四十五:金はたき
戦いが始まり、俺は瞬時に作戦を組み立ててゆく。
まるでボードゲームの戦略を考えているようだ。
「不滅の黒き彗星」の効果により、今の身体能力なら光の99.9%の速さ、実質的に亜光速で移動することができる。
まぁ、防御力が低すぎて20ヒンくらいしか持たないが。
だが、今は別にわざわざ速さを上げなくてもいいだろう。
相手はEXランクにZ……確か+ランクが相手にいるのだから、圧倒的不利であることに変わりは無い。
速さを上げるくらいなら反撃のチャンスを狙ってカウンターをかます方が得策というもの。
ヴゥォン
重々しい音が、空気抵抗の間を縫って飛んでくる。
想像通りなら、これは避けることができる。
だが、相手は仮にもEXランク、《不折王》だ。
──自分自身の力を過信してくれているか、俺のことをみくびってくれるのなら嬉しいのだが。
そう呟きつつ、横に1歩ずれる。
──音が、しなかった。
横から回転しながら飛んできた盾を「空間固定」で防ぐ。
(本当に、生きるか死ぬかの瀬戸際だった……)
冷静に分析しつつ、相手が「領域」を発動していないことに気づいた。
「領域」とは、EXランク、つまり《王》の称号を持つものだけが有するスキルだ。
このスキルを発動することにより、自分により有利な地形の創造、効果の付与、相手への悪影響……等々を与えることができる……らしい。
そして、《不折王》はいまだに「領域」を発動していない。
──1つの仮説が鎌首をもたげた。
つまり、相手は俺の隠蔽之魔術「遊場廻転」について知っているのではないか?と言うことだ。
それは、最悪だ。
俺としては、EXランクという理外の存在に対し1つでも手札がバレると言うこと、それも切り札的存在がバレたことはかなりよろしくない。
おそらく《王》のもつ「領域」なら焔禍よりも悪質な、俺の「遊場廻転」を上書きすることが可能だ。
……焔禍の名、久しぶりに聞いたな。
そう言えばまだ墓を建てていなかった。
せっかく貰った「焔禍の加護」とやらも結局何なのかわからないままだったが、今はとりあえず戦いに集中だ。
そう、これは神聖な闘いなどではない。
「「巨人軍」発動。進軍を開始せよ!」
だが、目の前の光景を見ると、たくさんスキルを得て、さらなる高みへ登った俺でも絶望を感じてしまった。
先の攻撃によって巻き起こされた煙、一瞬だけ視界を遮っていたため焦ったが、特に何もされなかったため安堵を感じてしまったのだろう。
目の前で何千何万もの巨人、それも、兵器を持ち、強化鎧を纏って進軍してくる、巨人。
一瞬、「分身爆弾」を放とうとも思ったが、これだけの数を捌くことへできない。
ふと、《不折王》の従者、《鼻》を思い出した。
彼女の居た位置を目で捉えると、すでにそこに生物はいなかった。
1ミョウで安全な地帯に入るとは、なかなかの強者だな、と思いつつもこの巨人たちへの対処を考えなくてはいけない。
「鑑定」を使っても、いや、「鑑定」を合成した「看破(覚醒)」ですら、わかる情報が身体能力……それもHPとレベルだけだったので覗いてみると、
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*HP: ∞(+999999)
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あまりにもスッキリしていたせいで、情報が頭に入ってこなかった。
そもそも「∞」という概念があること自体が、初めて知る内容だった。
つまり、この巨人軍は殺せない。
……考えたくは無いが、おそらく《不折王》自身のHPも「∞」、いや補正がかかってさらに上の値、つまり「正しい値」に直されていることだろう。
一瞬だけだが、割と真剣に「逃げる」という選択肢を考えた。
だが、また一瞬のうちに、その選択肢は捨てた。
「まだ、俺は最強ではない……っ」
そんな事実を認めてしまいたくはなかった。
悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい
溢れ出す心の底に溜まる欲望は、口から溢れ出る。
「ごぽっ」
胃からせり上がってくるものを感じ、口を開くと、ナニカが出てきた。
「お゛ぅ゛え゛つっっ……がぽっ、おぉえゔぉえ」
息をしようとも溢れ出てくる黒いモノのせいでうまく呼吸ができない。
窒息しそうだ。
意識が遠のいてきた時、ようやくナニカが完全に吐き出た。
意識が覚醒する。
対面を見て見ると、驚愕した顔の《不折王》がいた。
一矢報いた気分になり、少し嬉しくなる。
しばらく──といっても0.1ミョウにも満たない時間だが──して、ようやく吐き出したナニカの存在を認識した。
吐瀉物とは違い、顔を覆っていた仮面には一切の汚れがついていなかった。
そのナニカ、は粘性の物体で、常に一定間隔で揺れていた。
俺にはそれが何かすぐに理解できた。
「あぁ、お前、俺の「悔しさ」なんだなぁ」
すごく、愛おしく感じる。
再び溢れる感情は足の下から流れ、辺りを覆い尽くす。
《臆病王》とその従者である《直感》と対戦した時に感じたもの、
「なるほどぉ……これが、憎しみ、か。悪く……ない」
辺り一体は「憎悪」とやらで埋め尽くされ、その粘性によって巨人軍の進む速度が格段に遅くなった。
次に沸々と湧き上がってくるものがあった。
この感情も、知っている。
俺が分身を発動する速度よりも相手は「巨人軍」を発動完了した。
相手はなんとHPが「∞」。
俺は刀しか持っていないのに、相手は盾まで持っている。
「ああああーーーー、俺、「怒っ」ちゃうからな?」
真っ黒な炎、と言うものはかなり不気味だ。
そして、その炎は俺が吐き出した「感情エネルギー」の表面を伝って大火事を起こした。
「憤り」だ。
今目の前には「悔しさ」
地面を覆うのは「憎悪」
感情の上に立ち、それらに発破をかける「憤り」。
心から生まれ、身体中を血液に乗って「喜び」が駆け巡った。
最高に、心地が良い。
ふと、「神之剣」が落ちた方を見た。
俺は驚愕する。
ありえないことに、その剣には一才の傷がついていなかった。
「……もしかして、初めに殺そうとした相手を完全に殺すまで効果が続くのか……?」
即座に「念動」を発動し、手を伸ばして掴み取る。
ニチャァという笑みを浮かべる音が、剣から聞こえた気がした。
ギチギチギチギチギチギチギチギチギチ────
その剣は、綺麗なままだった。
そして、その効果も、まだ残っていた。
頭をフル回転させ、最善の一手を考える。
そして、いつもの自分ならこんなことは考えないな、と思うほどの、残酷な作戦を考えた。
ついに、解放する。
「亜光速脚」発動。
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side:サユノマサ
さて、この場において主人公であるフール=リッシュエスタにのみ知らされていない情報がある。
こんなことを言ったら彼は激怒することだろう。
しかし、この情報が、私達EXランク、いや、序列16以上の物が勝つ方法なのだ。
そう、私達は、眠ってなどいない。
そして、この水晶はただの飾り。
私達にかかれば、すぐにこんなものなど割れてしまう。
ではなぜ割らないのか?
その答えは至極簡単だ。
そう、私達が一斉に彼に飛びかかっても、きっと彼を殺すことはできないだろう。
彼が発現した隠蔽之魔術、偶然私にも発現したが、彼はもう何度も合成していることだろう。
つまり、彼の「遊場廻転」なら、神にすら至る、と言うこと。
私達は、そんな彼の一瞬の隙をつくしか無いのだが……久しぶりにあった我が主は、随分と綺麗になっていた。
無駄な感情が削ぎ落とされ、心に表れる感情はすごく単純だ。
そして、想像よりもずっと強くなっていた。
彼が雲隠れした頃、私はレンジュアを連れて逃げ出すことに成功した。
私には、復活させないといけない人がいる。
そのためにも、今、ここで囚われるわけにはいかないのだ。
正直なところ心が痛んだし、そんな自分に驚きもした。
だが、私が本当にやらなければいけないことは別にあると思い出し、抜け出すことを決めた。
──彼は、初めて会った時からどこか不気味だったが、こう言うことだったのだろうか。
まあそれはさておき、私達はこの水晶内にいることで情報を共有することができる。
《不折王》が1度殺されたことや、《不折王》を殺した剣に見覚えがないこと、《不折王》の従者である《鼻》と彼が同じ年齢で、同じ学校卒業であること、など、驚いたことを挙げればきりがない。
主だった者に思いを馳せ、作戦を頭で構築していく。
ここで、彼とは完全に別れなければいけない。
そう。
ここまでは順調だった。
『生物が1匹死亡したことを確認しました。名は、《直感》のケッキカン・ショーョーです』
『ここにおいて、1日経過を宣言します。全員の能力を完全回復しました』
『今から2日目です』
『健闘をお祈りします』
ぱりん
《臆病王》の水晶が、割れた。
《臆病王》の顔を見ることは憚れた。
なぜかは知らないが、その時《臆病王》が金をはたいて買った「魔砲」を受け取り、喜ぶ《直感》の美しく可愛らしい顔が、血に染まった画像が頭に思い浮かんだ。




