四十七:送り火を焚いて慰め
side:政治用星人形Si
目には包帯が巻かれ、豪華な乗り物──巷では「馬車」と呼んでいるらしいが、正確には「機械模倣四足動物引車」、簡潔に言えば「4本足で歩く動物を機械で真似し、それに車を引かせている」……というもの──に乗った、獣種の白髪の奴隷が、命じられるままに座っている。……いや、白髪というよりは灰色に近いだろう。
今、我々は星祈ナスメレ共和国の勇敢なる「英霊軍」の凱旋を祝っている。
さて、主に「星祈礼楽」によって生活を成り立たせている我らとは関係のないもの……それが「機械」だ。
いや、関係ないものだった、と言い換えた方が正しいのかもしれない。
そう、我らは、ジウノ帝国を制圧した。
……そうだな、約1週間ほど、だろうか。
小さな紛争と比べれても本当に圧倒的な速さだった。
このような奇跡とも言えるような所業を実現させた最大の規模、最高の質にして最強の切り札。
それが、この奴隷……いや、獣種ドレイヤーの《少女》のスキル(もしくはユニークスキル)という、たった1人の手によって引き起こされたものとしたら、信じるだろうか。
──まあ、現実にはEXランクの《王》という存在自体が厄災と変わらないような者もいるため、さして驚くべきことではないかもしれないが。
個体識別用名称《少女》、蔑称において《史上最低の裏切り女》と呼ばれる彼女の存在は、既にこの星祈ナスメレ共和国において民衆のいたく知る、周知の事実となっていた。
曰く、幼女の姿を模して出会う人の警戒心を薄れさせ、騙す悪女。
曰く、星祈ナスメレ共和国に何度も助けられつつもその恩を無かったことにし、あまつさえ獣種の方に寝返った裏切り者。
曰く、調教されるまでは何匹も生物を殺し、その血液、体液を飲み干した悪食。
曰く、……これ以上民衆の妄想に身を委ねていたら本格的にそれを信じてしまいそうだから、ここまでにしておこう。
つまり、我らの情報統制は上手く行っている、ということだ。
幸い彼女には現時点で4歳だと思い込ませる催眠をかけているため、彼女がどんな行動を取ろうともすぐに鎮圧することができる。
──では、彼女が何をしたのか、ジウノ帝国がいかにして崩れ落ちたのか、説明をしよう。
とはいっても、彼女の能力はとても理解が簡単で、その能力の効果も指して複雑なものではない。
その過程で起こるアルゴリズムの解析も、だ。
そして、その《少女》のユニークスキルは、彼女が認識した物体と物体同士の境界線において、もし視界内に境界線で囲まれたもの、あるいは《少女》自身がそれは境界線で囲まれていると認識したもの、が生命活動を続ける可能性があるのなら、境界線に囲まれたものの内側に約9割の損害を与え、修復機能、またはそれに準ずるすべての能力の発動を封印する。
簡単に言えば、視界に入っている、かつ生物と認識できるものに対して「体の9割の損傷」を与える、というかなり破格の機能である。
そして、精神年齢を4歳に調整していることにより、彼女に幻覚を見せ、その場にあるもの全てを9割削り取ることも可能である。
このユニークスキルの名は「90%」だと、本人の口から聞き出した。
そんな彼女のユニークスキルを補助するスキル、それが「視野拡張」「認識速度増加」、そして「目」である。
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スキル名称:「視野拡張」
スキル種類:パッシブ
スキル詳細・・・・・・視野を180°、また、視力を常に5.0と全く同じ範囲まで、そしてその上で生活上決して体に支障が出ないように調整する。
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スキル名称:「認識速度増加」
スキル種類:パッシブ
スキル詳細・・・・・・空間に存在する物体を、頭の中で考えついた物と結びつかせるまでの時間を短縮させる。
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スキル名称:「目」
スキル種類:アクティブ
スキル詳細・・・・・・目を増やす。網膜に映る空間上にある全ての座標に質量が0の大量の目を設置する。この目に触れた生物はどんな生物であろうと体の9割を消滅させ、持っているスキルを全てこのスキルを使用した者へ譲渡する。
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注:この情報は政治用星人形Siも知り得ない情報ですので、くれぐれも漏洩にご注意下さい。あなたが幽体離脱した時に彼らに捉えられても、それはあなたの責任であり、私には一切の関係のないことです……本当に、くれぐれも後ろにご注意を。
さあ、彼女のスキルの名称だけでも公表した上で、次に我々はこの《少女》の特異性について考えたい。
我々は確かに彼女を調教し、そして完全に操作出来るようにした(何しろ精神年齢は4歳なのだから)。
しかし、ここで1つの異常が発生した、
なぜか、彼女は自身の名を明かすことに強い抵抗を示したのだ。
よって、我々はこれからも彼女を《少女》と呼ぶことにした。
そして、その理由は今も知り得ないままである。
また、彼女は時々いきなり赤い果物の絵を描き出すといった無意味な行動を命じられてもいないのに書くことがある。
その絵は決まって最後は黒く塗りつぶされるのだが、それについて危険性は見られないため、我々は放置することとした。
だが、民衆が騒ぎ混乱する可能性があるとし、我々が決めた方針としては、彼女の存在を秘匿すること。
つまり公開しない、ということにした。
世論を操作し、徹底的に真の情報を遮断する。
彼女が兵器運用されたことについて知っている者、勘付いた者で民間人なら、その場で処分することとした。
我々は、御方が帰って来るまで、徹底的にこの国を守らねばならない。
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そして現在、俺はひどく混乱している。
……フール=リッシュエスタの能力を覚えているだろうか。
そうそう、彼は知覚時間をそれなりの薄さまで引き延ばせるのだ。
つまり、今聞こえてきた《鼻》の声は、実際は《幻奇王》の作り出した幻なのだが……。
俺は即座に“権能「パラフィン」"を発動した……想像よりもずっと早い。
残念ながら、俺のこの“権能"が持続する時間は、後ろについているユニークスキル「蝋翼」によって作られた実体化した「蝋翼」──仮に「蝋翼-現実」とでも呼ぶとしよう──が完全に無くなるまでの時間なのだ。
不思議なことに、俺の“権能"はこの「蝋翼-現実」の「蝋」の部分を消費して発動される(これは「蝋エネルギー」とはまた別のものである)。
繰り返すが、この「蝋」を消費すると「蝋翼-現実」の大きさが目に見えて減流のだ。
そして、完全に無くなると今度は俺にもその“権能「パラフィン」"の効果である「拒絶」が、返って来る。
よって、発動する時間を綿密に計算した上で最適な状況においての切り札とするべきだったのだが、最も簡単にその目論見は外れてしまった。
……まさか、《鼻》の幻覚に簡単に惑わされてしまうとは、不覚。
俺は自分自身に呆れ、深く失望した。
そんなことを考える暇も無く、敵の攻撃はすぐ目の前まで迫り──そして俺の「黒き鎧」に当たる。
ある程度は「黒き鎧」が防いでくれるが(いや、と言っても「黒き鎧」辞退の防御力も高いのだが)、その防御力をすり抜けてくる攻撃は“権能「パラフィン」"が「拒絶」してくれる。
「拒絶」された攻撃はドロっとした液体と個体の中間──みたいな感じになり、地面にポトっと落ちて無力化された。
しかし、それだけで終わるとも思えない。
「絶対防御」発動のおかげでしばらくは常に俺が攻撃よりも先に防御することが可能だが、それよりも先に「蝋翼」が無くなってしまう……。
……くそっ。
やっぱり、さっきの幻覚は何だったんだ?
引き伸ばされた時間の中で俺は思考する。
俺に残された武器は、「強いスキル」でも「高い身体能力」でも無い。
そう、俺の唯一の能力は、「引き伸ばされた時間」において「正常な思考」が「最適の状態」で行えることにある。
究極の思考に勝るものは無し。
俺の好きな名言でもある。
だから、俺は思考する。
ぐるぐる回り、最早いつ焼き切れてもおかしくない脳神経を、それでも回転させる。
1つの仮説が、思い浮かんだ。
……だが、いや、しかし……この仮説が本当なら、俺の今の立場は、おそらく最悪だろう……。
「悪意」達はそのまま《不折王》と《鼻》、《臆病王》を攻撃させている。
また、俺のユニークスキル「虎狼痢」を防ぐために──「看破(覚醒)」によると、物理or物理で無い攻撃のどちらかしか防げない代わりに、選択した方の攻撃に対する防御が圧倒的に高くなるという──「バリア」を発動した瞬間を俺は捉えている。
全ては俺の抹消、殺害、消滅……どんな言葉でもいい。
今、この運命は俺が「消えて無くなる」ことを望んでいる。
だが、それがたとえどんな神の決断であろうとも、究極の思考に勝つことは不可能だ。
つまり、この攻撃すら
「俺の思考の糧だっ……!」
少し俯瞰した自分を立て、ゆっくりと続く攻撃の嵐を、まさに敷き詰められた碁石のような攻撃の網を、眺める。
すると、1つの抜け穴が見えてきたではないか!
その時、気付いた瞬間を狙ったかのように「蝋翼-現実」が完全に消える、一歩手前になっていた。
すぐに自身に纏わせていた“権能「パラフィン」"を解除する。
「さあ──反撃の狼煙をあげようじゃないか」
脳内で何度も再生した言葉を胸に、確固たる意思をその頭に、そして絶対的な夢をその手に。
俺は、この手で、最強の座を掴み取る。




