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四十四:追い払う


 で、俺は立った。

 立ち上がった。

 膝を伸ばし、地面に足の裏をしっかりとつけた。



 立ってどうする?



 決まっているだろ。

 ()()()()()()()()()()()()



 そして、それは最悪の選択だった。



 この時をもって、少女の声は、絶望の中に閉ざされた。

「なんで……私を、覚えていないの」

 震える声が届くことはもう、一生無いだろう。

 最後の望みを絶たれた時、人はどうするか。



 何も考えたくなくなる。

 そして、それは神にとっても同じこと。

 しかし、あまりにもその影響力が大きすぎた。



 「操作権」の受け渡しが、完了しました。


⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥


 まずは開けた場所に出ようと様々な道を駆ける。

 だが、いくら進めども全く先が見えない。

 まさに「一寸先は闇」であった。



 しかし、決して何も見えないわけではない。

 道が途中で分岐していたり、曲がっていたりするところはなぜか鮮明に見える。



 でも、終わりが無い。

 いや、終わりがないと感じさせられている。

──つまり、永遠にここから出られないと、思い込まされている。



 最早ここまできてしまうと流石に絶望しかけるが、それでも最強になると誓ったからにはまずはここを抜け出さないといけない。



 ふと、分岐、曲がり道が遠くまで透けて見えた気がした。

「えっと、2の分岐、曲がり角を曲がり直進……え、それだけなのか!?」

 慌てて駆けるが、ここの道の作りなのか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()



──何かがおかしい。

 と気付くまでにそう長くはかからなかった。



 試しに左に大きく曲がりながら進むと……その場をぐるぐる回っていることが如実に分かった。

 ここで右に大きく曲がることとする。

 すると、今度はついに前に進むことができたのだ!



「なるほど、雲穿塔そのものが回転しているのか。いや、でもそしたらなぜ道が続いているのがわかる?」

 催眠にかけられている可能性も考え、頭を軽くふり、直後に大きくその場で回った。



 目を開けると、目の前で壁が回転している、ということを理解できるようになった。

「なるほど……これなら簡易な催眠で処理できるっていうことか」



 からくりに気付いて仕舞えばあとは簡単だ。



 さっき透けて見えた分岐と曲がり角を曲がると、ついに開けた場所に出た。

「これは、これは……」

 俺は何も言えなくなった。



 この場には14つの巨大な水晶があり、それぞれうっすらと異なる色に覆われていた。

 中には14人の人がいて、そのうち2人、7組に別れて水晶が設置されている。

 そして、ペアとなっている水晶は紐で繋がっていた。



『よくここまで辿り着きました』

『あなたにここで、1人殺す機会チャンスを授けます』



『特別に、「神之剣ダイダポーン」を一度だけ使わさせてあげましょう』

『ただし、その1人を倒すと隣の人物が目を覚ましますので、ご注意ください』

『それでは、健闘をお祈りします』



 そうアナウンスが流れ、気付くと俺の手には輝く黒い剣が握られている。

 そのを「神之剣ダイダポーン」と呼ぶ。



「ははっ、まさか、最っ高の機会チャンスがまさか俺の手に渡るとはな……」

 握りしめた拳は、歓喜に震えていた。



 何かの因果か、俺の目の前には巨人がいた。

「ほぉ、レンジュア以外の巨人か……《不折王》か?」

 即座に推理した俺は、これが脅威になると考えた。



 そう、この場に置いて絶対的立場にいるのは俺だ。

 なら、()()()()()()サユノマサを殺すべきじゃ無いのか?

 そう、考えたが、それはこの剣に頼っている、と思い直し、どこの誰とも知らぬ《不折王》を殺すことにした。

 やっぱり、最強は自分の手で降ろさないと面白くないからな。



 剣を振り上げ、落とす直前。

 ふと、俺がさっき対峙した2人の女はどこに行ったのだろうかと思いを馳せたが、結局忘れることとし、そのまま中にいる《不折王》ごと叩き切った。



 水晶が割れる音は聞こえず、代わりに肉が裂けるゴシュッとした音が重く鳴った。

 見ると、水晶は消え、その場には体を両断された《不折王》がそこにあった。



 その従者の姿を見て、一瞬体を硬直させてしまう。

 なぜだか名前は知っていた。



 エインベルグ=へーバー



 なぜ、彼女に見覚えがあるのだろうか。

 確か……彼女は《鼻》だったな。



 彼女は、ゆっくりと瞼を開ける。



ジュワ



 そんな効果音がついたように水晶が融け、蒸発する。

 ゆっくりと地に足をつけ、額にかかった髪を手で持ち上げ……目に入った彼女の口から漏れ出た言葉は、悲鳴でもなんでもなかった。



「やはり、こうなりましたか……「蘇生リサシティション」発動」

 魂の99%と生きている肉体の1%を捧げて完全な復活を可能とするスキル……だったはずだ。



 彼女が取り出したのは「生きている肉体」、つまり、「冷凍保存されている肉体」と、並々と注がれた「凍った血液」だった。

「「温暖」発動。対象をこの2つの容器に設定。注文は、完全な「蘇生リサシティション」の発動」



 蒸気が上がり、すっくと立ち上がるはレンジュアより遥かに大きな体躯を持つ巨人の《王》、《不折王》だ。



「ほぉ、貴様が我を……ん?エーヘ。どうした。奴に見覚えがあるのか?」

「いえ……学生時代の落ちこぼれだった彼に……「ナナキヒト」に似ているだけです……」

「はは、想い人だったのかい?」

「いいえ……今はそのような場合ではないので冗談はほどほどにお願いします」



「な、なんで生きている!?いや、それよりもその冷凍技術はまだ確立されていなかったはずだぞ!」

 おかしい……いや、巨人の一族が新たな技術を確立したってどこかで聞いた気が……。



「はぁ」

 彼女はため息をついた。

「やはりあなたでしたか……ナナキヒトさん」



 この言葉で頭が冷え、少し首を傾げる。

「ナナキヒト……?」

「あなたの名でしょう。そんなことも忘れるなんて。あの頃と変わりませんね」



「いや、俺はフール=リッシュエスタだ。そのナナキヒトって誰だ?」

「え?いや、ん?まあ、いいでしょう。つまり、あなたとすごく似た人のことです……まだ落ちこぼれのままですか。最強を目指すとか言っておきながらEXランクの下に付くなんて、あなたらしくもありませんね」



「おい、エーヘ。そこまでにしておけ。こいつは我を殺そうとしたのだからな……我が片付ける、下がっていろ」

「はっ」



 いまだに状況がよく理解できていない。

 だが、これがすごくまずい状況であることは、わかる。



 そもそも他のEXランク全てが襲いかかってきたらどうしようもない。



 つまり、俺には()()()()()()()()()()()()

「どうした?何を笑っている?」

 そんな声が聞こえたので自分の頬に指の腹を当てると、口角が大きく釣り上がっていることが感じられた。



──なるほど、俺は生来の戦闘狂いらしい。

「とりあえず、俺の糧となれ……「電光石火(黒)」発動。……条件は満たしているが、今日はあと3回しか使えないのか。しょうがない、「不滅の黒き彗星(ザ・ゴキブリ)」発動」



 頭から2本の「黒い稲妻」の帯が垂れ、体が黒き鎧で覆われる。

 鎧の表面には絶えず雷が走り、体の神経と脳の連動の効率を極限まで高める。

 グググッという効果音と共に、両肩からそれぞれ黒い腕が伸びる。

 少し透けて見える羽がマントのように背中の方に垂れ、鎧に流れる雷によって時々跳ね上がる



 最後に顔に仮面が付き、仮面に置いて口端に当たるところから、全てを噛みちぎる大きな顎が顕現する。

 完成された身体を覆う鎧の内側は黄色い光に満ちていて、動くたびに光が尾を引いている。



 この場において、「不滅の黒き彗星(ザ・ゴキブリ)」の発動が完了した。



──さあ、戦いのゴングを打ち鳴らせ。



 俺はその言葉に導かれるままに、大きく顎を打ち鳴らした。

ギチギチギチギチギチギチ──!



「なるほど、決してただの軟弱者ではないようだ……面白いッ!」

 対する《不折王》。

 その体から溢れ出す威厳とは、その場の全てのものを圧倒するほどの力を秘めている。



 彼が体を震わせると、たちまち周囲に漂っていた魔媒素が体の表面に纏ってゆく。

 それは塊となって固まり、鎧と武器を形成する。



 彼も、自身が生成した武器である真白のハンマーを盾に打ち付け、ゴングの代わりとした。



 いざ、生死をかけた狂人らの試合が始まる。

──どこか不安そうに戦いを見つめる《鼻》のエインベルグ=ヘーバーと、床に落ちている()()()()()()()()()()「神之剣」を脇に。


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