻る、頭を下げて斜め前20°に向かって飛び込む、右足を上げて腕を避けつつ上にジャンプ。
相手は30本もの脚で「ダッシュ」発動。腕が薙いでくるが、腕に触れないように前転。
相手の攻撃を上手く攻撃を捌いていく。
はずだった。
「看破」発動、発動してあった「骨拳」の一点集中化を確認。
「かはっ」
俺の肺から空気がごっそりと抜かれてゆく。
流石の俺もそこまでは感知していない。
「げほっ、ゲホゲホッ。ぺっ」
口の中の血を吐き出す。鉄の味がする。
「やっとここまできたんだが」
時間は丁度2ヒン経った。
相手が一撃では死なないことも知っている。
そして、今の状況は致命的である。
はっきりいって負けるかもしれんない。
ではどうするか。
簡単だ。
何を使っても勝てばいい。
「『EX』挑戦権」発動。
これは相手と 1対1に持ち込めるスキル。
また、このスキルは相手が自分よりも強い時に自分自身の能力を2倍にする。
つまり、格上へ「挑戦」する権利を獲得できるスキルだ。
「そしてお前は格上だ!」
相手は「反旗」を使用しているため、身体能力だけで言えば元の約9倍。
一方俺は「石火Ⅶ」を使用しているため、身体能力なら元の約65倍、特にスピードは約143倍になっている。
_____________________________________
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
スキル名称:「石火Ⅶ」
スキル種類:支援系
スキル詳細・・・・・・それは石を打ち合ったときに出る火花のよう。それは火薬で石を飛ばした時のよう。全身にこれを纏うことにより、スピード3.75倍、全身体能力1.7倍。また、纏う範囲が半分になるごとに能力が1.5倍になる。さらに、発動時間が1ヒンを超えると、3ミョウごとに全身体能力1.2倍。自分の雰囲気を再現した擬似分身を作り出せる。
「看破」による隠し情報開示・・・・・・「(未取得のため、開示不可能)」との統合により「(未取得のため、開示不可能)」の取得が可能。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
_____________________________________
これが鍵だ。
1歩でもずれると全てが終わる。恐らく俺の人生もここまでとなってしまうだろう。
でも不思議だ。
俺は今、絶対に失敗しない自信がある。
右足を前に出す。
左足をさらに前に出す。
今度は右足を曲げる。
そのままダッシュ。
相手はもちろんこちらの動きが見えている。
「そんな攻撃じゃ、もう俺には当たらねーよ!」
「石火Ⅶ」のおかげか、相手が殴ってこようとしても避けられる。
こっちの方が速いからな。
頭の中には相手の位置、自分の位置、そして擬似分身の位置が浮かび上がっている。
これで相手に攻撃を当てる。
ここで、サユノマサが不可解な行動に出た。
「は?」
つい声が出てしまう。
なんと、自分の腕を引きちぎって食べ始めたのだ。
自分の腕は回復しないにも関わらず。
すると、ライフが残り70%を切る。
ただし、「『EX』挑戦権」のおかげで、相手がヴァンエニサピエン召喚することはできても俺に攻撃を与えることはない。
と思っていた時期が俺にもありました。
サユノマサは、召喚するたびにヴァンエニサピエンを殺してゆくのだ。
「その場でレベル上げてんじゃねーよ!」
幸いなことに腕はもう2本しか残っていない。
ずぼっ。
「……!?」
サユノマサの腹から手が生えている。
これでサユノマサのライフが30%を切る。
成人ほどあった身長が少し縮み、目が2個になり、身体の作りが1から変化しているのがわかる。
足が2本になり、緋色の長い髪が生える。
その体には人間種ヒトの戦闘用としか思えない服を纏っている。
それは拳を握り、構えをとる。
その構えは、古の名人の姿を彷彿とさせる。
そして俺の目の前には、さっきまで俺を殺そうとしていた、いや、今も殺そうと睨んでくる美少女がいる。
姿を変えたそれ、サユノマサは初めて口を開く。
「あなたはここで私が、殺す」
「さすが名称保有だぜ!まさか言葉も話せるとはな。流石に予想外だぜ」
俺の軽口には一切の反応を見せず、ただ俺を殺そうと睨んでくる。
明らかに相手に技術が伴っているのがわかる。おそらく昔、拳闘士の名人を食ったのだろう。
「ははっ……。これは本格的にやばいぞ……」
流石の俺でも呆れざるを得ない。
さっきの鑑定の結果によれば、これは「革命」というスキルで、能力が3倍となる。つまり、身体能力3倍に加え、毎ミョウ身体能力が6.06倍になるということだからだ。
「でも、俺がもう負けたなんて誰が言った。俺はまだ戦えるぞ!」
格上なのは変わらない。
不利な状況も変わらない。
でも、自分の自信も変わらない。
隠蔽之魔術「遊場開始」発動。
この戦場は1つの遊場。
本当の遊場を今開始する。
サユノマサが1歩進む。
俺は右に3歩進む。
俺たちが進める道が格子状に描かれている。
サユノマサが斜めに5歩進む。
ここまででまだ1度しか俺は擬似分身を使っていない。
俺は前に4歩進む。
サユノマサが右に3歩進む
俺は前に4歩進む
サユノマサは最後の一手を図る。
だが、俺はまだ1歩も動いていないので、そこには誰もいない。
そこには俺が仕掛けた擬似分身があるだけだ。
感覚で隠蔽之魔術「遊場開始」を行ってはいけない。
こちらは全てわかっているのだから。
相手を騙し、裏切り、そして勝利をもぎ取ることこそが隠蔽之魔術「遊場開始」の醍醐味であり、価値だ。
俺は横に1歩進む。
これこそが真の1手、神へ到達せし「神の一手」だ。
相手は後退するしかない。
その時点で相手はもう詰んでいる。
俺は前に3歩進む。
「石火Ⅶ」を右の拳へ集約する。
最後の一撃を決めようと俺は喝を入れる。
「これで終わりだ。サユノマサァァァァアア!」
相手もただではおかない。
「小癪な!私はあなたをここで殺すのだ!ここで負けてたまるか!」
でも、
「お前は俺と戦おうとした時点で負けてんだよ。俺に勝てると思うなよ?」
全てを置き去りにして放たれた2つの攻撃。
1泊置いて、ドガアアアアアァァァン、と爆発音が響く。
「まだだ!まだ私はぁぁぁぁぁ……!」
サユノマサが叫ぶ。
「俺の勝ちだ!諦めろ!」
俺も叫び返す。
サユノマサはもう戦えない。
俺の攻撃で体の半分が消え、息絶えた。
一方、俺のライフはあと3残っている。
この勝負、俺の勝利だ。
『名称保有怪異初討伐が確認されたため、特典を取得します』
『「図鑑」を取得しました』
ようやく終わったぜ……。
いや〜マジで強かった。
なんかサユノマサに既視感があったのだが……。
まあいいや。疲れて頭が回らない。
「なんかスキルも貰ったみたいだが、疲れたな……。早く上の第十一階層行って休もう」
まるで俺の勝利を祝福するかのように、鶯の声が聞こえる。
第十一階層へ上がった俺は、自分へ「回復」を発動させて、そのまま眠りについた。
作者への応援があれば喜んで承ります。
しばらく投稿できないかもしれません。