五:荒波を鎮めてみせよう
「はっはっは。楽しい楽しい第2ラウンドの始まりだぜ!」
俺は新たな戦いが始まるのを感じて、気分が昂ってきた。
これはもう武者震いを抑えられそうにない。
「精々頑張ってくれよ!」
と声を呼びかけて、俺は進化を遂げたエニサピエン、ヴォンエニサピエンに肉薄する。
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名称:なし
種族:怪異種ヴァンエニサピエン
職業:特異
詳細・・・・・・エニサピエンとの戦闘時、拳だけを使用してエニサピエンと闘うことによってエニサピエンが進化を遂げた姿(脳筋)。攻撃を受けるたびにパワーとガードが1.1倍になる「反骨精神」と、極一点のガードを任意で5倍にする「骨鱗」、身体以外を使った攻撃を無効にする「革命権」を新たに取得している。ただしこの個体は特異なので、身体能力が2倍。もちろん(?)ハゲ。
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上が「鑑定」を発動したことによって頭に入ってきた内容である。
鑑定を創ったやつの悪意が見え隠れするのは気のせいだろうか…?
「強そうだ!そうこなくっちゃ!相手が強くないと楽しめないだろ!」
さあ、行くぞ!
早速腕に「石火Ⅰ」を纏う。
『熟練度が一定に達したため、「石火Ⅰ」が「石火Ⅱ」に昇華しました。』
早速「石火Ⅰ」が強化されたぜ。
腕に纏った「石火Ⅱ」が今までとは段違いの性能を見せる。
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スキル名称:「石火Ⅱ」
スキル種類:支援系
スキル詳細・・・・・・それは石を打ち合ったときに出る火花のよう。それは火薬で石を飛ばした時のよう。全身にこれを纏うことにより、スピード1.5倍、全身体能力1.2倍。また、纏う範囲が半分になるごとに能力が1.2倍になる。さらに、発動時間が1ヒンを超えると、3ミョウごとに全身体能力1.1倍。
「看破」による隠し情報開示・・・・・・「(未取得のため、開示不可能)」との統合により「(未取得のため、開示不可能)」の取得が可能。
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前までは「スピード1.25倍、全身体能力1.1倍」だったのに今は「スピード1.25倍、全身体能力1.1倍」。
さらに「纏う範囲が半分になるごとに能力が1.2倍になる」っていうのもいい。
おっと。もう目の前にいるな。
そういえば肉薄してるんだった。
もちろん、相手の動きは「看破」で見えている。
後ろに回り込み、頭の横を同時に叩くと見せかけて、そのまま後ろに退避。
絶対に攻撃を当ててはいけないのがみそだ。
くそっ。相手もそれに気付いたみたいだ。
さすが特異怪異。
頭の造りも普通の怪異とは違うってか。
ガキンッという相手の腕がぶつかる音が鳴る。
さっきの俺がいた場所だ。
反撃できなくて俺は今焦っている。
ふぅーと一息ついて気持ちを落ち着かせる。
が、瞬きすると、目の前にはもうヴァンエニサピエンがいる。
白い拳が飛んでくる。
「看破」発動。相手が「骨拳」発動を確認。
急に腕が伸びて速度が急になる。
横に転がって間一髪で避けると、反復横跳びをしつつ相手を撹乱。相手の股の下スレスレを這う。
すると、体がグリンッとありえない方向に曲がって拳が飛んできたため、これは前転で避ける。
ヴァンサピエンとの戦闘が始まってからもう1コク半経った気がする。
あと10ミョウ(10秒)だ。あと10ミョウで「石火Ⅱ」の発動開始から1ヒン(1分)だ。
横に転がって、壁を蹴って、3ジェンも跳躍して、必死に逃げてゆく。
「っぷはぁ。流石に攻撃しない縛りはキツいな。でもあと1ヒンだ。あともう1ヒンだ。」
「看破」を全力で活用させて貰うぞ!
『一定条件に達したことにより、一時的に「看破」を「覚醒」させます。』
『一定条件に達したことにより、一時的に「『EX』脳」を取得します。』
相手の動きを脳内でシミュレーションし、その対処法を一通り描き出す。
ここまでで0.05ミョウ。
相手の動きが丁度92814875通り目に当てはまる。
そこから逃げるために最適なのは、203456通り目だ。
そんな調子でついに60ミョウが経った。
『「覚醒」を解除します。』
『「『EX』脳」を解除します。』
くそっ。急に思考が回らなくなってきた。
でもこれで全身体能力が約5倍、スピードは約6倍になっているはずだ。
これを腕だけに纏う。
これでさらに約2倍
目の前には「骨鱗」と「骨拳」を発動しているであろう、ヴァンエニサピエンがいる。
思い切り腕を振りかぶる。
ヴァンエニサピエンもその1本の腕を大きく振りかぶる。
そしてほぼ同じタイミングで拳を突き出す。
瞬間、爆発が起こった。
音が鳴る。
煙が上がる。
そして……
はたして、そこには腹から穴を開けて拳を前に突き出したまま動かないヴァンエニサピエンと、思い切り吹っ飛ぶ俺がいた。
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side:????
あの日から叫び声が聞こえる。
血を吐くように泣き叫ぶ声が聞こえる。
引き裂かれた時に心の底から捻り出す絶叫が聞こえる。
全ての終わりを見た時の絶望の声が聞こえる。
——そ の 声 が ず っ と 頭 か ら 離 れ な い
私は生まれた時から目が見えなかった。
なぜか私は生まれた時から自我を持っていた。
私が自分が特別だと知ったのは、8歳の頃だった。
その日は解析玉が授けられる日で、私は(どこかの変な人とは違って)その日を心待ちにしていた。
全てが変わったのはその日からだった。全てがわからなくなったのはその日からだった。全てを忘れたいと思ったのはその日からだった。
私の全てが……消えてしまった。
解析玉が目の前に現れるのを見て、私ははしゃいだ。これで強くなれる(あれ?なんで強くなろうとしてたんだっけ私?まあいっか)と思ってた。
世界で1番強くなりたいと夢見たこともある。
自分の才能に酔いしれたいと思ったこともある。
でも何よりも、のんびりと両親と暮らせると思った。
私の家庭は昔からそれほどお金を持ってるわけでもないのに、両親は自分達よりも貧しい人たちがいる、と言って孤児院に寄付をしていた。両親はとても優しいので、もっと豊かになってくれればいいと思っていた。
だが、私は真実を知った。
知ってしまった。
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〜〜〜〜〜〜≡≡≡≡≡≡≡≡「 ホーエリー=ニーナの能力」≡≡≡≡≡≡≡≡ 〜〜〜〜〜〜
名称:ホーエリー=ニーナー 種族:人間種ハイエルフィーネ 職業:聖女
無抵抗時最大生命力 ライフ:∞ (+∞) / ∞ ×2
成長値 レベル:Lv . 1
保有特典数 ポイント:999999pt (日が変わるごとに+100000)
能力値:
*瞬間最高物理出力 パワー:400 (+100)
↑1up 200pt
*5秒継続最高物理防御 ガード:300 (+120)
↑1up 100pt
*瞬間最高加速 スピード:420 (+200)
↑1up 80pt
*最高活動時最長持続兼最大保有体力 スタミナ:999999 (+∞)
*戦闘時武器親和度 ウェポンコネクション:200 (+300)
↑1up 300pt
*瞬間最高魔法出力 マジックパワー:999999 (+999999)
*5秒継続最高抗魔法力 マジックガード:∞ (+∞)
*最高活動時最長持続兼最大保有魔媒素量 マジックスタミナ:999999 (+∞)
*無抵抗時最高魔法親和度 マジックコネクション:∞ (+∞)
*活動時最高幸運 ラッキー:32 (+18)
↑1up 9000pt
*成長率 アップグレード:∞ (+∞)
*累積能力値相対化段位 総合ステータス段位:EXー2位/4体中
発動可能魔法一覧 スキル:戦闘系ー 「『EX』風魔法」、「『EX』ホーリーランス」/計2個
生産系ー 「ホーリーシールド」、「鎌鼬召喚」 、「大気領域」/計3個
支援系ー 「聖治癒」、「『EX』聖歌」/計2個
操作系ー 「『EX』共鳴」 /計1個
取得可能魔法一覧 カンハブスキル:戦闘系ー 「『EX』ホーリーライツ」/取得8000pt
生産系ー 「創糸」/取得9000pt
支援系ー 「修復」/取得6000pt
操作系ー 「縫合」/取得7000pt
個人能力値:*発現特異魔法名称 ユニークスキル:「ホーリーワールド」
(「(未発現)天門」)
(「(未発現)気体創造・操作」)
*進歩可能進歩先ー[なし]
*称号ー《風聖王》《転生者》《使命を背負いし者》
*総使用器ー 叡智/杖/武器耐久値 ∞(破壊不可能)
(使用者「ホーエリー=ニーナ」固定)
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ちなみに、『EX』がついてるスキルは本来のスキルよりも効果が1.2倍になるスキルのことで、ユニークスキルはその人にしか使えないスキルのことである。
話を戻そう。
そう、私は転生者だったのだ。
私はこれまでの違和感を思い出した。
ある日、「日本」という言葉が聞こえた気がして少し感情が昂ってしまったこと。
私はなぜか言葉を覚える時間が他の子供より長かったこと。
そして、私の名前が「堀ヱ 乎奈」で車に撥ねられたこと。
両親が聞いてくる。
「おーい、ニーナ。解析玉の結果どうだったか?」
「あなた、ニーナならきっと素晴らしい結果ですよ。だって私たちにはもったいないほどのいい子ですから。でも確かに気になりますね。見せてもらってもいいですか?ニーナ」
私は泣きそうになりながらもうなずく。
「では見ますね……ってニーナ!あなた聖女だったのですか!?と言いますか、これはEXランク!?流石ニーナです!」
「まさか俺達の娘がこんなにすごいとはな……」
「ニーナ、今日はパーティーですよ!——ニーナ?どうしましたか?」
私は喜ぶ両親を見てもう堪えきれそうになかった。
「お母さん、お父さん。私がどうなっても愛してくれますか?」
「ニーナ、あなた涙が……どうしたんですか。大丈夫ですよ。あなたは私たちの子供なのですから。」
そして私は自分に前世の記憶があること、両親はどちらともダークエルフなのに私だけハイエルフであること、今まで隠していたことを全て話した。
両親はそんな私の話を最後まで聞いてくれた。
「まあ、この子は小さい時から達観していたところがありましたからね」
「確かにそうだよな。まあ俺たちはお前を手放す気なんてないからな!お前は俺たちの大切な娘だ!」
さっきとは違う温度の涙が私の顎から滴り落ちた。
私は決めた。両親を幸福にすると。
『海が荒れたことにより、使命を発令します』
ギャォオオオオオオオオン
遠吠えが聞こえた。
『使命発令:50体のワイルドウルフと50体のフライトウルフの討伐を命じます。荒れた海を鎮めなさい』
「ぎゃあああああああああああああああ!痛い痛い痛い痛い!やめてくれぇ!」
ぐちゃっと肉が噛みちぎられる音がする。
村の人の悲鳴が聞こえる。
エルフが住む村に絶望が走る。
私はスキルを発動する。まるでそうしなければいけないかのように。
「ホーリーワールド」、「大気領域」、「鎌鼬召喚」を同時に発動。
村の人たちを回復させ、敵に纏わり付く空気を重くし、鎌鼬を無限に召喚して敵を切り裂く。
『使命発令中につき、「鎮海」を一時的に取得しました』
銀色の水溜りが出現しているのが見える
「「鎮海」発動!」
漣を立てていた水溜りが、ゆっくりと凪いで、そして消えていった。
荒れた海を鎮めたことにより、村に漂っていた絶望の手は引いていったが、私はもうここには居れない。
「お母さん、お父さん……。今までありがとね。」
——ぐりん
さーて、次のところに行きますか!
目が見えないから、絶望の声が聞きたい。目が見えないから、肉が裂ける音が聞きたい。
今からもうゾクゾクするよ。
村を出たボクは次のところへ向かう。
あの日から叫び声が聞こえる。
血を吐くように泣き叫ぶ声が聞こえる。
引き裂かれた時に心の底から捻り出す絶叫が聞こえる。
全ての終わりを見た時の絶望の声が聞こえる。
もう12年経った。
今でも「使命」があると背筋がゾクゾクしてくる。
今でも声が聞こえる。
そしてボクは今日も呟く
「私が荒波を鎮めて見せましょう」